第77話 グラン・パルリエ攻防戦

 広大な城塞都市グラン・パルリエを全周に渡って攻撃できるだけの戦力を持たないエドゥアール陣営は、攻撃箇所を南側の二つの城門に絞った。

 百年戦争の終結後、城塞都市化計画として建設を開始した城壁はヴァロワの仮想敵国であるウェセックス連合王国の方向である北側から工事を開始した。

 その後、ヒスパーニャ王国向きの西側、エルンシュタット王国向きの東側と工事が続けられ財政難に喘ぎつつも数年前、ようやく南側の工事に着手したのだった。

 そのため未だに工事は完全には終わっていなかった。

 城壁に沿って外側に空堀が設けられているのだが、当初予定していたはずの吊り橋が完成しておらず、とりあえずの木製の橋となっているのは特に痛手だった。

 部隊を二手に分けると弓箭兵による弓の猛射で戦端はエドゥアール陣営側が開いた。

 城壁上にいた守備兵に損害が出始める。


 「チッ……銃兵は、城門のそばに隊列を組め!弓箭兵は、一旦城壁上から降りろ。騎兵は、隣の門で突撃用意をしとけ!トリスタン、頼むぞ!」


 ヴェルナールは、舌打ちをすると矢継ぎ早に指示を出した。

 エドゥアール陣営側の狙いは、弓箭兵が城壁上の守備側に攻撃を加えているうちに破城槌で城門を破ることと城壁登攀エスカラードすることにあった。

 もちろん、ヴェルナールもそれは承知のことで城門傍の殺人孔には、熱湯や石を用意させているし城壁登攀エスカラードのタイミングを待っているのだ。

 というのも城壁登攀エスカラードを行う際には梯子で城壁を登る味方への誤射を防ぐため、弓矢による攻撃はまはらになるからだ。

 そうなれば、守備側も城壁上である程度体を晒して迎撃を行うことが出来る。

 それまでは、降り注ぐ矢をひたすら我慢するのだ。

 

 「城の中にいる敵勢は、王位の簒奪者共だ!戦いの義は我らにあり!いいか!お前達はその槍を剣をもって簒奪者共を成敗する英雄となるのだ!かかれっ!」

 「「うぉぉぉぉぉっ!」」


 エドゥアールの言葉に、大歓声を上げて三千余の兵が二つの城門へと殺到し始める。

 

 「破城槌を近寄らせるな!」


 城門を破られれば後は肉弾戦、それはなるべく避けたい守備側は、殺人孔を使って応戦する。

 殺人孔からは、破城槌を操る兵らに向かってありとあらゆる者が落とされる。


 「盾だ、盾を持って来いっ」


 拳大の大きさの石を頭部に受けた仲間の死体の代わりに他の兵が破城槌の操作を変わる。

 そしてしばらくのうちに盾が兵士たちの頭上を守るようになると守備側も落とすものを変えた。

 

 「な、なんだ!?このべっとりとしたものは!?」


 そう、油を流し始めたのだ。

 そして十分に撒くと今度は、そこへ殺人孔から火矢を射込む。

 すると盾ごと油を浴びた兵士たちが火達磨へと変わる。

 そんな調子で城門を巡っての戦いが熾烈を極めている頃、城壁の上もまた激戦となっていた。


 「梯子を落としてし―――んぐッ!?」


 攻め手のかけた梯子を落とそうとした瞬間、眉間に矢が突立つ。

 そのまま矢を受けた兵士は、真っ逆さまに空堀へと落ちていった。

  その間にも自らを奮い立たたせるため喚声を上げながら梯子を登る敵兵。

 一見無策に見える大量突撃も、数の暴力である限りは有効な戦法だ。

 城壁上の兵士たちは勢いは落ちたとはいえ、敵弓箭兵の攻撃に耐えながら梯子を登る敵兵を迎え撃たなければならなかった。

 だが、敵も損害は大きい。

 頭数での損耗だけではなく、ほぼ全戦力を投じて戦闘に臨んで攻城戦が始まってから一時間が経過しても何の成果も得られずにいるのだ。

 何も実らない努力は肉体的にそして精神的にもくるものがある。


 「ノエル、今の時点で損害はどれくらいだ?」


 ヴェルナールは、脇に控えるノエルの手元を見て言った。

 ノエルは各部隊からの損害報告や、戦の経過などを一人で纏めていたのだ。


 「はいっ、現在味方の損害の総数は、重傷者と死者が三百程です」


 攻城戦において、攻め手は守備側の三倍の兵力が必要と言われていることを踏まえてヴェルナールは、敵の損失を予測する。


 「とすると九百くらいの兵力を敵は、失ってると考えても良さそうだな」


 守備側の兵力はヴェルナールの二千、コルヌイユの千五百、アレクシアの八百五十と優に四千を超え攻め手よりも多いのだから、こちらの三倍以上の犠牲は出てるだろうとヴェルナールは、予測したのだ。


 「なら、総兵力の半分くらいまで削ってやろう。トリスタンに伝えろ。アレクシア姉の騎兵とともに敵の本陣を突き崩せとな!」


 兵力で上回る現状、損害を出し続ける耐久レースをするつもりなどヴェルナールにはさらさらなかった。

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