第76話 問責の使者
『グラン・パルリエがセルジュ陣営により占拠された』という知らせは、ヴァロワ国内の諸貴族を震撼させた。
リールで王家直属軍を率いてベルジク軍と対峙していた宰相リシリューがこれを黙認したこともまた、諸貴族を騒がせた。
ロアール川を越えてシャルル陣営勢力の追討戦を行っていたエドゥアールは、追討戦を切り上げオルレアンに千五百の兵をシャルル陣営に対しての抑えとして残すと占拠から四日経ってグラン・パルリエの城門前に到着していた。
「我々の陣営に与していたはずのアルフォンス公が何故、不肖の弟セルジュと共にグラン・パルリエを占拠しているのか我が主君、エドゥアール殿下の前で説明していただきたいっ!」
エドゥアールが差し向けて来た問責の使者がヴェルナールに対しての目通りを願い、セルジュにコルヌイユ伯、アレクシアの居合わせる謁見の場で主君より託された口上を読み上げた。
「問責の使者の役目、誠にもって御苦労。帰って貴殿の主君に伝えてもらおうか。エドゥアール殿は、大きな思い違いをしていたとな」
「それはどういう意味か!?」
問責の使者は、こめかみに青筋を浮かべるといきり立った。
「そもそも私は、一言もエドゥアール殿のお味方をすると言った覚えはない」
「ならば、エドゥアール陣営が勝てるという発言は!?」
「シャルル陣営との戦いは、という前置きを置いてから発言したはずだ。その発言を曲解して継承権戦争で勝利すると思っていたとするのなら、とんだ愚蒙っぷりだな。大国に挟まれているこのヴァロワの統治は、務まらんよ」
「なんという無礼な発言か!?」
「私は一国の主だ、一方貴殿の主君とやらはどうなのだ?」
「公爵風情が身の程を弁えぬ発言、許し難し!」
問責の使者は、顔を怒りで真っ赤に染めると物凄い形相でヴェルナールを睨みつけ出ていった。
「少し言い過ぎなんじゃないか?」
脇の柱に背を預けて一部始終を見ていたアレクシアが言った。
「いいんですよ、これで冷静さを欠いて攻め込んで来てくれれば願ったり叶ったりなんですから」
エドゥアールは、こちらの兵力の全容を知らない。
ヴェルナール達は、ただの平地ではなく壁に囲まれた城塞都市にいるのだから外から中の様子は窺うことが出来ないのだ。
ましてや今まで力の無かったセルジュを御輿に担ぐ新興の陣営だ、対して兵力もいないだろうと高を括っているのでは?とヴェルナールは考えていた。
ここでエドゥアールが攻めかかれば、こちセルジュ陣営も戦闘をする大義名分を得ることになる。
しかも建前では、グラン・パルリエの住民を守ったと喧伝さえできるのだ。
そして現状、五千ほどの兵力を動員できるエドゥアールをもって放っておいていいわけがない。
今後のセルジュの治世を考えれば、潰しておきたいというのがヴェルナールの本音だ。
「さて、コルヌイユ伯に姉上、戦闘の準備をお願いします」
「心得た」
「わかりました」
二人はそれぞれの持ち場へと戻っていった。
「セルジュ殿、大船に乗った気分で待っていてください。我々が、エドゥアールの兵らを蹴散らしてご覧に入れましょう」
「それは心強いです」
こうして王位継承権戦争における最後の戦いが始まったのだった。
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