第78話 グラン・パルリエ攻防戦2
「全隊、適宜前進後に左に針路変更!進め!」
「「おおぉぉぉぉっ!」」
トリスタンの指示のもと、漆黒の甲冑に身を包んだアヴィス騎士団四百騎と正反対の白色の甲冑を纏うファビエンヌ伯麾下二百の騎兵が敵の攻撃を受けていない城門から勢いよく飛び出した。
土煙を巻き上げながら重騎兵を戦闘に突撃をしていく。
「食い止めろ!」
「本陣に部隊を呼び戻せ!」
エドゥアール軍の本陣にいた五百の軽騎兵が距離を詰めるアヴィス騎士団に気づいたのか、やや丘上の陣地から駆け下り始めた。
「雑魚に構うな!狙いは、エドゥアール一人だっ!」
トリスタンを先頭に鋒矢陣形を形成し突貫していく。
横隊陣形であるエドゥアール軍の軽騎兵に勢いよくぶつかると、まさに矢が突立つような形となった。
厚みのある陣形先頭で敵を食い破ると、六百の騎兵はそのまま通り抜けていく。
横隊陣形は、左右真っ二つに引き裂かれた。
「槍、突き出せぇいっ!」
本陣で指揮を執るメルクールは、軽騎兵が突破されると、どうにか呼び戻した四百余りの歩兵に槍衾を構築するよう命令する。
「動きはいいが、左右の備えがないッ!」
トリスタンは、メルクールの備えを見切ると
「ファビエンヌ勢は右側面へ回れっ!アヴィス騎士団は、左側面へ!」
槍衾を左右から挟撃することにしたのだ。
「なっ左右に別れおって!騎兵共は何をしているっ!?」
馬は一度走り出すと簡単に向きを変えられないため軽騎兵は方向転換に手間取っていた。
「側面へ回り込ませるなっ!」
長く重たい槍を立てて方向を変える歩兵にトリスタン麾下の騎兵が強引にねじ込むような突撃を敢行する。
左右からの挟撃という想定外の事態にメルクールの指揮と言えども即応できるはずはなく、歩兵達は一方的に蹂躙される。
「このまま本陣を突き崩せ!」
歩兵を蹴散らした六百の騎兵は、備えを失った陣地へと突撃していく。
その背に方向転換をした軽騎兵が迫るが、広く散らばった歩兵達が邪魔だった。
「このままでは、進路上に友軍が!」
「構わんっ!突っ込め!」
五百の軽騎兵が味方の歩兵を羽根飛ばしながらトリスタン率いる騎兵へと追い縋る。
「チッ!あてが外れたか……」
トリスタンは舌打ちすると打開策を口にする。
「ファビエンヌ勢はこのまま本陣へっ!アヴィス騎士団は、左右に分かれて軽騎兵の脇腹に食らいつくぞ!」
足を止めることなく大きくカーブを描いて方向を変えることを選択したのだ。
「なっ、敵が三集団に!?」
その事態に驚きつつも軽騎兵達は、ファビエンヌ勢を追うことにした。
あくまでも本陣を守れというメルクールの命令に徹した動きだった。
「ファビエンヌ勢に指一本触れさせるなっ!」
大きく弧を描いたアヴィス騎士団が左右から軽騎兵らへと突っ込む。
「あぁ……終わりか……」
散り散りになった歩兵を纏めようと指示を飛ばしていたメルクールは、本陣の方を見つめるとそう
◆◇◆◇
「そろそろだな」
城壁上で騎兵の動きを見ていたヴェルナールは、そう言うと城壁の階段を駆け下りた。
「お前たち、我慢はここまでだ!今こそ反撃のとき。銃兵構えっ!」
一斉に銃兵がマスケットを構える。
「城門開けろ!」
軋む音を立て木製の分厚い城門が開かれた。
その様子に驚いたのは敵勢だった。
何しろ、破城槌で突き破ろうとした城門が開いたのだ。
そして城門前で動きの止まっていた敵兵に対して
「放て」
ヴェルナールは、無情の命令を下す。
彼らが最後に見たものは、立ち上る紫煙とマズルフラッシュだった。
「山津波の如く押し出せ」
城壁上から弓箭兵の援護射撃を受けつつ城兵が二つの城門から一斉に打って出た。
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