第71話 計略始動
メルクールに宛てた書簡は、真実半分で嘘半分なものであったが、遣いの二人の報告によると信じて貰えたらしかった。
もっとも、あの野心家の考えそうなことを書いておいたので疑われる心配はしていないが。
ちなみに嘘半分にあたる、アルモリカの独立工作は俺がこれから実際に行うことでもある。
例え、ベルジクが既に工作に着手していたとしても確実に俺の仕掛ける工作が実を結ぶという自信がある。
あとは、メルクールがアングレームに事実確認を行わなければ、こちらの思い通りにことは進むだろう。
そして二人の報告から見えてきたこともいくつかあった。
一つはベルジクがスヴェーア人を介してシャルル陣営と繋がりを持っているということ。
泊まる予定だった宿所を襲った連中は、俺を案内した奴の身のこなしで大体の察しがついた。
スヴェーアの隠密部隊といえばやはり
つまりは何らかの形でボードゥヴァンは
アングレームは、俺の動向をシャルル陣営に伝えること、または俺の暗殺を手土産にエドゥアール陣営が負けた場合でも身の保身を図れるようにしていたと考えることができる。
しかし何故、スヴェーアの連中がボードゥヴァンに協力しているのか……それだけが未だに分からない。
俺との間の怨恨関係だけで敵対する陣営同士が結びつくことなどあるのだろうか……?
まぁ、今はそれはどうでもいい。
次にとるべき策は、俺の行動を敵陣営へと垂れ流しているアングレームを殺すことだ。
いや、殺さなくてもいい。
その行動を抑止できるだけの痛い目を味わってもらえばいい。
そのためにメルクールへ夜襲を行うことを伝えたのだから――――。
◇◆◇◆
ロアール川オルレアン市上流二キロ地点
北岸にはアングレーム率いる三千余の部隊が待機していた。
幸いにして今夜は新月、絶好の夜襲日和だった。
夥しい数の人馬が松明を灯すこともなくただ静かに命令を待っていた。
馬には猿轡を噛ませ、移動も用意周到に気取られぬよう小規模ずつ繰り返し行った。
「用意整いました」
部下から報告を受けたアングレームも甲冑に身を包んでいる。
公爵格の家柄ではあるがアングレームは元々武門の家で彼もまた例に漏れず前線に立って戦うタイプの人間だった。
ふーっと息を吐くとアングレームは、
「渡河開始せよ!」
と命令を下した。
先頭を行く騎兵が、ざんぶりと川面へと進んでいく。
そしてそれに追従するように歩兵たちも膝上くらいまでの水深のある川へと前進を開始する。
そして先頭を行く騎兵が対岸へ着こうかというそのとき―――――一斉に夜空に火矢が放たれた。
川の中腹で自らも渡河の最中であったアングレームの顔は絶望に染まった。
「放てー!」
対岸の堤から放たれる多数の矢。
新月の空には、その矢を照らすものもなくただ空気を切り裂く音のみが響いた。
今夜は新月、最悪の夜襲日和だった。
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