第67話 オルレアン攻防戦3
「おまたせしました……って言っても私のする仕事も無さそうですが……」
道幅いっぱいに広がった逃げ場のない騎兵突撃によってミュラン通りは、敵部隊の屍で溢れていた。
歩兵達を連れて来たベルマンドゥワは呆れ混じりに言うとヴェルナールに駒を並べた。
「ベルマンドゥワ伯、あとの処理はお願いしていいかな?」
大将であるヌヴェール公を討ち取った今、ミュラン通りの敵の士気は著しく低下していた。
それとは対極的に、防戦一方だったエドゥアール陣営部隊の士気は、攻守が切り替わったことを知るや爆発的に上がっていた。
「お任せ下さい。降伏を希望する者たちに降伏を許しても構わないですか?」
「それは勿論。戦後のヴァロワの原動力なのだから助ける数は多い方がいいでしょうな」
セルジュの即位を目論むヴェルナールは、セルジュによる新体制を擁立した後、すぐにでもヴァロワには西に対する壁となって欲しいと考えていた。
そのためには軍属の者達を殺すことはなるべく避けたかった。
この内戦は、国防力を含む国力を疲弊させること以外の何ものでもないのだ。
さりとて、シャルル陣営もエドゥアール陣営もいい感じに潰し合わせなければならず、加減が難しい。
「騎兵隊、次はサン・マルク通りで味方を救う英雄になるぞ!」
「「「おぉぉぉぉぅっ!」」」
借り物である騎兵たちの反応も心なしか良くなってきている。
それはヴェルナールが指揮官として認められていることの証だった。
先頭と最後尾を入れ替えた五百の騎兵は、再び走り始めた。
◆◇◆◇
「ミュラン通り味方の一隊、一斉に退きます!」
「鮮やかな手並みだな。指揮官は誰だ?」
アングレームは物見に尋ねた。
「はっ!アルフォンス公に御座います」
「そうかそうか!アルデュイナの化身というのも眉唾の誇張された話というわけではないわけだ!」
大聖堂にある塔の最上階から眼下にヴェルナール率いる騎兵の動きを見ながらアングレームは上機嫌そうに言った。
「よし、そのまま走ってアルフォンス公現るの報をシャルル殿下に伝えてこい」
「かしこまりましたっ!」
物見の男が急いで塔から降りていくと一声、
「明日の朝までお主の首は繋がっているかな?くくくっ」
アングレームは、不敵な笑みを浮かべてそう漏らしたのだった。
エドゥアールの後見にしてエドゥアール陣営最大勢力の貴族であるこの男が獅子身中の虫であることをエドゥアール陣営の諸貴族、そしてヴェルナールもまた知らなかった。
アングレームは、シャルル陣営にとり驚異であるアルデュイナの化身の動向をシャルル陣営に伝えることで、シャルル陣営が勝ったとしても保身が出来る、そういう算段だった。
◆◇◆◇
物見の男は、激戦地となっている大聖堂を抜け出ると通り沿いの家屋の屋根の上を走り抜けある家へと姿を消した。
そこがヴァロワ朝領内における
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