第66話 オルレアン攻防戦2

 行軍速度を上げるために用意した大量の荷車に歩兵達の武具を乗せ戦場に近づいたら武具を身につけさせるという方法で、どうにか丸一日の行軍でオルレアンに到着することが出来た。


 「アンドレー、敵情わかるか?」


 ノエルの代わりにヴェルナールの傍で駒を並べているのは、随伴員達を率いるアンドレーだった。

 ノエルはレティシアを守るためグラン・パルリエで留守番をしている。

 というのも、ベルジクが絡んで来ている以上、人質を取られる可能性をヴェルナールが考慮したからだ。


 「間諜の報告によれば、この先のミュラン通りに三千、それから一本西側のイリエ通りに二千、東側のサン・マルク通りで友軍が包囲されているとか……しかし、ノエル殿のように上手く行きません」


 恥ずかしそうにポリポリと頬をかいた。

 慣れない間諜達との仕事にアンドレーは、手間取っていた。

 何しろ間諜の寄越す情報量は膨大で、それを上手くまとめあげあるいは上手く擦り合わせてから報告しなければならないのだ。


 「その話の通りなら、まずはミュラン通りの敵をつき崩す!」

 「包囲されている味方の救援では無いのですか!?」


 そこに後方を駆けていたベルマンドゥワ伯爵が身を乗り出してヴェルナールに質問をする。


 「あぁ、我々が優先すべきことはなんだ?」

 「味方の救援です」

 「その味方を率いる者は?」

 

 そこまで言うとベルマンドゥワは、ハッとした顔になった。

 ヴェルナールの言わんとしたことを察したらしかった。


 「アングレーム公の命ですね!?」

 「そういうことだ。敵情報告にあったものの中で最も敵が圧力をかけてきている場所は、ミュラン通りだと思われる。というわけでベルマンドゥワ伯、あとから歩兵達を率いて来てくれ!」

 「はいっ!ってちょっと!」


 突然の指示に戸惑うベルマンドゥワを尻目にヴェルナールは、


 「軽騎兵、我に続け!」


 一声そう発すると馬に鞭をくれ馬速を上げていく。

 そして馬上槍を構えた。

 後にベルマンドゥワはヴェルナールについて手記で『自ら戦闘で突撃をする勇ましき貴族の鏡である。己もかくありたい』と記したのだが、もちろんヴェルナールにはそんなつもりは無い。

 セルジュを王位継承権戦争に勝たせるために致し方無く槍を握っていた。

 人っ子一人いない閑散とした通りを砂塵を巻き上げながら爆走する騎兵は、数分で敵部隊の後ろを捉えた。

 喧喧囂囂けんけんごうごうの戦場と言えど、五百余の騎兵の接近する足音はさながら地響きのように響く。


 「てっ、敵騎兵!?」

 「すわっ、何事ぞっ!」


 目の前の敵に夢中になっていたミュラン通りのシャルル陣営部隊も騎兵の接近に気付くが、邀撃の準備が整うほどの時間は無い。


 「くっ来るなぁっ!」

 「や、槍衾をっ!」

 「盾兵は来んか!」


 エドゥアール陣営の部隊を後退させ押せ押せで勢いに乗っていたミュラン通りのシャルル陣営部隊は一気に蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 

 「敵将の旗印だ、敵将を討ち取れー!」

 「「「おぉぉぉぉぉぉっ!」」」


 おおよそ指揮官とは自身の部隊の後ろよりにいるもの。

 その例に漏れずミュラン通りの攻め口を受け持つヌヴェール公は、部隊の最後尾にいた。


 「儂を守らんかっ!愚図共!」


 ヌヴェール公は慌てて自身の部隊をかき分け逃げようとするが、指揮権を持つヴェルナールに敵将を討て命令された軽騎兵達がその背中に追い縋るように食らいついた。

 そして間もなくのうちに


 「ヌヴェール公を討ち取ったりー!」

 

 一人の騎兵が高らかに叫ぶ。

 指揮官を失い前後から挟まれるという境地に立たされた敵部隊はそこからあっという間に瓦解しだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る