第65話 オルレアン攻防戦
「イリエ通り、突破されました!」
「ミュラン通りに敵勢三千が!どうか増援部隊を!」
「サン・マルク通りの味方部隊、包囲されました!」
その日、早朝から始まったシャルル陣営による大攻勢にオルレアンは市内は混乱を来たしていた。
特にエドゥアール陣営の指揮所が置かれているサン・クロワ大聖堂周辺は、激戦地と化してる。
「あの馬鹿めがこのような策を弄するからっ!」
現場の指揮を任されているアングレーム公は、自分もその策に賛同した張本人であるにも関わらず、口汚く主人であるエドゥアールを罵った。
新興貴族の多いエドゥアール陣営の大半は、戦の経験がなく全くといっていいほど実戦を知らなかった。
そのためにオルレアン攻防戦が始まるとあっという間に戦局は不利に傾いた。
「予備の兵は残っているか!?」
アングレーム公は自分の側近に問い質すが頷く者は一人もいない。
既に五日目へと突入したオルレアン攻防戦は熾烈を極め、二千はいたはずの予備兵力も既に枯渇していた。
アングレームは苛立たしげに爪を噛むと
「チッ……防衛線をジャン・ザイ通りまで下げさせろ」
舌打ち混じりに命じた。
全ての通りは、街の中心である大聖堂へと向かっているため、防衛線を下げると通り同士の距離が縮まり相互支援が可能になるとアングレームは考えていた。
だが、その大聖堂も四日目の時点で包囲下に置かれておりどこまで耐えれるかは疑問だった。
そこに舞い込む一つの報せは、エドゥアール陣営をさらなる苦境に立たせる。
「南面第三陣地、兵を解きました!」
「どういうことだ!?」
「申し上げにくいのですが……裏切りかと……」
オルレアン攻防戦も五日目に至りついに裏切りが出ることとなったのだった。
「誰の部隊だ?」
「はっ、アンジェルジュ子爵かと……」
オルレアンを守るエドゥアール陣営の部隊には勿論、多数の貴族が参加している。
貴族というのは欲が皮を着て歩いているようなもので利に聡い者も多かった。
アンジェルジュ子爵もその例に漏れず、シャルル陣営の調略の手に掛かっていた。
「追討部隊を向かわせろっ!」
アングレームは口角泡を飛ばして命令するものの
「そのような兵力はありませぬっ!」
そう言われればどうしようもなかった。
南面の防衛陣地の一角を失ったことの影響は大きく南面に対する敵の圧はさらに増すこととなった。
そこに北から一隊が接近しつつあるとの報告が入ってくる。
「報告!ミュラン通りより千余りの新手が!」
新手の出現に対して迎え撃つ余力のないアングレームは思わず天を仰いだ。
「申し上げます、ミュラン通りに現れた新手、敵へと攻撃を開始しました!」
その報告に思わずアングレームは、耳を疑った。
「何だと!?新手は味方か!?」
「部隊の指揮官まではわかりませんがその可能性が!」
「これは天啓かっ!よし、ミュラン通りのみ限定攻勢に切り替えろ!」
口早にそう命じたアングレームの表情には、若干の余裕が戻っていた。
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