第64話 提案

 リールから帰って来るなり今度は、エドゥアールに呼び出された。


 「ベルジクに参戦要請を出していたとは驚きだ」


 さすがに自信家のエドゥアールも、他国の参戦となったためか焦りを覚えているらしく椅子に座らず部屋を落ち着きなく歩き回っていた。


 「まぁ、何と言うか彼は野心家ですからね」

 「同じユトランド評議会繋がりでどうにかならないのか?」


 それはさっき試してきてどうにもならなかったところだ。


 「どうにもなりませんでした」

 「ヴェルナール殿をもってしてもダメだめか」


 エドゥアールが落胆したように言った。

 まぁとりあえずの所は、抑えの兵を置いておけば問題はないと思うんだがな。

 問題は現在の戦況で抑えの兵を割けるかという点だ。


 「エドゥアール殿、本日時点での戦況を教えて貰えますかな?」


 そう訊くと、何故かエドゥアールは口ごもった。

 それだけで大体の察しはつくというもの。

 おそらく、思わしくない状況なのだろう。


 「実を言うとだな……」


 言う出すまでと、エドゥアールの目を見続けているとようやく、渋々といった様子で重たくなった口を割った。


 「冬からオルレアンを巡る戦闘は膠着状態だったので、敢えて街へと敵勢を引き込み叩こうという策に切り替えたのだよ」

 「それで?」


 子供を諭す親の気分で話を続けるよう促す。


 「だが予想外にも戦闘状況は良くない。少しずつ後退させられている」


 コイツは街を城と勘違いしたのだろうか……。

 城を落とすには城兵の三倍の兵力が必要と言うが街など突入されれば、完全に戦況は指揮官の肩にかかるに決まっている。

 進まない戦況に焦って打った一手がこれなのだろうが冬の間に考えて出てきた一手がこれかと思うともはや溜息しか出ない。


 「何とかしてくれないか?」


 俺に頼むというのはお門違いと言いたいところだ。

 俺はお前の家臣でもなければ親でもない。

 自分の失態は自分でどうにかしろと言いたい。

 だが問題は、このまま手をこまねいていてはオルレアンの防衛戦をシャルル陣営に突破されてしまう。

 ヴァロワの領土を南北に分断するロアーヌ川沿いの防衛拠点を疾患するのは、双方の兵力が拮抗している現状、かなりの痛手だ。

 天然の要害オルレアンを失うのがどれほどの損失かをこの皇子は分かっているのだろうか……。


 「そうですね、三千程の部隊の指揮権を渡してくれればどうにかしてみせましょう」


 別に軽騎兵の五百も貸してくれればそれで十分なのだが、オルレアンの陥落を防ぐこと以外に俺にはもう一つ、やらなければならないことがある。

 そう、エドゥアール陣営の兵を適度に削っておくことだ。

 セルジュを即位させるために最後は、このグラン・パルリエでの戦闘となるだろう。

 その時に容易に勝てる状態を作って置かなければならない。


 「わかった、用意させよう。とりあえずはグラン・パルリエより千、後は現地の部隊を指揮下に組み込めるよう一筆認したためておく」


 戦局挽回に焦るエドゥアールは、迷うことなく了承した。

 これが普通の人間だったら、他国の人間に大規模な部隊を預けるような真似などしないだろうと考えるとますます頭が痛くなってくる。


 「一刻も早い方がいい。明朝出発できるようお願いします」


 そう言って俺は退室した。

 これ以上、エドゥアールと話していても馬鹿が移るだけだ、と心底そう思った。

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