第60話 ボードゥヴァン蠢動
「ほぉ……
ブラバント城謁見の間で向き合うボードゥヴァンと素性の知れぬ隻眼の男。
「我が手の者による報告、間違いはないかと」
そう言って隻眼の男はニヤリと笑った。
「ならばこちらも動くとしよう。受けた借りは返さねばなぁ?」
アルデュイナでの敗北、さらにはユトランド半島での損害によって相当な痛手を受けたボードゥヴァンは、ヴェルナールのことを快く思うはずもなく常に復讐の機会を窺っていた。
受けた損害から立ち直ったわけでは無かったが、それでも二千にまで落ち込んだ動員兵数は、冬の間にどうにか三千近くにまで回復していた。
「我々も頭目であるニルセンと多くの仲間を失った過去があります、可能な限りの支援をお約束しましょう」
「頭目が変わっても
自ら喧嘩をふっかけておいて返り討ちにあったのでは気が済まない両者は、互いの復讐のために意気投合している。
と言っても話を持ちかけたのは野心家と名高いボードゥヴァンからだ。
アルフォンス大公国のように諜報部隊を持たないベルジク王国が、短期の契約でスヴェーア王国から諜報員を借りたのである。
ヴェルナールの活躍により多くの騎兵を失ったスヴェーアも積極的にこのボードゥヴァンの復讐に絡む姿勢をみせている。
「と決まれば、早速にも出陣の用意をせねばならんな」
ボードゥヴァンは髭をしごきながら言った。
するとそこへ、靴音を響かせながら壮年の男が入ってくる。
「少しばかり遅れましたこと、ご容赦願いたい」
「おぉ、レンヌ商会の!」
大陸でも屈指の規模を誇るレンヌ商会もまた、ベルジクとは親しい間柄にあった。
というのも諜報機関を持たないベルジク王国は昔から情報源として大陸に広く根を張るレンヌ商会を利用していた。
「なぜ遅れたか申してみよ」
ボードゥヴァンが訝しげに詰問すると
「道が混んでいたのですよ。おかげでアルモリカ半島から出るのに時間がかかってしまったのです」
特に申し訳なさを滲ませるわけでもなく、男はつらつらと理由を並べ立てた。
「やはり独立紛争が起きるので?」
隻眼がそう尋ねるとレンヌ商会の男は頷いた。
「アルフォンスがエルンシュタットとの独立戦争に踏み切ったこととヴァロワの内戦で連中にも火がついたらしい」
ボードゥヴァンは、それを聞いてただ腕組みをして思考を巡らせた。
「爆発させてやればシャルル陣営への良い手土産になるかもしれんの」
何しろアルモリカ半島は立地的に言えばエドゥアール陣営勢力下の後背に位置する。
そこでヴァロワ朝に対しての独立紛争が始まれば、エドゥアール陣営はそっちへも兵を割かなければならなくなるのだ。
「隻眼よ、工作を頼めるかな?」
相手は自分の臣下ではなく他国の臣下、依頼するようにボードゥヴァンが言うと
「手隙の人員を回しましょう」
隻眼の男は静かに言った。
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