第59話 騎士道精神

 ガエタンは剣を振りかぶりもせず所謂、中段の構えのような姿勢をとった。

 攻撃が上に来ても横に来ても下から来ても対応できるオールマイティな構え方だ。

 対するヴェルナールもやはり同じような構えをとる。

 そして互いにすれ違うと甲高い金属音を響かせた。

 隙のない構えを互いに選んだために一合目では、勝負は決まらなかったのだ。

 即座に馬首を返すと二合目の刃を交わす。

 ガエタンは手首を捻ってヴェルナーの脇腹を裂きに来たのだが軽くその剣を払われてた。

 そして三合目、今度はヴェルナールが仕掛けた。

 ガエタンの進路上に自らの進路を被せると当然、ガエタンは避けるために進路を変更させる。

 そのとき、速度が僅かに落ちる。

 それを狙い目と判断して、わざと自身の体に近いところでガエタンの攻撃を払いすれ違いざまに甲冑の無い部分であるガエタンの背へと剣を走らせた。


 「ぬおっ!?」


 だが、僅かに剣に深さが足りず浅い傷に留まる。

 四合目、今度はガエタンがヴェルナールに自身の馬をぶつける格好となった。

 軽騎兵であるが甲冑を身につけている分、そして体格差の分でガエタンの方が重い。

 それを考慮しての攻撃なのだろう。

 ヴェルナールは、瞬時にその意図に気付くとすぐさま巧みに馬を操り躱してみせた。

 そして剣を走らす。

 

 「甘いな!」


 ふんっ、と鼻で笑ったガエタンは容易に四合目のヴェルナールの剣を避けれた理由が馬首を返すその瞬間まで分からなかった。

 馬首を返そうと手網を操るのだが、上手くいかない。

 そしてはたと気づいた。


 「おのれ、手綱を切ったか!?」


 ぐわっと後ろを睨むがもう遅かった。


 「残念だったな、そういうことだ」


 馬を飛び降りればガエタンにも活路はあったのかもしれない。

 しかしガエタンは馬から降りなかった。

 振り向いたときには、剣を振りかぶったヴェルナールがいたのだ。

 無情にも振り下ろされた剣は、ガエタンの腕を切り落とした。

 そしてガエタンは血飛沫をあげながら落馬した。

 その脇にヴェルナールは降り立つ。


 「冥土の土産に教えといてやるよ」

 「好き勝手ほざきおってっ!」


 ガエタンが悪態をつくがそれを意に介さずヴェルナールは続けた。


 「ノエルは、騎士道精神じゃ飯は食えないと言った。勿論その通りだ。それはお前も今、身をもって知っただろう?」


 騎士道精神に則った勝負でガエタンは、その命を失おうとしている。


 「その言葉に反発してか知らんが、お前は騎士道精神に則って俺と勝負することを望んだ。でもな、お前はノエルに対して何て言った?」

 「チッ……」


 ヴェルナールに問い質されてガエタンは、その過ちに気付いた。


 「そもそもお前の言う騎士道精神とやらは間違ってたんだよな。いいか?騎士道精神ってのはな勇敢であること、その上で相手の名誉を重んじレディーファーストを守るってのがその根幹だ」


 残った片腕で剣を握ろうとするガエタンをヴェルナールは残念そうに見つめた。


 「間違えた騎士道精神を信望してたんじゃ勝てるわけない」


 正論を突きつけられたことに苛立ってか


 「黙れ黙れ黙れ―――――――」


 憤怒の形相で叫んだガエタンだがその言葉はそれ以上続くことはなく、自らの血溜まりに沈んだ。


 「ノエル、ご苦労だった」


 ガエタンの手下の四人を始末したノエルを労うと二人は馬車へと静かに戻った。

 ヴェルナールは、大陸西側の貴族で武の心得ある者の多くが本懐とする騎士道精神について思うところがあったのだろうし、ノエルはそれを慮ったのだ。



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あとがき


お陰様をもちまして35pvとなりました。

これからもよろしくお付き合いください

余談ですが昨日投稿の話でのガエタンの言葉は、ちょっぴりベルゼルクの2章に毒されたかなと我ながら思いました笑


そんでもって新作『転生したいと言ったけど魔王の顧問役になるとは聞いてない』を本日より連載開始しました。

⬇️


https://kakuyomu.jp/works/16816927862060852445


こちらから読めますのでお時間があったら是非!

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