第47話 スヴェーアの死虚戦士
中庭へと踏み込んで来たニルセン配下の十八人に対して俺の配下は二十四人だ。
こちらは麾下の部隊からの選りすぐりと、暗闘に長ける間諜達からなる護衛だ、数で優るのなら勝利は確実だろう。
やはり三つに分けさせて正解だったか……。
だが敵も相当な手練れなのだろう。
数で劣るにも関わらず互角に戦っている。
「ぐおぉっ!?」
目の前にいた護衛の一人が首から血飛沫をあげて倒れた。
「その首、貰い受ける!」
そのまま護衛を斬った敵が間合いを詰めてくる。
そして鋭い突きを放ってきた。
後ろに避けるという選択肢は無い。
なぜなら後ろに反れば体勢が乱れその隙を狙われるからだ。
それ故に刀身の側面で受け流す。
「なっ!?」
体重を乗せた鋭い突きをいなされた敵は、僅かにバランスを崩して前屈みになった。
そこが狙い目だ――――相手の突き出された長剣伝いに手首を斬り落とす。
一人切り伏せた所を隙ありと見たのか次は二人の敵が仕掛けてくるが、
「閣下、お守り致します!」
と手近な敵を倒したノエルが身を翻しダガーを放つ。
近距離で放たれたダガーを避けることが出来ずに腹に受けた敵はそのままその場に仰け反った。
「ナイスだ」
中庭は完全な乱戦状態で目が暗闇に慣れていなければ敵味方の判断さえつきづらい程だ。
そして俺は敵と実際に切り結んで、はたと気づいた。
夜目にも目立たない漆黒で染めたような装束を纏った敵は、おそらく
剣の道を志したものでも軍事教練を受けたものでもない剣さばき。
言うなれば、相手を確実に殺すことに特化した剣だ。
となれば相手の組織の名前も分かる。
「お前ら、『
おそらくスヴェーアの工作員組織だと見当をつけた。
無論、相手は名乗るはずもなく声は出さない。
「沈黙は肯定と同義だな」
スコーネ神話になぞらえて『
その手口は鮮やかで、仕事の後には証拠となるものを一つとして残さずただ死のみを遺して行くのだ。
だが前線から離れた後方に彼らがいるという事実がどうにも引っかかる。
戦時において敵の後方撹乱を任務とすると言うのなら納得はいくのだが……。
彼らが名乗る解放軍という存在、住民に怪しまれているふうでもないからこそ、ダンマルク国民ばかりのこの街に居続けられるのだろう。
と考えれば、解放軍は住民達に受け入れられる存在というわけだ。
住民達は、彼らにスヴェーアからの解放を期待するはず……しかし、中身がスヴェーアの回し者であるから一向に動きを見せない。
これに疑いの念を抱かないのだろうか?
いや待て、疑いを抱かないのが当たり前だとするならば、スヴェーアからの解放を目指していた組織はあったということになるのでは?
そう考えると、解放軍なる組織はもう一つあるということになる。
つまり『
「 ノエル!」
敵の突き出された剣の剣先を虚空へと逸らし逆に距離を詰めつつ近くで戦うノエルに声を掛けた。
「お前たちは偽の情報を掴まされ騙されたわけじゃないらしい。解放軍は実際に存在するはずだ。今はもう過去形かもしれんが」
あえて戦いの最中に声に出して言ってみせたのは敵の動揺を誘うためだ。
その実、戦闘を継続しながらも敵の意識はしっかりと俺に向けられている。
「ということは、解放軍を潰すためにこの者達は動いていると?」
「おそらくそうだろうな、でどうなんだ?」
中庭の隅へと追い詰め四人となったニルセン達に問いただす。
すると芝居がかった仕草でニルセンは首をすくませた。
「バレちゃ生かしておけねぇなぁ」
およそ解放軍指導者として夕食の場で話し合ったときとは違う口調。
これが彼の素なのだろう。
「俺の手下共が戻ってくるぜ?」
廊下の方からは大勢の走る音が聞こえる。
「その言葉を聞けただけで十分だ。ノエル、あれを」
「御意」
ノエルは頷くと黒い球体上のものをバッグから取り出す。
そして躊躇なくその導火線に火をつけた。
「そ、それは!?」
さすがに大陸中で暗躍するくらいの者であれば知っているか……。
「この屋敷の主は、自室の床下にこんなものを隠していたらしいな」
「正気か!?お前も死ぬんだぞ!」
「構わないとも」
ノエルは一つをニルセンに向かって、そして三つを敵が迫る廊下に向けて投げ込んだ。
投げ込まれた球体の正体は、『テッサリアの火』と呼ばれるもので火薬を詰めた容器に導火線のついた携行可能な武器で主に大陸東部で使われている。
ちなみにニルセンらに向かって投げたものは、中身の火薬を抜いてあるので傍にいる俺達に危害が及ぶことは無い。
「チッ、お前達、来るなぁぁぁぁっ」
投げられた球体をみて、運命を悟ったニルセンは声の限り叫んだ。
その瞬間―――――廊下で爆音が響いた。
中庭の隅へと追い詰められたニルセン達四人は、己の運命を悟ったのか顔を伏せる。
俺は、ノエルに目配せを送った。
即座にノエル達は、ニルセンら四人に駆け寄ると武器を奪い取り首の後ろに鋭い手刀を見舞った。
「お前達に汚れ仕事はさせたくないが、廊下にいる連中で息のある者は始末しろ」
俺は、そう指示を出してから剣に付いた血糊を払った。
『
その意図に気付いたのかノエルは
「助かります」
と言って頭を下げた。
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