第46話 襲撃

 「閣下、囲まれました」


 意識が落ちかけたとき、ノエルに肩をつつかれた。

 敵の油断を誘うためとは言え、やっぱり暗くしすぎたか……。

 夜半を過ぎた頃、予想通りにニルセンとその仲間と思しき連中に囲まれることになった。


 「最悪のケースだが、ある意味予想通りと言えるから最良のケースかもしれないな」

 

 このタイミンクで襲撃されなければ、いつ襲撃されるのかとヒヤヒヤし続けなければならないだろう。

 

 「家の中に引き込んでから殺るぞ」

 「御意」


 昼間に見たとき、連中の得物は長剣であることは確認しておいた。

 野戦においては長さの行かせる長剣も、屋内ではかえって長さが邪魔でしかない。

 一方こちらは、暗殺まで行う間諜達を待機させており彼らの得物は短剣だ。

 屋内ではこちらに分がある。

 そして、早いうちから屋敷内の明かりを落とし、夜目に慣れさせて置いたのだから備えは万全だ。

 建物の構造上、大きめのエントランスから侵入すれば敵は三つの経路に分かれるわけだがそのうちの二本は奥の方で行き止まりにしておいた。

 というのも屋敷の補修用の建材で手短に工事を済ませて置いたのである。

 つまるところ、敵は最終的に中庭を突っ切る一本の廊下を通らざるを得ない。

 そこを狙えるよう少数ではあるが屋根上にも待機させている。

 

 「さぁ、いつでも来てみろ」


 そう言って不敵に笑ってみせた。


 ◆◇◆◇


 「はっ、馬鹿め!玄関を開けたままでいやがる」


 ニルセンは、鍵のかかっていないエントランスの扉を見て意図されたものとも知らず小馬鹿にした。


 「どうしやすか?」

 「窓割らずに済むんなら音でバレねぇ、エントランスから仕掛ける!」


 そう言ったニルセンが獲物の長剣を抜いたのを合図に五十人程の彼の部下が一斉に白刃を月夜に煌めかせた。

 そして音も立てずに屋敷へと侵入して行く。


 「何か小細工がないか探しておけ!」

 

 エントランスに入ると小声でニルセンが指示を出していく。

 すると部下たちは、慣れた手つきで周囲の捜索を始めた。

 エントランスに仕掛けがあって退路を断たれることをニルセンは恐れたのだろう。

 

 「何にもねぇ」

 「金目のものすらな」


 短時間で捜索を終えると部下達は、一旦エントランス内で三つの集団に分かれた。


 「アルフォンス公は見つけ次第殺せ!本国への手土産にするからな!行け!」


 ニルセンの指示でそれぞれの廊下へと部下達が侵入していく。

 もちろんニルセンは、真ん中の廊下を選んだ。

 だが中庭にさし掛かろうとしたとき、異変は訪れた――――。

 無数の風切り音と共に彼の前を歩いていた部下達が倒れる。


 「さ、下がれ!」


 咄嗟にニルセンは、そう判断した。

 矢に射抜かれた彼の部下達は呻き声を上げながら悶え苦しむ。

 その姿を見てニルセンは自分達の相手の正体を悟った。

 そして再びの風切り音と共に先程までいた場所に矢が突立つ。

 自分の影が射止められたことにニルセンは息を飲む。


 「こんばんは、ニルセン殿。待ってたよ」


 勤めてにこやかに、けれど静かに怒気を孕んだヴェルナールの声。


 「なっ、貴様なぜっ!?」


 今から寝首を掻こうとした相手が目の前にいる事実。


 「まさかこんなことになるとは残念だ」


 ヴェルナールは、白々しく言って見せた。


 「チッ……お前達、得物は目の前だ、かかれ!その口、二度と喋れなくしてやる!」


 ニルセンの指示でのもと、彼の部下であるスヴェーアの工作員達が地を蹴った。


 「おぉ、怖い怖い」


 ヴェルナールはそう言って剣を抜くと護衛らと共に乱戦に身を投じた。

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