第45話 ノエルとヴェルナール

 互いに当たり障りのない話をし終えた後、スヴェーアの補給線を遮断する作戦についての打ち合わせは、明日ということで夕食での解放軍指導者ニルセンとの会談はお開きとなった。


 「ふぃー……こっちが気付いたことを悟らせないためにどれほど気を使ったことか」


 護衛兼補佐役となったノエルの前でだらしない姿を見せるのも今日ぐらいは致し方ないってもんだ。

 ノエルがいるのも気にせず部屋着へと着替えるために服を脱いだ。

 

 「ちょっ、閣下!?私がいるのに!」


 手で顔を覆ったノエルだが、指と指の隙間からこっちを見ているのはバレバレだ。


 「仮にも臣下の前なんですから、しゃんとして頂かないと」


 部屋着に着替えて寝台に横になった俺に対してノエルは立ったまま、ぷりぷりと怒った。

 もちろん夕食の席では酒も出されたが襲撃される可能性がある以上、飲むわけには行かず出された酒は全てノエルが呑んでいた。


 「トリスタンとは、家族仲みたいなもんだしお前も変わらんだろ」

 「それはそうかもしれませんが、他の臣下の手前もあります」


 酒をしこたま呑んだせいか、顔の赤いノエルはそう言うと地図を取り出した。


 「どっちみち襲われそうですから、今のうちに対策でも練っときましょう」

 「確実にあいつらが黒と決まったわけじゃないがな?」


 まぁ俺も七割黒だと思っているが……。

 思い返してみれば不審な点は他にもあった。

 ニルセンは、この街の周囲のスヴェーア軍を無力化したと言っていたが、補給物資揚陸地点近くの街をスヴェーア軍が簡単に明け渡すはずがないのだ。

 

 「それとなノエル、俺は逃げるつもりは無い」

 「と言いますと?」

 「俺達だけで、補給網を断つ」


 やると言った手前、今更退くのは格好がつかない。

 それこそボードゥヴァンに後から何か言われるのがオチだ。

 例えば「貿易に釣られて買って出たものの出来ないとはいささか恥ずかしいのぉ」とか……言いそうなことを想像しただけでボードゥヴァンの声まで聞こえて来そうだ。

 なので、舐められるくらいなら……と言うわけである。


 「相手がどれくらいいるのかも分からないのですよ!?」


 ノエルは心底心配そうにするが


 「こっちも応援が来るんだろ?そうすれば相手もこっちの数が分からないわけだ」


 舐められるのも嫌だが、戦費がこれ以上嵩むのは御免だ。

 既にベルジク軍との戦いからだとかれこれ三週間近く軍を動員している計算になる。

 エルンシュタットからの独立戦争すら終わっちゃいないというのに、これは痛すぎる出費だ。

 それに加えて、補給を断って和平交渉に持ち込まなければ後は、小細工無しの戦闘となるわけだから損失を出すことに繋がる。


 「それだったら可能性に賭けるさ」

 「閣下を守り通せるか分からないのです」

 「なに、俺は剣ならノエル以上には使えるから心配するな」


 そう言って笑ってみせる。

 

 「なっ、それじゃあ私が護衛として役立たずみたいじゃないですか!」


 そう言うと心配そうな顔のノエルは途端に不満そうな表情へと変わった。


 「冗談だ、ノエルを元気付けるためのな?」

 「全く元気になれないんですけど!?くすくすっ」


 口ではそう言いつつ自然に笑みを零すノエル。

 実を言うとニルセンが解放軍の指導者では無いという話になってからノエルは目に見えるほど気落ちしていた。

 自分が間違った情報を俺に伝えてしまったせいで危険な状況に陥っているという自責の念があるのだろう。

 だが兎にも角にもこうなった以上、やるしか無いのだ。

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