第44話 接触②

 「疑うような真似、失礼致しました」


 さすがにいくら特産物だからと言ってチョコレートでは信じてもらえるはずもなく、アルフォンス軍の軍旗を持ち出してようやく認めて貰えたのだ。

 

 「ニルセンは、軍人だったのか?」


 非礼を認め頭を下げた男の名はニルセンといって、ここの抵抗勢力の纏め役をやっているらしい。


 「少し前に歳で除隊となりましたが、それまではダンマルク軍属でした」

 「なら、戦闘経験はあるわけだ」

 「二度ほどスヴェーアとの戦いに従軍しております」

 「それは従う民たちも心強いだろうな」


 ニルセンをはじめとする抵抗勢力(自称『解放軍』)の面々と共にオーフスの街へと入る。

 話によると既にこの付近のスヴェーア兵は無力化されているらしかった。


 「しばらくはここをご利用ください」


 そう言って通されたのは、やや大きめの屋敷だった。


 「ここは、領主の屋敷では無いのか?」


 気になって訊くとニルセンは頷いた。


 「以前までは男爵位の貴族の屋敷でした」

 「以前まで……?」

 「はい、スヴェーアの侵攻と共に男爵は捕らえられ、現在は誰も使っていないのです」


 なるほど、領主は捕らえられたわけか。

 それで今は誰も使っていない、確かに筋は通る。

 だが、気になる点があった。


 「その男爵殿はどちらへ?」


 普通なら屋敷で監視付きの状態で留め置かれるはずだが、どうにもそうでは無いらしい。


 「それは私共には分かりませんな」


 考えられるケースは、身代金を請求するために連れ去られたか放逐されたかのいずれかだ。


 「それでは私は、これにて失礼させていただきます」


 ニルセンは慇懃に礼をすると疑念を残したまま去っていった。


 「あの男をどう見る?」

 

 暗闘に長ける間諜達を率いるノエルにはどう見えたのかを訊いてみることにした。


 「流暢な様で思いの外、地域の訛りを感じさせない話し方でした」

 「つまりは?」

 「生粋のダンマルク人では無いでしょう」


 基本国軍というものは、敵国への内通者の流入を防ぐため、国民でなければ入隊することは出来ない仕組みになっているはずだ。

 なら、生粋のダンマルク人でないニルセンがダンマルク軍属だったという話の信憑性は低くなってくる。


 「ノエル、屋敷の中と周りを隈無く調べあげろ。それからお前の部下から増援を呼べるか?」

 「それは何故でしょうか?」

 「恐らくニルセンは解放軍の指導者なんかじゃない。あいつはスコーネ半島系だ」

 

 それだけ言うとノエルは俺の考えを察したらしかった。


 「わかりました、配下を可能な限り集めましょう」

 「頼んだぞ」


 まだ太陽は中天にさし掛かろうとしているくらいだ。

 時間はまだある、可能な限り備えておくか……。

 それから暫くして疑念は確信へと変わった。

 ノエルに呼ばれて屋敷の中庭へと出ると、僅かに掘り返したような後があった。


 「掘るぞ」


 都合よく掘れるものがあるはずもなくノエルと二人、お互いの剣を抜いて地面を掘り返していく。

 やがて―――――鈍い感触が手元に伝わってきた。


 「うっ……」


 ノエルが呻き声をあげる。

 そこにあったのは、煌びやかな服を纏った男の死体だった。

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