第39話 ボードゥヴァンの企み
「感謝するぞ、アルフォンス公」
ヴィレム王が軍議の場で他国の者達の目を気にせず頭を下げた。
攻撃を仕掛けてきたスヴェーアの軽騎兵をどうにか追い返したことで、ホランド王国軍は、態勢を建て直した。
「いえいえ、同盟軍に参加する者として当然の役割を果たしたまでです」
当然の役割という言葉を使って動かなかった他の部隊に対して釘を打つ。
俺は戦いたくないんだから次は戦ってくれよ?という無言のメッセージだが、気づいてくれる人間はどれほどいるのだろうか。
「アルフォンス公の流石の部隊運用が見られたところで次は、どうやって丘上の敵を引き摺り下ろすかですなぁ」
俺が注目されているのが面白くないのか、ボードゥヴァンが強引に話を変えた。
目下、丘上と丘下にそれぞれ陣地を儲け互いに睨み合っている状況だ。
騎兵による攻撃が上手くいかなかったスヴェーア王国軍は当分の間、動きそうにもない。
「良い案をお持ちの方はおるか?」
ヴィレムが見回すが意見を口にする者はいない。
それは集まった人間が知恵のない者という訳ではなく、ここで意見を言おうものなら、じゃあやってみろという話になり兵力を消耗することが予測できるからだ。
策が無いわけじゃないが俺の兵は千五百程度だから消耗させたくはない。
すると、ボードゥヴァンがこちらを向いてニヤリと笑った。
「誰も出ないようなら儂が敵を誘き出してこよう」
自信ありげにそう口にしたボードゥヴァン。
ユトランド評議会の足並みを乱したために、名誉挽回の機会と捉えたのだろうか。
「妙案があるので?」
北プロシャ選帝侯ラウエンブルクが、興味津々といった様子で尋ねるとボードゥヴァンは頷いた。
「無論、しかと敵を連れてこよう」
俺は、ボードゥヴァンが自ら買って出たことに引っ掛かりを覚えた。
この男が進んで買って出た先のユトランド評議会の会議の記憶が蘇る。
それだけで、確実に俺に対して何かしてくると確信も無しに考えてられた。
「各々方、よろしいな?」
既に軍議の場はボードゥヴァンに任せるということで纏まりつつある。
今更、異議ありと言っても上手い具合に丸め込まれてしまいそうだ。
そこで俺は対応策を考えることにした。
正午過ぎ―――――丘上のスヴェーア王国軍陣地に向かってベルジク王国軍の騎兵達が駆け出した。
その騎兵達は多数の弓騎兵で編成されている。
そして一定の場所まで前進すると、彼らは矢を番えてスヴェーア王国軍の陣地に攻撃を仕掛けた。
その攻撃で少なからずスヴェーア王国軍は犠牲者を出しているのだろう。
陣地内の動きが活発となった。
さらにスヴェーア王国軍は、素早く弓騎兵による攻撃に対応して弓騎兵を追い払おうと騎兵を出してきた。
すると、それを見るや否やベルジクの騎兵達は蜘蛛の子散らすように逃げ出した。
これには、スヴェーアの騎兵達も追うのを諦め自陣へと戻った。
それから暫くすると再び、スヴェーア王国軍の陣地前にベルジクの弓騎兵が集まり攻撃を加える。
それを何度か繰り返したとき、業を煮やしたのか今までで最大数のスヴェーア王国軍がベルジクの弓騎兵を追い払うために動いた。
これまでの動作をなぞるのかと思えば、あ明らかにそれまでとは違った。
蜘蛛の子を散らすように逃げ出したベルジクの騎兵達、しかし大きな一団はアルフォンス軍の陣地へと丘を駆け下っていく。
当然それには多数のスヴェーア王国が追走するわけで―――――。
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