第40話 意趣返し
「やっぱりそうなるかぁ……」
ベルジク兵達の動きを見て、何となく目的は察した。
「どこまでも食えない男ですね」
「全くその通りだが、想定の範囲内だ」
せめてこうならないことを祈っておけば良かったか?
「歩兵部隊は三百メートル後方へ下がれ!敵の集団がこの陣地へと迫った場合は、散開しろ」
俺の狙いは足の遅い歩兵を守ること、そしてボードゥヴァンの思惑を逆手にとって損害をボードゥヴァンに押し付けることだ。
そのために近隣に布陣した各国の同盟軍には事前に通達しておいた。
同じように動くよう要請したつもりではないが、こちらの動きに協調するらしい。
「閣下、ベルジク勢が三度目の攻撃を仕掛け始めましたぞ」
トリスタンがスヴェーアとベルジクが交戦する丘の中腹を
「そろそろだろうな」
追い返しては寄ってくる執拗いベルジク騎兵をスヴェーア軍ががそのままにしておくとは思えない。
三度目の攻撃でスヴェーア軍も寄ってきたベルジク騎兵に矢を射掛けるなどの工夫を行っているため、すがさまベルジク勢は及び腰となった。
するとそれを小煩い騎兵を殲滅する好機と捉えたか、スヴェーア軍が一斉に動き始める。
「騎兵部隊を後ろ向きにさせろ」
「御意」
いつでも後方へ走り出せるよう準備を整えておく。
動き出したスヴェーア軍は、見たところ騎兵が二千五百程度。
ホランド軍に対しての先程の攻撃に参加させた部隊は、数的に考えて除いたのだろう。
こちらの準備が整い終わるくらいのタイミングで、ベルジク騎兵は遁走を開始した。
それもこちらに向かってだ。
「かなり俺のことが嫌いらしい」
「閣下の才能が妬ましいので御座いましょう」
トリスタンはそう言って笑った。
国境を接する隣国同士、言わばライバルとも言えるこの関係。
ボードゥヴァンは俺を嵌めようと企み、しかしそれは失敗に終わった。
ユトランド評議会内での立場もギクシャクしており、微妙なところだろう。
一方的な逆恨みにしろ俺を恨むわけだ。
「閣下、頃合いかと」
ベルジク騎兵との距離は、既に百メートル程度、さらにその数十メートル後方にはスヴェーア騎兵が迫っている。
速度を上げるための助走が必要なことを考慮すれば、確かに頃合いだ。
「よし、全隊ベルジク軍陣地に向かって走れーっ!」
「おぉぉぉぅ!」
敵勢を押し付けられたから押し付け返すという味方同士で足を引っ張り合う泥沼の戦い。
だが、これでも突出してきた敵騎兵を討ち取ることは可能だ。
理由は単純、騎兵は騎兵同士の戦闘よりも歩兵の側面への攻撃を行うことが一般的な役割だ。
となれば、高速で逃げる騎兵を追い回すよりも動きの遅い歩兵部隊への攻撃を優先するだろう。
そして、ベルジク軍の陣地に駆け込めば、そこにいるのは先程まで自分達に攻撃を加えていた軍隊なわけで、間違いなくスヴェーア軍は意趣返しとしてベルジク軍への攻撃を選ぶはずだ。
「閣下、ただ走るのも逃げるようで格好がつきません、何か決めゼリフみたいなのを頂いても?」
トリスタンの申し出に頷きを返した。
決めゼリフか……これにしよう。
「悪いなボードゥヴァン、今回も貧乏くじを引くのはお前だ!」
「「おおおおおう!」」
騎兵達はその言葉を聞くと一斉に湧き上がる。
俺は、愛馬タナトスに鞭をくれると先頭を駆け出した。
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