第38話 騎兵突撃
「やはり出番が来るか……トリスタン、行くぞ!」
「御意」
ホランド王国軍は、スヴェーアの騎兵突撃によって乱されている状態だ。
このままでは、兵数をいたずらに減らすことになるのは明白。
邀撃態勢が整うまでは、こちらで気を引くしかないだろう。
騎兵達には、準備させておいたので俺が愛馬タナトスに跨るだけで出撃の準備は整った。
トリスタンに任せても良いのだが、もしものことを考えると俺が指揮する方が良いだろう、と考えて俺も騎兵達に混ざることにした。
「総員、続け!」
「「おぉぉぉっ!」」
遠目に見たところ敵の軽騎兵は五百程、対してこちらの重装騎兵は三百五十騎なので兵数に差があるがそこは、技量と装甲で埋めるしかない。
どこから崩すべきだ……?
軽騎兵達に攻め込まれるホランド王国軍の陣地を観察する。
同盟軍の中で地形の都合上、中央の最前に位置するホランド王国軍の陣地は後方に窪地を抱えている。
そしてその両側から騎兵達に追い立てられている。
片方ずつ片付けるべきなのか、両側を一度に片付けるべきか……。
敵は騎兵を二手に分けており、兵力は片側で二百五十といったところだ。
同時に相手取るとなると、こちらの兵力も半分ずつにすることになるだろう。
それでも依然として分が悪い勝負であることには変わりない。
敵の後ろから遅いかかるのならば、陣形は互いに横列で兵力差が生まれる。
だが敵は、こちらに対応すればホランド王国軍に対して背を向けることになる。
勝機はそこだ。
「トリスタン、半数を率いて反対側の敵をやれ!無理だと思ったら敵をホランド軍から引き剥がすだけでいい!」
「存分に役割果たしてご覧に入れましょう!」
力強く言うとトリスタンは横へと針路をとった。
「三番隊、四番隊、トリスタンに続け!」
「「おぉぉぉっ!」」
トリスタンに兵数の半数をつけさせるようあらん限りの大音声で指示を出す。
馬上槍を煌めかせて、獲物に向かって騎兵は二集団へと分かれた。
「敵勢、対応してきます!」
一番隊の隊長が馬上槍を敵に向けつつ報告する。
数はざっと五十か……。
だが、このタイミングで対応してくるとは、なかなか敵も遣り手と見受ける。
「構わん、他の敵が対応する前に推し潰せ!」
「「おぉぉぉっ!」」
こちらは百八十騎、対して相手は五十騎だ。
もちろん敵の狙いは足止め、そうとなれば足止めさせなければいいだけの話だ。
「我に続けぇ!」
俺は、槍を水平に構えると馬速をさらに上げた。
敵も槍や斧を構えるが勢いが違いすぎる。
敵は反転して来たばかり。
だがこちらは、助走をつけている状態で速度に乗っている。
「「うおぉぉぉぉっ」」
敵味方共に、己を鼓舞すべく喚声を上げながら彼我の距離を詰めていく。
そして勝負は一瞬だ。
すれ違いざまに、敵を馬上から払い落とす。
落ち方を誤れば致命傷になりうるし、何より足を止められるわけにはいかないのだ。
ちらりと横に目をやると、他の味方も敵の足止め部隊を突破していた。
時間のロスは、ほぼほぼ無いから未だ敵の騎兵は
つまりは、ホランド兵との挟撃が可能だ。
「目標敵騎兵、かかれー!」
残り数十メートルとなった距離をさらに詰めていく。
五十騎の足止めを突破された敵の残りは二百騎といったところだ、数に大差はない。
彼我の距離が相手の絶望に染まった表情が認識出来るところまで詰まったとき、互いの槍が交わった―――――。
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