第37話 丘陵の戦い
自らを鼓舞するように太鼓を打ち鳴らしながら行進をしてきたスヴェーア王国軍は陣地をホランド王国軍の正面に構えた。
戦場は遮るもののない、なだらかな丘陵地帯。
スヴェーア王国軍は、その丘上に陣取った。
同盟軍は、初手の陣地の取り合いで敗北したのだ。
高所有利を敵に取られる構図となった。
兵数で僅かに勝るとは言えども、所詮同盟軍は寄せ集めの烏合の衆に過ぎない。
スヴェーア王国軍は、それを理解した上で同盟軍を撃破可能と考えたか……。
同盟軍は仕方なく丘の下に陣地の構築を始めるが、それを黙って見過ごすほど敵もお人好しじゃない。
「敵騎兵、丘より下って参ります!」
物見が声を張り上げて報告する。
土埃を上げながら、丘を一気に駆け下る敵騎兵が遠目に見えた。
「見事な横隊突撃だな」
「相手しますか?」
トリスタンが、俺の指示を求める。
「いや構わん、相手の目的はホランド軍だ。どうも長引くようなら、退路を塞ぐよう立ち回る必要があるだろうな。支度を整えておけ」
「御意」
敵の狙いは非常に的確だ。
同盟軍を烏合の衆でいさせるために、あえて小規模な部隊は狙わずに規模の大きな所を狙う。
俺が敵なら同じことを考えるだろうな。
「敵になかなかの切れ者がいるらしい」
「調べますか?」
ノエルが申し出るが、その必要性をあまり感じない。
優秀な間諜達に身の危険を犯させてまで知りたいと思うことでもない。
「それには及ばない」
「かしこまりました」
だが、スヴェーア王国軍に関してそれ以上に知りたいことがあった。
「だが代わりにと言ってはなんだが、敵の物資の量と陸揚げ地点を調べて欲しい」
「承りました」
ノエルは頭を下げると命令を出すために部下の元へと向かっていった。
◆◇◆◇
「早速敵勢が来おったか!」
ヴィレムは正面の丘を睨めつけた。
彼自体は、国王であるにも関わらず自らが戦場に出るというレアケースなタイプの人間であるわけだが(重装騎兵として突撃をするヴェルナールは特異中の特異)ヴィレムはしばらくの間、戦争をしていなかったので腕が鈍っているのでは?と感じていた。
「盾兵、パイク兵、展開急がんか!」
軽騎兵の横隊突撃を受け止められるよう盾兵とパイク兵による堅陣を組ませようと配下の兵を急かせた。
「弓隊も射程に入り次第、各個にて矢を射よ!」
口角泡を飛ばして指揮するヴィレムの指示は、セオリー通りで的確だ。
どうにか準備が整った盾兵とパイク兵に軽騎兵が突貫してくる。
だが、そこで軽騎兵達はくるりと向きを変えた。
「なっ、スヴェーアの連中め……どういうつもりだ?」
その動きはまるでヴィレムの考えを看破していたかのような動きだった。
軽騎兵達は横隊を組んだまま、左右に折れていくと大きく横へと回った。
「ぬかったわ!」
軽騎兵の作戦に気付いたヴィレムは悔しそうに吐き捨てた。
だが腐っても軍隊だ。
ヴィレムの指示が無くても、邀撃を試みようと隊の指揮官の命令に従って対応する。
だが、対応する時間を与えまいと軽騎兵は地を蹴り駆け出す。
集団のパイク兵が向きを変えるのには長い槍が邪魔で時間がかかるのだ。
それを見透かしたように軽騎兵は、ホランド王国軍の横腹へと喰らいつく。
「ヤンセン隊、壊滅!」
「ブリース隊、隊長戦死!」
受け身の態勢すらろくに取れないでいたホランド王国軍は、いいように軽騎兵達に蹂躙されていく。
「殿下、ここは危のうございます!退却してくだされ!」
「致し方ないか」
ヴィレムは、護身の王宮騎士団に安全な場所まで退くよう言われて馬へと跨ったとき、彼の目は、軽騎兵達へと疾走する漆黒の甲冑を纏った一団を捉えた。
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