第36話 同盟軍出陣

 和平交渉が纏まってから五日後、ダンマルク領オーベンローの街にユトランド評議会の同盟旗を掲げた一万三千の軍勢が集結していた。

 色とりどりの軍旗を北洋を渡る風に靡かせている。

 

 「これ程の規模の軍が集まると見応えがありますね」


 隣に駒を並べるノエルが言った。

 

 「確かにそうだな、うちの国じゃまず出来ないことだな」


 アルフォンス大公国は小国だ。

 ナミュール州を獲得したとはいえ、兵の動員数はせいぜい三千二百に届くぐらいだ。


 「本当に千五百程度で良かったのでしょうか?」


 ノエルは、後ろに控える自国の部隊に目を向けた。

 兵数の負担で言えば、ホランド王国が五千、ベルジク王国が三千、北プロシャ選帝侯が二千、公国うちが千五百、ハンゼ都市同盟が千、ポメラニア公国のが五百と主要国の割に公国うちの動員数は少ない。

 ポメラニア公国が義勇兵としているのは、スヴェーアと深い繋がりを持つが故に表立ってスヴェーアとの戦争に参戦出来ないからだ。

 兵数が少ないのもスヴェーアを刺激しないためである。


 「エルンシュタットとの戦争の傷が癒えないところに、ベルジクとの戦争までやったんだ。動員数が少ないのは当たり前だ」


 ちなみにそう言ったら、ホランドもダンマルクも一応納得はしてくれた。


 「私は閣下の本音が聞きたいのですが?」


 だが、ノエルの言う通りこんなのは建前に過ぎない。

 本音を言えば――――


 「出費は嵩むし兵は減るから、全力で助けるわけないじゃん?といったところだな」


 主君としての威厳を無くさないよう本音と言えども言い方には一応の注意を払う。


 「間違っても評議会に参加する人達に聞かせる訳にはいきませんね」


 そう言うとノエルは、楽しそうに笑った。


 「だが、戦闘状態になるのは避けたいと言うのは嘘偽りのない本音だ。それ故に手は打ってある」

 

 お守り程度にしかならないと俺自身考えてはいるが、スヴェーアに対して同盟軍がダンマルク救援に向かうことは伝えてある。

 一万二千の軍勢でユトランド半島に駐留するスヴェーア軍も同盟軍とダンマルク軍に挟まれるのは嫌うはずだ。


 「そうですか、閣下の考えたことですから失敗することは無いのでしょうね」


 ノエル……それは過度な期待ってやつだぞ。

 何しろ、相手が普通ならという前提条件が存在するのだから。

 特にスヴェーア王は、穏やかな日を選んでいるとは言っても、冬の北洋を渡ってまで戦争をやるんだから普通とは言えない。

 

 「でんれーいっ!」


 ホランド王国軍の紋章が入った旗を掲げながら、一人の騎兵が駆けてきた。


 「構わん、言え」

 「ははっ!敵軍、コリング・フィヨルドを越えました!まもなく我が軍と接触しますので援護をお願い申し上げます!」


 え――――?

 来るの?

 どう考えても来ないだろ……自国に戻れよ……。

 手を打ってあるだなんてカッコつけた自分を叱ってやりたい。


 「スヴェーア軍と戦闘になりそうですね」

 「まぁ、その…なんだ、こういう日もある」


 最後は自分に言い聞かせるように言うと、もっともらしく頷いてみせる。


 「俺は忠告したんだから、その上で来るのなら相手をするまでだ」


 周りを見渡すと、他国の軍も動き始めていた。


 「全隊に通達、盾兵を前に方形陣を構築し前進せよ!」

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