第31話 膠着

 アルデュイナの森を巡る戦いは三日目に渡って続いていた。

 陣地を固守し続けるアルフォンス軍は毎夜、銃兵による射撃を行い隙あらば騎兵による突撃を行った。

 いつ襲われるか分からない恐怖にベルジク兵は寝ることもできず、肉体と精神を疲労させ続けた。

 そんな状況では、士気が上がるはずもなく半分以下の兵力しか持たないアルフォンス軍と戦闘は拮抗している。

 しかしベルジクとアルフォンスの両兵営に予想外の報せが舞い込む。


 「は……?本当に始めちゃったのかよ……」

 「事実です」


 そう、スヴェーア軍がダンマルクへと侵攻を開始したのだ。

 

 「ノエル、戦況までわかるか?」

 「はい、部下の報告によればユトランド半島に上陸したスヴェーア軍は、ユトランド半島全域を掌握したという報告が上がっております」

  「お、おう……」


 ヴェルナールは思案顔になった。

 ユトランド評議会という同盟がある以上、ベルジクや準加盟的な扱いとなっているアルフォンスにも動員要請がかかるかもしれない。

 そうなればアルデュイナの森を巡る戦いは痛み分け、という形で集結するだろう。

 それは願ってもないことだ。

 だが、その後にベルジクと肩を並べて戦うとなると話は異なる。

 軍部からすれば、侵略してきた国と肩を並べて戦えと言われても無理な話だ。

 最悪の場合、兵達の暴動さえ起きるかもしれない。

 或いは要請を断るという手もある。

 そうした場合、スヴェーアとの戦争がひと段落したとき、再びベルジクに攻められる可能性は大きい。

 

 「この戦いで得るものが無いということもまた、問題ですね」

 「ノエルの言う通りだ、何かしらをベルジク側から引き出さないと収まりがつかない」


 こういう場合、領土の一部割譲などで問題を解決する場合が多いのだが兵力では依然としてベルジク軍が勝っている状況では、領土割譲を引き出すことは無理な話だ。

 となれば、一時的な停戦協定を結ぶということになるのだろう。

 だが、一時的なものでは意味はないのだ。

 ヴェルナールがもとい、アルフォンス大公国として欲しいものは恒久的な平和だ。


 「閣下、ダンマルクからの使者が来ておりますが?」

 「構わん、通せ」


 ヴェルナールの前にダンマルクの使者として現れたのは外交官のイェンセンだった。


 「イェンセン殿、ここは戦地ゆえ茶もない。すまないな」

 「ご健勝のこと、お喜び申しあげます」


 もはや決まりきった形の挨拶を交わすとイェンセンが口を開いた。


 「ヴェルナール公王にお願い申し上げます。即刻、ベルジクとの戦闘を中止し我が国の危機をお救いください」

 

 イェンセンの目的は援軍の要請だ。

 だが、ヴェルナールは首を横に振った。


 「ベルジクとの戦闘で疲弊している我が国に援軍を出す余裕があるとでも?そういうことは、ベルジクの領地割譲させるくらいの話を持って来てからしてもらいたい」

 「そ、それは……」


 にべもなく断られたことにイェンセンはたじろいだ。


 「そもそも、貴国主導のユトランド評議会参加国から我が国は攻撃を受けているのだぞ?完全に貴国の招いた失態だろうが」


 ヴェルナールはダンマルクの痛い所を突きまくる。


 「誠に申し訳なく思っているところでございます……」


 イェンセンは平謝りに謝る。


 「だが、俺も鬼では無い。停戦に際してベルジクに少しでも有利に立てるのなら貴国への援軍を出そう」

 「ど、努力致します……」


 アルフォンス大公国から援軍を引き出すつもりで交渉に来たイェンセンは、逆にヴェルナールに条件をつけられることとなった。

 だがこの際、ヴェルナールは一通の書簡を持たせている。

 それにより本当の窮地に立つことになるのは、ベルジク王国だった。

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