第29話 塹壕戦
夜が開けるとベルジク軍の猛攻が始まった。
「ルロア隊、マルシエ隊、敵と接敵しました!」
「ご苦労、可能な限り粘るよう伝えろ。それから銃兵隊に支援させろ」
まるで昨晩の失態を取り返そうとしてるようだな。
夜襲から立ち直った部隊を、そのまま戦闘に突っ込んだといったような感じで、纏まりの無さを感じさせる。
それ故に、ベルジク軍の将兵は焦りを抱えていると、こちらは思うわけだ。
「トリスタン、敵の穴を騎兵で突いて回れ」
「御意」
信頼の元副官に騎兵を預けることにした。
ブリジットも既に戦場を縦横無尽に駆け回っている。
百騎という少数兵力であるが故に指揮はしやすい。
まるで自分の体のように動かせる、それが少数兵力であることの利点だ。
駆けていく四百騎の重装騎兵を見送ると視線を前線へと向けた。
敵の第一陣の兵力は二千余り、こちらの兵力と同等だ。
味方の弓箭兵や槍兵の守る塹壕や蛸壺に次々と襲いかかっている。
だが士気では緒戦の勝利に沸くアルフォンス兵が圧倒している。
ベルジク兵は、塹壕や蛸壺陣地に踏み込む前に数を削られ陣地に踏み込めば、槍で串刺しにされているといった具合だ。
さらにその横腹にトリスタンやブリジットの率いる騎兵が食らいつく。
側面から突かれると防戦一方になり、攻撃の勢いが弱まる。
そこに塹壕にいるアルフォンス兵が打って出て攻撃を加える。
だがそれを黙って見ているほど、敵も愚かではなかった。
「敵騎兵、来ます!」
「長槍を前に出して槍衾を形成させろ」
騎兵突撃で無理やり穴をこじ開けようというのだ。
長槍のリーチの長さを活かして足を止めさせる。
行動の速さは、すなわち連携力と練度、命令の通りやすさだ。
塹壕沿いに見事な槍衾を作ってみせた。
敵の騎兵もそれに気づき馬を停止させようとするが、進行方向を変えるには彼我の距離が近すぎた。
「槍隊突き出せー!」
「「おう」」
指揮官の指示のもと、数百本の長槍が敵騎兵の前面に突き出される。
騎兵突撃の最中だった敵兵はそれに自ら突っ込む形となった。
「と、止まれー!」
悲鳴にもにた指示が出されるが、それですぐ止まれるほど速度は落ちてはいない。
仮に止まれたとしても後続の騎兵に追突される形で前へと突き飛ばされる。
そして僅かに遅れて前線へと到着した銃兵が発砲を始めると、馬が突然の破裂音に驚きベルジク軍の騎兵達は馬の扱いにも支障をきたすようになった。
そこに襲い掛かる無数の槍、敵騎兵は次々と槍の錆へと変わっていった。
ベルジク軍は貴重な騎兵に大きな打撃を受けることとなった。
それから日中、ベルジク軍は部隊を交代させ攻め続けたが得られた成果はアルフォンス側の陣地を一つ後退させるにとどまった。
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