閑話 レティシア&ブリジットのガールズトーク

 「どうしたの……そんなくらい顔して」


 ヴェルナールがユトランド評議会に参加するべく旅立ってからというもの彼の執務室は、すっかりレティシアとブリジットの居場所となっていた。

 今までブリジットは、執務室にいたヴェルナールにべったりだったから、彼が居なくなってもその習慣で執務室にいるというわけである。

 レティシアも暇を潰すための話し相手欲しさに毎日、ブリジットと一緒にいる。

 

 「だって……このところ、お兄様が構ってくれないんですもの……」


 執務室の机にぐったりと伏せながら言った。


 「それは仕方ないわ。ヴェルナールは公王になったんだから忙しいのは当たり前よ」

 「ブリジットが来たせいで余計に私との時間が減ったんですぅ」


 レティシアが聞き分けの無い子供のような口調で言う。

 

 「なっ、私だってろくに構って貰ってないわよ!って今のは何でもないの、忘れて!」

 「へぇ〜やっぱりお兄様に構って欲しいんだ〜好きなんだ〜」

 「そ、そそそそそんなことないわ!向こうが私のことを好きなだけだしぃー?」

 「嘘つくのが下手だわ」

 

 思いっきり取り乱すブリジットを見てレティシアは楽しそうに笑った。


 「こ、こんな小娘にいいようにしてやられるなんて……」


 年の差が五つもある少女に敵わないのが悔しいのか、むぅ〜とブリジットは唸った。


 「でもレティシアもヴェルナールのことが好きなんじゃない?」

 「えぇ、もちろん!愛していますわ!」


 レティシアは即答である。

 

 「それ、異性としてって意味だと問題視されるわよ?」

 「ふふふ、頼れる兄としても一人の男としても好きですの。余人が問題視する世の中だったとしてもお兄様がきっと世界を変えてくださるはずですわ」

 「恋は盲目と言うけれど、さすがに度が過ぎてるわね……」


 恋愛のために世界を変えるなど前代未聞すぎて御伽噺おとぎばなしですら聞かない。

 ブリジットは、呆れながら言うとヴェルナールの向かった北の方向を見つめた。


 「早く帰ってこないかしら……」

 「そうですわね……」

 「それにしても、ヴェルナールのことが好きだなんて本人の前では言わないじゃない」

 「それはブリジットもそうでしょう?」

 「いや……アプローチはしているつもりなのよ……」

 

 ブリジットはため息を漏らす。


 「お兄様が鈍感なわけじゃないですわ。やり方が稚拙すぎますの」

 「言わせておけば……でも……そうかもしれないわね」


 ブリジットとヴェルナールの距離感や接し方は、小さい頃から変わっていない。


 「本の受け売りですけれど、大人の恋愛というものは色香が大事になりますのよ?」


 そう言ってブリジットが一冊の本を手に取ると、あるページを開いてブリジットに手渡した。


 「読んでご覧なさい」

 「わかったわ……えっと、俺と妹は暗闇の中で無言のままお互いの体をさぐりあった。俺は乳房をやわらかく手で包んだ。俺はペ〇スをいちばん奥まで入れて……ってなんてもの読ませてるよっ!」


 途中まで読んだところでブリジットは顔を赤らめると本を押し付けるようにレティシアへと返した。


 「ここから兄妹の愛を確かめ合ういいシーンですのに」


 ブリジットは、残念そうな顔をすると本をしまった。


 「絶対、レティシアはヴェルナールとの行為を想像しながら読んだわよね!?」

 「何か問題でも?」

 

 ブリジットは、当たり前のことだと言いたげだ。


 「当たり前よぉぉぉぉぉぉっ!」

 「幼なじみモノもあるので良かったら貸しましょうか?」

 「い、要らないけど……しょうがないから借りてあげるわ!」


 口では要らないと言いつつ、くださいとばかりに即座に手を出すブリジット。


 「ふふふ、しょうがない人ですわね」


 そんな会話をしていると城門の方が騒がしくなった。


 「多分、お兄様のお帰りですわ!」

 「随分、早かったわね……何かあったのかしら?」


 さっきまで桃色に染っていた二人は何処へやら。

 玄関ホールへと二人揃って走り出した。

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