第19話 謎の襲撃
ダンマルクの使者が来てから二日後の朝、ユトランド評議会の会合が行われるダンマルク王国の首都コーベンヘイゲンに旅立つこととなった。
「留守を頼んだぞ」
「御意」
「留守番なのが残念だけど、守っててあげる!」
今回の使節団に随伴しないトリスタンとブリジットに見送られて馬車に乗り込む。
そして俺の対面に座ったのが新しい補佐役となったノエルだ。
「本日の予定では、正午にベルジク王国の王都ブラバントを経由して夕方にはホランド王国王都モクムに入ります」
そう言ってノエルは予定を記した紙を俺に渡した。
「それでその後、会見があるわけか」
「顔合わせ程度かとは思いますが晩餐会の用意があると聞いております」
毒でも盛られるか?
ベルジクからすればアルフォンス大公国は突然、南にできた脅威だ。
もともと近隣で緩い付き合いのあるホランドよりは、新興のアルフォンスを潰すことを優先しそうな気がする。
あるいは両者が結託してる可能性も否定できない。
「私が毒味でもしましょうか?」
下を向いて考えていた俺を上目遣いに覗き込むノエル。
「あ、いや、その必要は無い」
不意をついた動作にドキッとしそうになったがどうにか平静を装う。
ブリジットやエレオノーラといった親友達は距離が最初から近かったせいか何も思わないんだがな……。
「そうでしょうか……?」
「普通に考えたら暗殺はない。相手が普通の思考回路を持つ人間ならな?」
呼び寄せて会食して死人が出ました、そんな状況なら真っ先に暗殺を疑われそうだ。
そんなリスキーな殺り方、選ぶことは無いだろう。
「問題は話題に何が上がるか、それに尽きる」
「おおかた、お互いの今後の方針に探りをいれる、といったところでしょうか?」
「そうなるだろうな……
どうしたものか、そう考えながら馬車の窓から外を見たときだった。
場所はアルデュイナの森に入ったあたりだ。
進行方向左側から無数の人影がみえた。
薄暗い森の中、姿ははっきりとしないが間違いなく武装をしている。
「閣下、失礼します!」
ノエルが俺を座席に押し倒す。
その瞬間――――矢が俺の頭のあったところを抜けていった。
「敵襲!応戦せよ!」
随伴員達が僅かに遅れて反応する。
「閣下、お怪我はありませんか?」
「ノエルのお陰で助かった。一旦、馬車を出よう」
心配そうに見つめるノエルの腕をそっと振りほどいて外に出るよう促した。
目立つ馬車の中にいれば、それこそ弓矢のいい的だ。
馬車の扉を蹴り開けて、敵の来た方向とは反対の右側に降りる。
そこに随伴員の指揮をとるアンドレーが飛び込んで来た。
「閣下、我々は左側面より攻撃を受けております」
このまま走り抜けるにしても敵を抱えたまま逃げる構図となり、多くの随伴員がやられかねない。
「敵の数は?」
まずは落ち着いて状況確認だ。
「はっ!凡そ五十程かと!」
「ならば応戦しろ」
敵は、こちらの数と変わりない。
「かしこまりました!」
アンドレーは、頷くと随伴員の戦闘指揮に戻っていく。
「ここにいたか!」
タイミングを見計らったかのように一人の大男が現れた。
「閣下をお守りしろ!」
随伴員の二人が剣で斬り掛かるが男が大剣を一振りしただけでたちどころに剣を折られた。
ノエルは二本のダガーを短剣を抜く。
「閣下は、私の後ろにいてください」
俺がトリスタンに武芸を教わったようにノエルもまた、実父であるトリスタンに武芸を習得させられていた。
「
男は舌なめずりをするとノエルの前に立ちはだかる。
さながら大岩のようだ。
今まで冷静沈着だったノエルからも焦りが伝わってくる。
「どうした来ねぇのか?まぁ女だから度胸がねぇのも当然か」
男はノエルを挑発するがそれに引っかかるノエルでは無い。
「無視とはいい度胸だなァっ!」
男が大剣を振りかぶると一気に間合いを詰めた。
「通さない!」
ノエルが短剣でいなそうとするものの軽く大剣に触れただけで大男の力に耐えかねたのか短剣を取り落とした。
手が痺れて剣を握れないのだろう。
だが幸いにも外傷は無い。
大男は、ほくそ笑むと脇目もくれず俺との間合いを詰める。
「閣下!」
ノエルが悲痛な声で叫ぶ。
なに、心配されるまでもないさ。
初手のノエルとの接触でこの男の間合いや手筋がわかったのだから。
「貰ったァ!」
俺が武器を抜かないと思って安心しきったのか至近距離で大剣を振りかぶる。
その瞬間が仇となった。
俺からも低姿勢をとって間合いを詰める。
これで男の間合いは崩れた。
そしてすれ違いざまに剣を抜き相手の胴を薙ぐ。
「なっ!?」
わからない、という気持ちゆえの疑問符が大男の遺言となった。
「閣下!」
さっきの悲痛な声とは反対に明るい声で呼ぶとノエルが駆け寄ってきた。
そして抱きつく。
「ご無事で良かった」
安堵と共に力が抜けたのかノエルは
「あれ、立てない……」
その姿勢のまま体重を俺に預けた。
「閣下、御無礼をお許しください!」
「いや、構わないさ」
慌てて謝るノエルの頭にそっと手を載せる。
「ノエルのお陰で相手のやり口がわかったんだ。十分助かった。ありがとう」
「そんな、助けられたのは私の方でして……」
今の格好が恥ずかしいのか俺の胸に頭を
そしてしばらくすると周囲の剣戟の音は耐え襲撃してきた連中との、戦いは集結したらしかった。
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