第18話 ノエル
「閣下のお呼びとあり、参上致しました」
黒い服に身を包んで現れたのは「アルフォンスの目」とも評される間諜を率いるノエルだった。
歳は十八。
なぜその年齢で諜報部隊を率いる立場にあるのかと言うと、彼女の持つ判断力と分析力によるものだ。
正しく情報を分析し行動の際は迅速な判断を求められるのが間諜。
ノエルはその方向において群を抜く才能を持っていた。
「忙しいところ呼んでしまって申し訳ない」
「いえ、私は本部にいるだけなので至って暇です」
「お、おぅ……」
人柄はこの通り度を過ぎる程の真面目ぶり。
「で、早速なんだが北洋沿岸各国でユトランド評議会なる同盟を作ろうとしているらしい。その同盟に参加する国はリストアップしておいた」
参加国を書き連ねた紙をノエルに渡す。
といっても、参加しそうな国を俺の推察で纏めたに過ぎない。
「この中の国でダンマルク王国並びに同盟に
ユトランド評議会に参加する国家は、北洋南岸国家が大多数だ。
北洋は大陸最北端を持つスコーネ半島と大陸との間にある海のことで、(広義では大陸の北側の海洋全てをさす)現在の勢力図で言えばその南岸をユトランド評議会が、北岸であるスコーネ半島をノルデン主義連合が支配している状況下にある。
元々、ノルデン主義連合三カ国とダンマルク王国は、カルマル同盟という一つの同盟を結んでいた。
しかし五十年程前、その状況は一変した。
ダンマルク=スヴェーア同君連合思想が囁かれ始めると権威の失墜を恐れたダンマルク王国は一方的にカルマル同盟からの離脱を宣言した。
それが遺恨となり、カルマル同盟から名前を変えたノルデン主義連合は幾度となくダンマルクと戦争を行ってきた歴史がある。
「命令、承りました。ですが今回から閣下御自身が行動をなされる際、私が閣下の供回りを務めさせていただきます」
副官の役目はトリスタンが担っていたはずだがこれはどういう風の吹き回しだ?
「ん?どういうことだ?」
「父上からの命令に御座います」
俺は、ノエルの後ろに控えているトリスタンに視線を向ける。
「私の
なるほど、確かにトリスタンの仕事は部隊の練兵から俺の補佐まで多種多様だ。
六十にもなれば当然、大変だろう。
「そうか……それなら相談くれればよいものを」
「いえ、閣下のお手を煩わせるとも如何なものかと」
「なに、トリスタンは武芸の師でもある。そのトリスタンの頼みとあれば無下には出来ないさ」
俺に戦場で戦えるよう武芸を教えてくれたのはトリスタンだ。
そのトリスタンになら幾らでも時間を割いてやれる。
「父上のように閣下と親密な関係になれるよう粉骨砕身務めます」
「ノエル、よく言った!孫の顔を楽しみにしておるぞ!」
「閣下と子を成せるかどうかはわかりませんが……」
ノエルが顔を赤くして、もじもじしながら言った。
というか、話が飛躍してないか?
トリスタンの副官交代ってこれが狙いだったのか。
心配して損したな……。
してやったりと、トリスタンが笑っている。
「閣下、娘のこと宜しくお願い致します」
「あ、あぁ」
頼みを無下には出来ない、と言ってしまった手前、今更断ることも出来ない。
「それでは閣下、あらためて」
俺の足元まで近寄るとノエルは、片膝立ちになり俺の手を取って軽く唇を付けた。
トリスタンが、ニマニマしながらその様子を見守っていたのが少し気持ち悪い。
だが子を思う親の気持ちを考えれば、それも頷けた。
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