第17話 ダンマルクの使者

 「閣下、ダンマルクより使者が来ておりますぞ」

 「やはりアルフォンスにも来たかの」

 「らしいな」


 おおかた、使者の口上については予想がついている。


 「構わん、通せ」

 「妾も聞いて良いかの?」

 「私も気になるわ」


 その場に居合わせたエレオノーラとブリジットもユトランド評議会の出方が気になるらしい。


 「好きにしろ」


 しばらくするとトリスタンに連れられて一人の男が入ってきた。


 「お初にお目にかかります、イェンセンと申します。お目通りの許可を賜ったこと、感謝申し上げます」


 イェンセンか……。

 その名前は俺も知っていた。

 ダンマルク王国の次席外交官の男だ。

 それを差し向けるということは、ユトランド評議会の関心は、アルフォンスにも向いているということか。


 「遠路はるばる御苦労である」

 「はっ!臣下でもない男を気にかけるとは、聞くに劣らぬ仁君であらせられますな」

 「社交辞令として話半分に聞いておこう」

 「いやいや滅相もない。私めの嘘偽り無い本心にございます」


 さて、そろそろ挨拶も終わったところで本題か。


 「公爵閣下も御多忙かと推察致しますので早速では御座いますが本題に移らせていただきます」


 多忙なのはお前達だろう?と言いたくなったが黙ってイェンセンの言う通りにまかせた。

 今頃は、北洋沿岸諸国での大同盟の結成のために数ある沿岸諸国に足を運んでいるのだろう。


 「まずはこちらを御一読ください」


 イェンセンは俺の傍によると書簡を差し出した。 

 内容は先日、エレオノーラから受け取ったものと変わりない。

 エレオノーラが目線で「どうじゃ?」と問い掛けてくるので頷いた。

 それだけで意志は十分伝わった。


 「既にベルジク王国及び、ホランド王国、ポメラニア公国、北プロシャ選帝侯領、ハンゼ都市同盟などが参加の意志を表明しております」


 かなりの数だな……正直驚いた。

 小国の集まり(アルフォンス大公国も小国だが)であることに変わりないが、それらが集まれば勢力は、かなり大きい。

 

 「随分と大所帯だな」

 「はい、ですが現在も勢力を伸ばしております。いずれば北洋沿岸諸国をまとめあげ一つの大きなうねりとなること、間違いないでしょう」


 イェンセンは、自信ありげに言った。

 だがユトランド評議会結成の理由など簡単に想像がつく。

 北洋沿岸諸国の防共と共栄などとうたってはいるが実のところ、ダンマルクの権勢拡大が目的だ。

 北洋沿岸国家の中では一番の経済大国と言えるのがダンマルク王国だ。

 古来よりの海運と農業輸出で成り立つ大国。

 だが国土は小さく人口も多くない。

 それ故に北洋沿岸国家群の中での影響力は大きいとは言えない。

 だからこそユトランド評議会を組織し、その音頭をとる事で影響力を持とうというのが狙いなのだろう。


 「そうなれば北洋沿岸諸国は、ますます発展できそうだな」

 「そうでしょう。そこでアルフォンス大公国を導く閣下にも近日行われる会議に参加して頂きたいのです」


 ここで断れば野心の強いベルジク王国は間違いなく攻め込んで来るだろう。

 アルフォンス大公国は、独立を宣言しておりエルンシュタット王国という後ろ盾を失った状態だ。

 だが会議に参加すれば、面倒事に巻き込まれるのは間違いない。

 自国の国民のことを考えれば、そこに参加しないという選択肢は無い。

 戦争は外交上の最終手段だ。


 「わかった。参加しよう」

 「その返答を貰えると確信しておりました!アルフォンス閣下の選択が正しかったこと、必ずや証明されるでしょう」


 俺は背中にエレオノーラの恨みがましい視線を感じた。


 「それでは、このこと早急に国に持ち帰り主君に報告したく思いますので失礼させて頂きます」


 そう言うと慇懃に礼をしてイェンセンはトリスタンに伴われて退室していった。


 「妾がここにいるというに、どうして参加したのじゃ!」


 エレオノーラにポコポコと胸板を殴られる。


 「そうよ、親友を裏切るつもりなの!?」


 ブリジットが責めるような口調で言った。


 「すまない。だが要らぬ争いを回避するためだ」

 「それはそうだけど……」


 頭では理解しつつも納得がいかない、そんなところだろう。


 「でもなエレオノーラ、俺は彼奴らと仲良くするつもりは無い」


 俺の目指すところは、アルフォンス大公国の平和だ。

 そのためなら卑怯と言われようが構わない。


 「どうするつもりなのじゃ」


 そうだな……蝙蝠を貫く。

 そのためには、ユトランド評議会陣営の解体が必須だ。


 「会議を身のないぐだぐだなものにしてくるさ」

 「できるのかの?そんなことが!?」


 保証は無いが、この頭脳を活かして暗躍するまでのことだ。


 「トリスタン、ノエルを呼んできてくれ」

 

 執務室に戻ってきたトリスタンには、申し訳ないが人を呼んで貰うことにした。


 「我が愛娘の出番ですな」


 トリスタンは不敵に笑いながら言った。

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