第15話 再会

 「久しいのぉ〜、ヴェルナール。それにブリジットもおるのか!」


 馬車から降りると、一人の女性を伴ってエレオノーラがこちらへとやって来た。

 物凄い砕けた口調で話しかけてくるが、相手はカロリング帝国の皇族、気安く話しかけるわけにはいかない。


 「え、えっと、エレオノーラ殿下も御壮健なようで何よりでございます」

 「むぅ……喋り方がちと堅くないか?」


 眉間に皺を寄せて不満そうな表情を浮かべるエレオノーラ。


 「いぇ……来られるのがアウローラ殿であると思っていたのですが、蓋を開けてみれば帝国の第二皇女でしたので……何分、堅くなるのは致し方ないことかと」


 大陸南部の一大勢力、それがカロリング帝国だ。

 今更だが考えてみればアウローラが皇族だったということも納得がいく。

 なにしろ、三百丁ものマスケット銃を仕立ててくれたのは彼女なのだから。

 友人だと思って身分に何の疑いも抱かず調べさせなかった自分に文句を言いたい。


 「むふふ、ちょっとしたサプライズじゃ。驚いたろう、ん?」

 「はい、ですが、その無邪気な笑顔は昔のままかと」

 「ブリジットはわらわと話してくれぬしヴェルナールは堅いし溝を感じるのぉ……そうじゃ、これより三人の間での敬語の使用を禁じる!」


 ポン!と手を打つとエレオノーラがそう言ってのける。


 「ほれ、妾の名前を呼んでみ?」

 

 あぁぁ、エレオノーラの従者達の視線が刺さるし怖い!

 

 「……エレオノーラ皇女」

 「む……そうではなかろう?」


 これ何が何でも言わされる奴か……仕方ないあとは野となれ山となれ、だ。


 「……エレオノーラ、これでいいか?」

 「うむ、よろしい!ブリジットも、ほれ!」


 顎を呼べとばかりにしゃくる。


 「エレオノーラさん……」

 「ぷふっ」


 貴族相手に「さん」付けか。

 あまりの似合わなさに思わず吹いてしまった。

 貴族の呼び方というのは大抵の場合、相手の爵位をつけたり、「卿」をつけたりド・○○○○みたいな呼び方をしたりするんだがな。

 特別親しければ名前呼びをしたりもする。

 そのいい例が、俺やブリジット、フィリップ、アレクシアというわけだ。


 「あ、今笑ったでしょう!?」

 「いや、すまん。なんか似合わなすぎて」

 「後でお仕置きするから覚えてなさい」


 真面目になってる所を笑われたからかブリジットはご機嫌斜めだ。

 ちなみに、いつもだと一緒に甘いお菓子を食べたり、寝技をかけられたりとお仕置きと言いつつも、ただ仲良くするだけなんだがな。


 「よいのぉ、妾も混ざろう!」

 「エレオノーラはダメぇぇっ!」

 

 そう言うとブリジットはハッとした顔になって口を抑えた。


 「ほれ、呼べたじゃろう?」

 「な、とんだ御無礼を!」


 ブリジットからすれば、王国の伯爵令嬢風情が帝国皇族と対等に口を聞いたのが無礼だと思ったのだろう。


 「よいよい。妾が望んだ事じゃ。それに妾の頼みを無下にする方がよっぽど無礼ぞ?」


 そう言うとエレオノーラは、からからと笑った。

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