北の大同盟

第14話 アウローラ嬢

 そろそろ冬を迎え例年なら気分も陰鬱になる頃合いを迎えていた。

 だが今年は少しばかり違った。

 エルンシュタット王国から独立を宣言したアルフォンス公爵領、もといアルフォンス大公国では先の戦いの戦勝に湧いていた。

 街を歩けば、アルフォンス公爵家の紋章の入った旗が至る所に掲げられている。


 「まだ戦争は終わっちゃいないんだがなぁ」


 独立を宣言したもののエルンシュタット王国は勿論のこと、周辺諸国には独立国として認識されていないだろう。

 そして現状、エルンシュタット王国は兵力を疲弊したが必ず兵力を回復させて攻め寄せてくる。


 「でも、ここまで領民に好かれているのも領主冥利に尽きるんじゃない?」

 「それはそうなんだが……」


 グレンヴェーマハの戦いの後、すっかりクーヴァン城に居着いてしまったブリジットと共に領内の視察をしてきた帰りだ。


 「お早いお戻りで、閣下にブリジット様」


 執務室に戻るとトリスタンがそう言いながら俺達を迎えた。

 そして書簡を手渡した。


 「これは?」

 「アウローラ様から先程届いたものになります」

 「この前言ってた外遊?」

 「おそらくな」


 アウローラの達筆な字で書かれた書簡に目を通す。

 『ひとまずの勝利、心よりお喜び申し上げます。過日伝えた外遊の件ですが、この書簡がそちらに届いてから五日後の到着を予定しております。会える日を心待ちにしております。―――――親友 アウローラより』


 え……?


 「もう出発しちゃってるのか……?」

 「みたいね……」


 呆気に取られる俺とブリジット。

 普通、お伺いの手紙って、許可求めるよな?

 で、外遊するって言ったら許可出てから出発だよな……?


 「相変わらず、自己中心的というか突拍子もない行動をするというか……」

 「なんというか嵐みたいな人ね」


 ブリジットも胸甲騎兵率いて俺の元へ来たんだから行動力は凄いと思うが、アウローラの行動力はそれ以上だ。

 

 「トリスタン、歓待の準備を進めておいてくれ」

 「御意」


 突如として決まった、いや決められたと言った方が正しいか、カロリング帝国貴族令嬢アウローラの外遊。

 ただ、どうにも何か重要な目的がある。

 そんな気がしてならなかった。





 そして書簡が届いてから五日後―――――


 「エレオノーラ・ディ・ロタール殿下御一行がまもなく到着なされます!」


 前触れの使者が、クーヴァン城へと入った。

 そして歓待の準備をしていた誰もが、使者の口にした名前に唖然とした。

 なぜなら―――――


 「ロタールってカロリング帝国の皇族じゃねぇかぁぁぁぁ!?」


 そしてエレオノーラ・ディ・ロタールは帝国の第二皇女だった。

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