第5話 軍議
「全員揃っているようだな、では軍議を始めるぞ」
軍議を行うのは本当は明日でもいいと思ったんだがなぁ……。
ブリジットに「あんたは何を呑気にしてるのよ!」と急かされて急遽、行うことが決定したわけだ。
領内の殆どの軍隊は既にエルンシュタット王国との国境となった山岳地帯や公都ラクセンバークに守備に就いている。
そのため主要な指揮官は既にこの軍議に集まっていた。
「御意」
起立した状態で俺に一礼すると指揮官達は着席した。
「では、手始めに戦力の確認からしていく」
トリスタンに目配せをする。
俺自身は、おおよそ把握しているが集まった全員に認知させるのが目的だ。
いつもなら近くの席に座っているはずの副官トリスタンは何を考えてか席をブリジットに譲っていた。
「ははっ、現状我々の戦力は、国境警備隊を含めて公国軍二千八百、アレクシア伯の部隊が八百、ブリジット様の
合わせて三千七百か……かなり集まったな。
戦後処理での戦費が今からでも恐ろしい。
「加えて王国軍の動きはどうか?」
「間諜によれば、コンツに王国軍六千余りが集結中となっています。このまま行けば一万近くを動員してくるかもしれません」
漸減邀撃作戦で戦力を少しずつ削いでいけば、このクーヴァン城で戦闘になる際にの兵力差をだいぶ減らすことが出来るだろう。
だが、領民のことを考えればなるべく市街地での戦闘は避けたい。
籠城戦は、最悪の事態にとる選択としよう。
「少し多いがこれも予想の上のことだ。国境の山岳地帯の要塞群を使うのが最適解だな」
「しかし街道沿いの要塞化は進んでいてもクレルヴォー方面は要塞化が出来ておりません!」
指揮官の一人、ジルベールが慌てて言った。
クレルヴォーは、公国領北部に位置する街で、そこからエルンシュタットへは細い道が繋がっている。
「安心しろ。敵は一万程の大軍だ。あの細い道では行軍に時間がかかって仕方ない。ともすれば選択肢には入っていないだろう。それにベルジク王国の連中が黙っちゃいない」
ベルジク王国は、アルフォンス公国と北部で国境を接する王国だ。
エルンシュタット王国とは、国境で何度も小競り合いをしている。
「そうでしょうか……」
「通っても小勢だ。その道は、ブリジットの連れてきてくれた
「どういうことなのよ?」
ブリジットが首を傾げた。
「まぁ聞いてくれ。俺の立てた戦略は次の通りだ。まずモーゼル川を渡り敵の先鋒にひと当てする。頃合いを見て退却した後は、街道沿いの山岳地帯の要塞群で敵を迎撃、敵を可能な限り要塞に引き付けたところで細道を通って俺の重装騎兵とブリジットの
持続性に欠けるが重装騎兵の破壊力は凄まじいものがある。
さらにエマニュエル伯爵家の持つエルンシュタット王国でも屈指の精強さを誇る
数は合わせても五百程度だが十分に敵本陣を瓦解させられるはずだ。
「ふむむ、私の出番はフィナーレってわけね!」
「そういうことになるな。よろしく頼む」
「まっかせなさない!」
ブリジットは、鼻歌を歌い出しそうな程に上機嫌だ。
「そんなに上手く行くのでしょうか……」
ここまで説明してもジルベールは心配そうだ。
石橋を叩いて渡るような慎重さだからこそジルベールを俺は高く評価している。
人によっては弱腰だ、という人もいるかもしれない。
ただ、軍全体が勢い任せにならないためにも彼のような人材は必須なのだ。
「敵の連携力を弱めるための対策も既に施している」
「それならばよろしいのですが……」
「他の皆も異論はないな?あるなら気軽に申せ」
部下達が意見しやすい環境を作ることも主君の務めだ。
「やはり閣下の才覚は流石でございますな」
「これは戦が楽しみだ」
その場に居合わせた指揮官達の様子を見ると異論もなければ気負いもない。
こうして軍議はお開きとなった。
そしてその日から、「討伐軍の中に裏切り者がいる」という噂と「エマニュエル伯領での賊が活発化している」という二つの噂がまことしやかに流れ始めた。
後者の噂は俺の手によるものではないが、その意図するところはすぐにわかった。
やってくれるな……という思いと感謝の念を抱かずにはいられなかった。
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