第4話 ブリジット参陣

 「領民が集まりましてございます」


 頼れる副官のトリスタンが執務室に入ると言った。

 恐らく今日には、アルフォンス領周辺の貴族には、俺の討伐命令が下っているはずだ。

 近日中には確実に戦争が始まる――――

 そうなったときに、最初に被害を受けるのは領民だ。

 だから俺は、領民に自らの口で避難をお願いすることにした。

家臣に命じて避難させるのは簡単なこと、だがそれは誠実さに欠ける。

 そう考えて可能な限り多くの領民に集まってもらって 自ら避難をお願いすることにした。


 「そうか、手間をかけさせたな」

 「いえ、これしきのこと、幼少期の閣下の面倒を見ることに比べれば何ほどのこともありません」


 トリスタンは、元々俺の養育係だった。

 乗馬術も剣術も槍術もトリスタンに教わっている。


 「なら向かおう」


 クーヴァン城の大広場を廊下の窓から見下ろすと既に多くの領民たちが集まっている。

 五千人程が収容できる広場が埋まってしまっていた。

 アルフォンス領の領民の数を考えればこれでも僅かでしかない。

 全ての領民達に自らの口で戦争への釈明が出来ないことに申し訳なさが募る。

 大広場の壇上に登って領民たちを見渡した。


 「立ったままで聞いてくれ」

 

 慌ててひざまずこうとする領民達を制する。


 「我がアルフォンス公爵家は、エルンシュタット国王より断絶させる旨を言い渡された。しかしながら謀略により極刑に処された父上のことを考えると私にとって到底受け入れることが出来ない。よって昨日、王宮にて独立を宣言した。今日からここは、エルンシュタット王国アルフォンス公爵領ではなくアルフォンス公国だ」


 そこまで言い切ると領民たちの間にざわめきが走った。

 それはそうだろう、いきなり国名が変わるのだから。


 「だが、安心してくれ。お前達がこれまで通りの生活ができるよう尽力していくつもりだ。だがそこで一つ頼みがある」


 エルンシュタット王国内では、最も税率が低く住みやすい場所を目指し善政を敷いた父親の後を俺は継ぐのだ。


 「近日中には、恐らく王国軍との戦争状態に突入するだろう」

 

 既に朝方、王宮から西方に領地を持つ貴族らに討伐令が出たことを間者から聞いている。


 「よってお前達には一旦、避難して欲しい。避難誘導も行うから今日の午後から避難を開始してくれ。そして、俺のわがままに付き合わせてすまなく思う」


 突然示された戦争の可能性。

 領民達はパニックになるだろう、そう思ったが思った程ではなかった。


 「ヴェルナール様なら、心配いらねぇや!」

 「アルフォンス公国にさちあれ!」

 「ヴェルナール様、頑張ってください!」

 「クリストフ公の敵討ち、応援致します!」


 領民達は誰ともなくそんなことを言い出した。

 ここまで領民に慕われている貴族もそういないんだろうな。

 改めて父であるクリストフ公の偉大さを見せつけられた気がした。


 「ヴェルナール!」


 そこに一際大きな声で俺の名を呼ぶ声がした。

 

 「私も応援に来たわよ!」


 広場に凛と響く声の主は一つ下の幼馴染、ブリジットだった。


 「ブリジットか!」

 

 しかもエマニュエル伯爵家が誇る胸甲騎兵クィーラスィアを伴っている。


 「そうよ、あんたの討伐令が下ったから居ても立ってもいられなくなって来ちゃった」

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