第44話 近接砲撃戦

迫る煙幕からは一方的に砲弾が打ち込まれる一方だった。懸命に煙幕の位置から逆算して予測位置を算出する。そして砲撃する。しかし、命中はしなかった。

「なんとかして位置を割り出せ!」

『やってます!次の算出位置を自動入力させます!』

砲撃システムは半自動になっている。それでもデータを入力するまでの工程は人間の作業だ。

しかし、これでは埒があかない。味方の被害も尋常じゃなくなっている。

ついに禁術を使用することを根東は了承した。

「・・・砲雷長、噴進弾の使用許可を認める。」

『しかし、それでは敵に本艦の兵装を露見させることとなります!ましてや今積んでる噴進弾は対潜用なんですよ!』

噴進砲の補給はしていなかったため元々積んでいた対潜用噴進弾をそのまま持ってきたのだ。

「構わん!ただし炸裂位置を調整。設定位置は深度ではない。高度100メートルだ!」

この対潜用噴進弾は水中の設定深度に到達後、爆発し大量の子弾を水中に放つといったものだ。それを空中で炸裂させるのだ。しかし、元々が水中炸裂式な為に水の抵抗に勝てる程の高圧力を持って炸裂する。そのために特に何もない空中で使用するとどうなるかが全く見当もつかないのだ。しかし、これで位置を割り出すしかない。予想では広範囲に拡散した子弾が敵艦に着弾し、その音や何かしらが出てくると思われる。

『司令、セット完了しました!いつでも撃てます!』

「よし、対潜噴進弾、発射!」

前部と後部に備えられていた噴進弾発射装置から一斉に飛び上がる。その煙が一瞬だけ敷島の周りを囲むような煙幕となった。


「艦長、敵がミサイルと思われるものを発射してきました!」

「くそっ!偽装はそのまま、艦を一時停止させ、対空戦闘を開始!」

「イエス・サー!」

改アイオワは急減速しながら対空戦闘を開始した。攻撃が砲弾からミサイルに変わったということは大体の位置がばれている可能性が高い。そしてミサイルの都合上、回避は不可能に近い。そしてCIWSがミサイルを迎撃した。それはもちろんコンピューター制御されている。その攻撃は正確を極めた。しかし、放たれたミサイルに対してのCIWSの射撃手数が少なすぎた。そのため何本かは防空網を突き抜けてきた。

「ミサイル23本が防空網を通過!」

「くっ、対ショック姿勢!」

乗組員の全員が地面に伏せた。オートのCIWSだけが懸命に迎撃行動を行なっている。

しかし、ミサイルは艦に対し直撃による衝撃を与えなかった。

代わりに艦直上に激しい炸裂音がした。


『司令、改アイオワに対するダメージを確認!ここからは音源で大体の位置を把握できます!』

幸運にも防空網を抜けた噴進弾はプログラムされた地点で炸裂し広範囲に子弾を撒き散らした。そして艦艇と思われるものに微量であるがダメージを与えた。幸運は続く。

「あれが、改アイオワなのか?」

近藤の眼前には大型の戦艦がジワジワと姿を現した。艦橋構造物の頂点にあるレーダー機器の類が粉々になっている。恐らく偽装装置もそこにあったのだろう。

「天佑我に味方せり!集中攻撃始め!」

敷島以下艦隊の艦艇が各個に攻撃を開始した。



「艦長!偽装装置がぁ!」

「うるさい!そんなことはわかっている。最大戦速!一気に距離を詰めろ!」

38ktの快速を持って日本軍へと襲いかかる。

「45.7センチ砲、装填完了次第撃てぇ!」

両用砲の12.7センチ砲も弾幕を形成するように砲撃を開始する。

「命中!敵空母に爆発と炎上を確認!」

手負であった飛龍には重すぎる一撃となった。その後も容赦なく砲撃を浴びせられ、砲戦開始から2分で撃沈した。


「司令、飛龍がやられました!」

「・・・無念だ。水雷戦隊、前進!」

雪風以下の水雷戦隊が敵艦に肉薄していった。至近距離からの雷撃を敢行するようだ。

砲撃が水雷戦隊へと集中する。

そして十分に近づいたところで水雷戦隊は魚雷を全弾発射した。全ての魚雷が敵艦の横っ腹を抉りとった。そう思った。

しかし、敵艦はダメージを全く受けていなかった。いや、受けてはいた。それを無理やり内容に見せていたのだ。



「ふははは!やはり愚かだな、ジャップどもは!」

改アイオワにも注排水システムが備わっていた。しかし、それは作動していなかった。その外側の増加水雷防御装甲が全ての威力を相殺していた。そして相殺した装甲は切り離されていった。更に主砲を駆逐艦へと向ける。

「死ねぇぇ!」

HE弾に換装された砲弾が次々に駆逐艦へと放たれた。甲板が炎上するだけで済むものなら優しいものであった。砲弾のほとんど全ては貫通し、艦艇に致命的な打撃を与えていった。そして、1隻、また1隻と駆逐艦が撃沈されていった。



日本軍の水雷戦隊は全滅してしまった。

「・・・なんてこった。」

根東の口からはそれしか出てこなかった。そして敷島の最大の短所が浮き彫りとなってしまった。

『敵艦、最大戦速にて本艦隊を回りながら砲撃中です!砲塔旋回、間に合いません!』

そう、砲塔旋回能力の低さだ。これは現段階ではどうすることもできない。

「副砲はどうした!」

『先ほどからの攻撃で大口径副砲は使用不可能になっており、小口径副砲ではダメージが与えられません!』

『長門改、艦橋に被弾!』

そして、指揮能力を失った長門改は単縦陣から離れていった。摩耶も鳥海も同様にして戦列から離れ始めていた。そして、その2艦はフラフラと航行しながら互いに衝突し機関停止した。

残るは本艦と陸奥改のみ。

ようやく陸奥改が敵艦の防郭を貫通させた。しかし、その代償と言わんばかりに後部副砲弾薬庫に被弾し、大炎上した。その火は陸奥改を包んだ。

遂にCIWSの有効射程まで到達した。

「こうなったら、CIWSも敵艦にこうげきさせろ!」

もちろん狙う場所は装甲帯ではなく艦橋などの艦設備部分である。それは向こうも同じであった。

『レーダー、破損!水上電探も同じ!』

どんどん艦の目が潰されていく。51糎砲も果敢に攻撃する。しかし、今一つ効果が出てこなかった。そして、

「陸奥改が・・・・沈む!」

頼れる味方の戦力が遂になくなった。

さらに熾烈な砲撃が敷島を襲う。

『1番主砲、沈黙!』

『2番主砲、応答なし!』

『左舷CIWS、全門使用不能!砲身が焼けついちまった。交換に10分はかかる!』

悲痛な叫びの中唯一の光が差した。

『こちら後部魚雷発射管、61糎酸素魚雷、3発発射可能!』

「よし、発射!」

そして3本の魚雷が敵艦めがけて発射された。

既に改アイオワも瀕死状態になっていた。

その3本の魚雷はあまりにも致命的なものとなった。魚雷はしっかりと信管を発動させ改アイオワの右舷に大きな水柱を立てた。その衝撃で一瞬左側に傾き、徐々に右側へと傾きが変わっていった。

「よし!撃沈しただろ?なぁ!?」

どんどん艦の傾斜がキツくなっていく。撃沈は確実と思われたその刹那、最後の執念ともいえる砲撃が噴進弾弾薬庫と第2主砲火薬庫を同時に直撃した。そしてその砲弾が誘爆した。

艦全体を衝撃が襲った。それは横揺れではなく、縦揺れであった。

「うっ!」

艦橋乗組員も大半が吹き飛ばされた。

そして、根東の視界が真っ暗になるとともに激しい痛みが生じた。



しばらくすると副長の声が聞こえてきた。

「・・・・・司令!どこですか!」

残った力を振り絞って救助を求めた。

「ここだぁ!助けてくれ!」

どうやら落下してきた天井の下敷きになっているらしい。副長が駆け寄ってきて、瓦礫をどかしてくれた。副長のいた位置は被害が少なかったが俺のいた位置と、他の乗組員のいた位置は天井や大量の瓦礫が落ちてきていた。どうやら艦橋の生存者は俺と副長しかいなさそうだ。

そして副長が歩み寄る。

「・・・司令、意見具申。」

「許可する。」

副長の顔に覚悟が表れていた。そこには無念の思いも表れていたに違いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る