第43話 接近警報

敷島 艦橋

「根東司令、飛龍より連絡です。出撃した第1次攻撃隊が全機交信途絶になったそうです。」

交信途絶とは実質的な撃墜である。

「そうか、攻撃隊のパイロット諸君には哀悼の意を表す。」

攻撃隊の向かった方向に軽く敬礼をした。しかし、そうなると止めれるのは結局この場にいる水上艦隊のみとなった。

「全艦砲戦準備。第一射は全艦統制射撃を敢行し、それ以降は各個に砲撃せよ。駆逐艦は近距離戦になるまで隊列後方にて待機せよ。」

艦隊は警戒陣を解き単縦陣に移行した。

「噴進弾の使用はまだ許可できない。敵艦が発射した場合のみ良しとする。」

まだ噴進砲は貴重なのだ。無駄に使ってしまっては勿体無い。そして改アイオワが来るのをじっと待つ。まるで狩人のように、息を潜めて。その時だった。艦橋が警報音で鳴り響く。

「レーダーに感あり!敵艦が噴進弾を発射!」

「なんだと!」

レーダーディスプレイには真っ赤な20個の光天が一直線に敷島へと距離を縮めていた。

「対空戦闘!急げ!」

一気に空気が変わった。



改アイオワ 艦橋

「ミサイルは間も無く着弾します。」

「そうか。ご苦労。」

「次はどうしますか?」

艦長は少し思案した。

「そろそろジャップの艦艇が見えるぞ。消火作業はどうなっている。」

「はっ。あと1分で消火が完了します。」

「わかった。消火完了の後に光学迷彩を起動しろ。」

改アイオワには大型の光学迷彩装置が存在していた。これは装甲に一定の電流や熱を加えて無理やり装甲の色をその時の海上で目立ちにくい状態にするといったものだ。そのため改アイオワの装甲は第1装甲板はほぼ飾りで第2装甲板から機能する装甲となる。

「消火完了しました。」

「よし、光学迷彩起動!」

ブゥゥンと低く鈍いような音を立てながら海や空の色と同化していった。

「このままミサイル無効距離まで前進!」

「しかし、それでよろしいのですか?」

「どういうことだ。」

「本艦のミサイルはまだ小型含めて50発は残っています。それを打ち切ってからでもよろしいかと。」

艦長はそう進言する副官の背中を軽く叩いた。

「馬鹿野郎、どうせミサイルは撃ち落とされるがオチだ。それなら接近して煙幕と光学迷彩を同時利用して闇討ちするのがベストだ。」

と副官を諭した。


敷島 艦橋

『電探室より、ミサイルの第二射は確認できず。敵艦の所在も未だ不明。』

「そうか。しかし、奴らは近づいているはずだ。警戒を怠るなよ。」『了解。』

このとき俺は不自然に思った。

『先刻の30発の噴進弾はギリギリ迎撃できたがもっと多く保有しているはずだ。それにまだレーダーにも偵察機にも観測員の目にも引っかかっていない。何故なのだ?』

その答えは少し経ってから判明した。


もう昼を跨いでいたので戦闘配置のまま戦闘糧食が配布された。しかし、ほとんと全員が食べ終わっても敵は一向に現れなかった。もちろんこの間にもレーダーはフル活動していた。

急に30分前に発艦した偵察機がボロボロになって帰還してきた。よく見ると機体前方部分が吹き飛ばされており、後席の偵察員は力無く銃座にもたれかかっていた。飛んでいるのが奇跡とも言える。そして車輪が片方出ないまま着陸をした。そのため機体が軽く爆発し、甲板が炎上していた。そして直後、大きな爆発を起こし、周りの作業員もろとも甲板の一部を吹き飛ばした。事態はこれだけで終わらなかった。


『艦長!水上電探、レーダー共に感あり!改アイオワが接近している模様!』

電探士が言うにはもう砲戦距離に入っていたそうだ。

「何故気づかなかった!」

『今さっき電探に感があったばっかなんですよ!私にもわかりません!』

どうやら電探士のミスではなさそうだ。要するに艦船にステルス機能のようなものを有していたということだ。しかし、目視では何故か見えない。次は聴音班が悲痛じみた声で叫ぶ。

『敵艦からの主砲級の発砲音発生!』

そして急に自動警報が鳴る。

「なんだ?」

その警報音の種類は接近警報だ。この艦の接近警報は自分の艦の最大有効射程から2000m近づいた時に自動で鳴るものだ。そして敵砲弾の着弾が敷島を揺らした。


こうなった時には焦ってしまうと混乱につながる。俺の使える力を最大限発揮せねばならん。

「被害報告!」

『第3主砲一部破損!右舷カタパルト使用不能!』

『第1副砲も大破しました。』

『13、14、18番高速対空機関砲、破壊!』

『右舷側高角砲管制装置が故障!復旧は10分後の模様!』

『右舷防郭の一部を貫通しました!』

被害報告は次々と出てくる。

しかし、どれも致命的とは言い難い。

「よし、被害報告を終了しろ。急ぎ敵艦の発砲地点を逆算しろ。」

そうすれば簡単に位置が割り出せる。そう思った。しかし、

『それが・・・、信じられないとは思いますが、発砲煙が無いんです。』

観測員は恐る恐る続けて言った。

『煙突の煙も見えないんです。また発砲音です!しかし、発砲煙は一向に見えません!』

次の着弾地点は長門改であった。奇跡的にもそのほとんどが跳弾に終わったが。

そして煙幕が遠方に突如として張られた。

それはどんどん近づいていった。

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