第42話 防空砲火

伊401潜が最後に通信を発信した地点まで進軍した。そこには無数の鉄屑が浮き上がっていた。

「くっ、やはり間に合わなかったか。」

「根東司令、偵察中の零式水偵より連絡です。『我敵戦艦ノ所在ヲ確認。指示ヲ求ム。』とのことであります。」

「よし、その地まで艦載機を半数飛ばすように飛龍に命令しろ。」

「了解!」

真後ろにいた飛龍の甲板から次々と紫電改が発艦していく。ロケットブースターを装備していないが電磁式カタパルトの恩恵を受け軽々と発艦していく。



同刻

米国海軍 改アイオワ

「副長、モンスターの位置はどこだ。」

改アイオワの艦長は気味悪い笑みを浮かべた。

「はっ、現在先ほど撃沈した潜水艦の場所にいます。攻撃指示を!」

「落ち着け。それより航空機が近づいている。恐らく爆装しているはずだ。後部ミサイルのNo.18からNo.22にデータ入力。目標地点を敵艦載機の直前にセット。」

「了解!ミサイル室聞こえたな!」

『はい。目標を敵艦載機の直前にセット完了しました。』

「よし、ミサイル発射!同時に対空戦闘準備!」

「了解、対空戦闘準備!後部ミサイルハッチより総員退避急げ!」

「カウント10、9、8・・・・・2、1、0!」

改アイオワの艦尾から5本のミサイルが発射された。



同刻 飛龍攻撃隊

『攻撃班長、簡易電探に大型艦船を確認!』

「よし、それが改アイオワのはずだ。もう少し接近してから5式噴進弾を浴びせろ!」

『班長、前方に噴進弾の白煙を確認!』

その報告と同時に前方を確認する。そこには5本の白煙が迫ってきているのを確認できた。

「全機散開、散開!」

必死に叫びながら攻撃隊は一気に散開した。それでいて改アイオワへの進路は変えなかった。


攻撃隊の元々の進路上に5本のミサイルが到達し、そのどれもが何も追尾せずに自爆した。

『ミサイルは目標地点で自爆しました。誘き出すことに成功しました。』

「よし。対空戦闘開始!」

「対空戦闘始め!」

45.7センチ三連装砲が対空砲弾を逃げるように下降してきた攻撃隊を襲う。

一際大きな黒煙を炸裂地点に作る。


班長機と13機の僚機は急降下攻撃のため高い空を飛んでいたが雷装していた機は下降したため対空砲弾の餌食となった。

「やられたか。急降下攻撃を開始しろ!」

『了解!』

下で何が起こっているのか見当もつかなかった。それでも敵は下の攻撃隊に夢中になっているはずだ。そう願い雲を垂直に突き抜けた。その先では地獄絵図が描かれていた。

雷装機は僅かに残るばかりでその機体は既に機銃による牽制のみ行っていた。その少し向こうには撃墜された味方機が多数浮かんでいた。

それでも行かなければならなかった。

「全機、臆するなぁ!攻撃開始!」

翼下に懸下された5式噴進弾をありったけ艦橋部分に撃ち込む。そのコースは回避不能のはずだった。しかし、一瞬にして噴進弾は敵艦のCIWSによって叩き落とされた。


「ロケット弾の迎撃に成功!」

「奴らを早く始末しろ!」

温存していた26基のCIWSが攻撃隊を襲った。優先目標をまだロケット弾の発射していない機体に絞るようデータを入力した。

艦の装甲とは別に5重に装甲を施したデータ室には高性能コンピュータに優先目標のデータを次々に入力していく。それによるオートマチック射撃は正確かつ無駄がない迎撃をしていった。次々と攻撃隊が落とされていく。


優先目標から除外された機体は機銃による僅かながらの抵抗を続けた。

しかし、優先目標を全て撃墜したCIWSがゆっくりと銃口を向ける。そうして1機また1機と落とされていった。気づけばもう自分以外いないと攻撃班長は周りを見ずに悟った。

「・・・もはやこれまでか。」

そう言い残しエンジン出力を限界まで上げた。

「最後に1発、でかいの喰らいやがれぇ!」

そう叫び機体胴体下の100キロ爆弾の安全装置を解除した。狙うは改アイオワの前部主砲ただ一つ。全てを打ち落としたCIWSの全てが自らの機に狙いを定める。そして一斉に打たれる瞬間に機体を急上昇させた。急激なマニューバであったために一瞬CIWSは目標を見失った。急上昇した機を再び落下軌道へと変針する。


「まずい!取舵いっぱい!奴の自爆を阻止しろ!」

そう叫ぶ頃にはもう急降下していた。

「艦長、間に合いません!」

「衝撃に備えろ!」

全員が対ショック姿勢をとった。


そのまま紫電改は高角砲の餌食となり主砲に直撃することなく改アイオワの艦首部分に直撃した。多大な質量エネルギーと100キロの爆弾は艦首部分を大破させることは成功した。しかし、それは40機前後の機を持ってしての唯一の戦果であった。それはあまりにも対価が重いものとなった。

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