第40話 死霧

ブラックウルフ隊の残存勢力はロングビーチ海岸線に到達した。そこには日本軍の陸上部隊が大勢展開していた。

ここに来るまでの道中で既に10機ほどは落とされていた。しかし、それを差し引いてもまだブラックウルフ隊は14機残っていた。

「各機、フォーメーション『アロー』にてDDガスを散布開始!」『了解!』

専用計算機に観測された気候状況を入力していく。そして散布予定地に到達する。

しかし、そこは日本軍の仮設対空砲陣地であった。仮設なのでライセンス生産されていた88粍砲アハトアハトはまだ設営されてはいなかった。しかし、25粍機関銃は多数配備されていた。


「班長、上空に回転翼機が多数います!」

「何!対空戦闘!恐らく対地攻撃機の一種だ。前線司令部に緊急報告しろ!」

命令が下されてから1分で対空砲火が始まった。


「対空砲火に巻き込まれるなよ!DDガス、散布開始!」

ハードポイントに懸架されたランチャーポッドから無色のガスが撒かれた。


日本軍陸上前線司令部

「司令長、第21対空陣地より入電です。」

「読め。」

「対地用回転翼機が多数、司令部方面に向かっているとのことです。」

その時外からバラバラと回転翼機特有のローター音がした。それと同時に司令長周りの部下が次々と倒れていく。

「何があった!おいしっかりしろ!」

いくら叩いても反応がなかった。

「おい、しっかりせ、、ん、、、、、か。」

そして司令長も倒れた。


「よし、攻撃成功だぞ!」

砂浜にいた兵士が次々に倒れていく。

まだ生きていた兵士の一部が何かしらの抵抗を続けていた。それを無慈悲にも機関砲で跡形もなくす。

「全機撤退しろ!」

ブラックウルフ隊は攻撃完了の合図と言わんばかりに全ての装備を打ち尽くしてから撤退していった。

しかし、レーダーに光点が映った。

『敵の航空機接近!速度は・・・時速700kmで突っ込んでくる!』

それは艦隊集結地にいた空母「隼鷹」から発艦されたロケットブースター搭載型の紫電改であった。


「こちら迎撃隊、敵の回転翼機を目視。迎撃行動に移る。各機、ロケットブースターを切り離せ!」

紫電改の腹に取り付けられていた、ロケットブースターが外された。

この世界線においては旧式ではあったが十分な性能である。

20粍機関砲がブラックウルフを穿つ。

迎撃用の特殊弾薬なので対空炸裂弾になっていたのでブラックウルフは瞬く間に黒雲に飲まれることになった。運よく回避できた機が反撃を試みる。

「オートジャイロの30mmを回避できるかよ!」

30mmチェーンガンが紫電改の群れを薙ぎ払う。それによって紫電改は4機落とされた。それでも急速反転し、攻撃したブラックウルフを一瞬にして爆発へと変えていった。


それが何回か続き、迎撃隊の半数が撃墜された。しかし、ブラックウルフ隊も残すは2機のみ。決着をつけるかのように両者ともヘッドオンになった。その時、辺り一帯を機体がバランスを失うほどの強風が襲った。両者ともバランスを崩し、迎撃隊はこれを理由にしたのか撤退した。更にこの強風により地上のDDガスが吹き流されてしまった。

「くそっ!この強風ではガスが!」

そう叫んだと同時に復活した対空砲の餌食になった。

「畜生、畜生めぇぇぇ!」

もう1機のブラックウルフもまた落とされていった。起き上がったばかりの将兵は自分の周りで何が起こったのかを受け入れるのに少しの時間を要した。だがそれを無理やり胸に閉じ込めて再び進軍を開始していった。


この一連の戦闘は迎撃隊を通じてこの俺にも伝えられた。

「やはり、アメリカも新戦力を投入してくるか。戦力の増強を図らなきゃ駄目だな。」

そう思った。

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