第38話 追撃戦

DBS作戦は計画通りに進行していた。

ドイツ軍は破竹の勢いで米本土を侵攻し、それでいて補給線を徹底し強固な補給体制を整えていた。ソ連もカナダ側の了承を得て、カナダ側から五大湖へと侵攻した。イタリアの陽動部隊はアメリカの総海軍戦力の23%を引き摺り出すことに成功した。

しかし、日本軍メインの太平洋側の侵攻はうまくいっていなかった。強固なトーチカと地雷などのトラップに阻まれ続けていた。特にトーチカは戦車などの重火力を持ってしても破壊は容易ではなかった。

「根東司令、対地砲弾が残り一斉射分です。全て使いますか?」

「使おうか。ただし一目標に対し1発のみの節約射撃でいこう。」

「了解です。補給船到着には後2日はかかりますからね。」

補給船はアメリカ海軍の必死の抵抗としてことごとく沈められ続けていた。そのため太平洋側戦線は補給がそろそろ厳しい頃になっていた。


アメリカ 五大湖近郊

「同志クリチョフ、日本軍からです。食料と燃料の援助を求むと言っています。」

「カナダの陸路を使え。燃料は少しだけの代わりに食料は多めに渡せ。」

「了解です、同志。」

ソ連軍は五大湖近郊を完全掌握し抵抗軍の投降を待っていた。しかし、投降猶予時間をちょうど過ぎてしまった。そこに、米軍将校が白旗を掲げてやってきた。

「同志クリチョフ、投降兵です!」

「・・・遅かったな。全隊、攻撃を再開!」

『了解!』

ソ連軍は、僅かな希望を抱いて投降した米軍を轢き殺していった。野砲は煉瓦造りの住宅街を吹き飛ばし、戦車はその瓦礫を踏み潰し、歩兵は屍を超えて進み続ける。


1週間が経った。

アメリカ版のノルマンディー上陸作戦はようやく旭日旗が掲げられたことにより決着がついた。

ソ連は米空軍の抵抗に遭い侵攻停止していた。

ドイツも同じような状態であった。

陽動作戦の部隊は米軍の圧倒的物量の前に遂に膝をついた。全滅であった。

そして、太平洋側はさらなる苦境に立たされる。

「司令!大規模な海軍戦力が我が艦隊に進路をとっています!」

「規模は!?」

「敵はサウスダコタ級戦艦が10隻近く、ウィチタ級重巡洋艦30隻、量産空母20隻の大艦隊です!」

一体どこから出てきたのかという疑問で溢れていた。確認地点は南の方角であった。

疑問は確証に変えておきたい。

「索敵機をメキシコに飛ばすのだ!」

「メ、メキシコでありますか?」

「そうだ、メキシコだ!」

メキシコの何処かに秘匿ドッグがあったとしたら、秘匿工廠があったとしたらそこで戦力を貯めておくことが可能だ。

「我が艦隊は敵艦隊と接触しこれを殲滅する!ここに残る艦艇は出雲をはじめとした第2大艦隊と大和旗艦の第5大艦隊とする。残りはついて来い!」

聯合艦隊は迎撃艦隊と残留艦隊に分かれた。


「ジャップの航空機接近!」

「対空戦闘開始!戦闘機へのフレンドリーファイアだけは絶対に避けろよ!」

ボフォース12.7mm3連装機関銃が日本軍機を襲う。更に対空高角砲などの対空砲塔の吐き出す対空バブルが黒雲を作る。

「ふん、プロペラ機ではなぁ!」

ジャップはどうやら速度の遅い攻撃機を展開している。舐められたものだ。

対空特化のウィチタ級である。それが30隻もいるのだ。それにあの量産空母には秘匿兵器があるのだ。これで逆転できる。そのために前方の敵艦隊を蹴散らさなければ。

「敵機、爆撃開始!」

「爆弾を撃ち落とすのだ!」

精密射撃による対空砲火は次々と爆弾を撃ち落としていった。しかし、爆弾は炸裂した。

「爆撃が命中!しかし、これは煙幕とアルミニウム箔の目眩し用です!」

レーダーが使い物にならなくなり、目も煙で見えなくなった。

「艦隊、停止!こちら旗艦ウィチタ、全艦停止せよ!衝突の恐れがある!」

止まりさえすれば的にこそなるが向こうも何もできまい。そう思っていた。

「艦隊長、砲撃音を感知!」

「なんだとぉ!」

大きな水柱がウィチタのすぐ隣に上がる。

このクラスの大きさはやつしかいない。

「敵艦隊にはあのバケモノがいる!量産空母を後退させて秘匿兵器を出撃させろ!」

その命令が伝えられた時、ウィチタは敷島の砲撃により艦橋一帯が吹き飛ばされた。


「敵艦に命中しました。次弾の修正、無し!」

「敵艦、空母を中心として後退していき、重巡がそれの殿を務めているように見えます。司令、どうなさいますか?」

「・・・怪しいと思わんか?」

「確かに、量産空母からは航空機の発艦の気配がありません。」

丁度、航空写真が偵察隊から渡された。

「これは・・・。甲板には何も置いていないじゃないか!」

「ということは何かを隠している可能性がある。注意深く追撃をし、正体を探ろう。」

「了解、艦隊前進!」

艦隊は再び距離を詰め始めた。


「サウスダコタ級ではバケモノの相手にならない!下がれ、下がれよ!」

必死の命令を無視し残った戦艦は量産空母の盾となって散っていった。機動力が売りなのにそれを捨ててまで防衛に徹していたのだ。

重巡もそれに倣っていた。


地獄の追撃戦が始まった。

米軍はバケモノを相手に何もできずに逃げたり、盾となったりして時間を稼いでいた。

対する日本軍も必死の覚悟で足止めをしてくる米軍に苦戦していた。

それがしばらく続いたのち、

「根東司令、量産空母をロスト!」

「くそっ、大逃げ成功かよ!」

米軍の量産空母群は後退に成功したのだ。

これが後の日本軍の悲劇へとつながる始まりとなる、近郊の都市であるロングビーチからつけられた『ロングビーチ追撃戦』であった。

この時の日本軍はまだ知る由もなかった。

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