第35話 茨城魂VS田舎者魂

ろくな回避軌道をとっていなかったB29は格好の的であった。三式弾の生み出す対空バブルにあたり爆発四散する。第1射でB29を3機落とすことに成功した。装填の間は長10糎高角砲が間を繋ぐ。そして装填を完了させ、再び41糎の黒雲を作り出す。

「目標に命中、これで5機目です!」

「よし、奴らに茨城魂を見せつけれたな!」

茨城特殊対空部隊、通称茨城隊はその成果を見せつけた。彼らは各戦線で鍛えられあげた実戦部隊であった。これくらいの大きさを狙うことなど造作もなかった。しかし、その余裕は一気に消え去る。強行爆撃体制に入ったのだ。

「おい、まずいぞ!爆撃する気だ!」

「・・・肉を切らせて骨を断つ、か。」

投下された爆弾は隠蔽式CIWSによって一部を破壊したものの、その数は知れていた。

部隊のいた山一帯を爆弾の衝撃波が襲う。


「ふん!ザマァないな!ジャップの山猿ども!」

残っていた味方は5機まで減っていたが奴らを屠るのには多すぎるぐらいだ。迎撃機もこれを恐れて逃げていった。更に、今の爆撃で対空攻撃がピタリと止んだ。つまり、壊滅だ。

「よし、このままこの山を破壊してからポイントBに移行する。」

『了解・・待ってくれ!下から光が!』

それを最後に隣の機は爆発した。

「ちっ、まだ何かあるのか!」

山からは白煙が垂直に上がっていた。


「ふふっ、切り札は残すものではないのだよ。使うものなんだよバーカ!」

「2番、4番発射します!」

それは山の地下に造られた施設であった。先程の爆撃の瞬間、地上要員は全員この施設に退避していた。これはミサイル発射管制塔であった。誘導は手動で可能であった。大型かつ初期段階のミサイルのため速度はかなり遅かった。それでも当たれば最強であった。

それは大量の備蓄されていた。ここはミサイルの墓場であったのだ。


「クソッタレがぁ!!!・・・・・・全機に通達。ポイントBまで交代しろ。」

しかし、それに応答する機は1つもいなかった。周りに友軍機はいなかった。あるのは火球だけであった。

「隊長、もう我々しかいないようです。」

「奴らに一泡吹かせてやりましょう!」

「ここで引いてしまってはまた田舎者呼ばわりされちまいます!」

「俺たちの下の代に誇れるような人間でいたいんだ!頼む!」

1番機の搭乗員は全員徹底抗戦をする気でいた。無線機からは英語で投降を呼びかけるメッセージが流れ続けていた。ジョンソン少尉は彼の父親の形見であったリボルバーを手に取る。そしてうるさい無線機に弾を打ち込み破壊した。

「1番機、ラストアタックを仕掛けるぞ!農場育ちの田舎者魂見せつけっぞ!」

『おう!』

彼らの魂をかけたラストアタックであった。それは特攻であった。爆弾はまだ少しあったがそんなのする余裕は既にない。なら大量の火薬を持っている対空陣地を吹き飛ばせばいい。冷静に考えても頭の狂ったやり方だ。それでもやらなければならないのだ。


「敵機、当陣地に向け急降下してくる!」

「何ぃ!特攻する気だぞ、奴ら!対空防御!」

噴進砲も稼働し始める。しかし、奴らの特攻の前では無に帰した。元々命中精度がないものを細身の円柱に当てようというのだ。無理がありすぎる。

「依然として進路変わらず健在!」

「・・・ここは任せた!」

「・・・了解!」

隊長は逃げたのではなかった。管制塔のちょうど真上には試製10糎三連装高角砲が1基あった。弾は1発入っていた。これは対空徹甲内部炸裂榴散弾の0式砲弾であった。1発で駆逐艦にも貫通ダメージを与えれる代物だ。奴らにタイマンを張られているのだ。なら受けなければならない。しかし、有効信管作動距離は高度450だった。この距離が一撃必殺の距離だった。ここに究極のチキンレースが始まった。無論、茨城隊だけの参加だったわけになるが。

対空ミサイルや噴進弾など各種対空戦闘は継続されていたがだいぶ息切れが始まっていた。1撃必殺の距離なら跡形も残すことなく敵は吹き飛ばされる。そう願いながら砲塔を動かした。


「ジャップの高角砲が動いた!」

「あそこの真下に何かあるに違いない!さっきその真下から人が出たり入ったりしていたんだ!」

「よし、あそこに特攻を仕掛ける!ミサイルサイロはおそらく大したことがないはずだ。その施設のダメージが日本軍を苦しめれる!」

そしてミサイルサイロから高角砲に変針する。もうミサイルは無用の長物と化していた。噴進弾がたまに掠める程度だった。しかし、依然として高角砲はこちらを向けたまま撃ってこなかった。

「・・・機銃掃射!」

前部の20ミリ機関砲が高角砲に鉄の雨を降らすがあまり有効ではなかった。それでも懸命に続けていた時、3連装のうち2つが爆発し吹き飛んだ。もう1門のみだった。


「くっ!今の掃射で1門だけになっちまったか。」

それでも諦めていなかった。

狙いはドラム缶のど真ん中!ただそれだけ!

「目標、600、550、500!」

そう知覚した時には彼の体は火に包まれていた。機関砲の掃射により内部は弾丸ミキサーになっていた。そして、機器がどんどん炎上し周りの火薬も引火し爆発の連鎖が始まった。しかし、彼は最後の力でトリガーを引いた。


「よし、高角砲をやったぞ!このままその下のとこまで・・・!」

そして彼らもそう思ったと同時にこの世から消えていた。隊長のはなった一撃はB29を木っ端微塵にした。それは塵も残らぬ一撃となったのだ。

茨城魂と田舎者魂の対決は究極のチキンレースの結果、永遠に勝者不在となったのだ。

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