第5章 (多分)止まらぬ戦火
第30話 平行作戦
降伏を彼らは遂にした。もう少しその決断が早ければ無駄な血を流さなくて済んだのに、そう思いながら交渉のテーブルについた。
「我々は完全降伏である。条件は全て受け入れる。ただ、クルーだけでも本土に返してほしい。それだけはお願いしたい。」
「了解した。では、条件を言わせていただく。貴艦隊の装備品は我々の管轄下に置かれる。」
これにより、ノースカロライナ級を一隻良好な状態で鹵獲に成功した。他の艦は案外普通だったので改造することとしよう。
「次に乗組員についてだが、これは全員本土への帰還を約束しよう。」
一応、撃沈した艦の乗組員回収用に5隻ほど旧式の大型兵員輸送船を用意していた。これだけあれば流石に全員帰せるだろう。
「最後に幹部クルーだ。捕虜にして今後の交渉材料としようと思ったが、やめた。」
「何故だ。少なくとも私だってそこそこの政治的価値はある方だが?」
「いや、あんたにも家族がいるだろ。後、捕虜は我々はあんまり取りたくない。後々それで因縁つけられることがしばしばあるからな。」
前世でも、捕虜が原因で問題になって訴訟まで起こって大変なことに世間様はなっていたこともあったからだ。
こうして降伏に関する会議は終了した。
これで海に関してはひとまず安心できる。
そして、急いで病室まで走って戻った。
「先生!どうなりましたか?」
「・・・大成功だよ!記憶のショックに何とか耐えれたようだ。今はまた寝ているがさっき軽くテストをしたがはっきりと覚えていたよ。もちろん中将のこともさ!」
大きなため息を病室に漏らした。
それは安堵のため息であった。
これで2つ目の心配事もひとまず区切りがついた、と思われる。
そして、平行作戦が密かに陸で行われていた。
アメリカ サンディエゴ海軍基地
『こちら、第3中隊。予定ポイント到達。迫撃砲支援準備完了しました。』
『第2中隊です。予定通り海軍工廠付近に到達。航空支援用マーカーの設置に完了。』
『第5中隊、敵航空機が出て来た模様!上の連中はバレてます!』
顔に大きな傷跡を持った大男は無線機で
「・・・作戦に変更なし。各中隊、目標任務の達成に全てを尽くせ!」
と作戦開始を告げた。
その大男は岩本大作 陸軍大尉だった。
この作戦の指揮官である。
そもそもこの作戦は海軍の作戦成功に伴って行われる作戦だ。
なるべく要約を試みる。
第1段階
海軍の成功を待つ。成功したら作戦開始。失敗すれば速やかに撤収。
第2段階
成功後、アメリカ本土のサンディエゴ海軍基地を陸軍歩兵戦力で制圧をする。
第3段階
突入部隊に護衛対象として海軍部隊を入れ、海軍戦力の奪取に努める。
第3.5段階
余裕があれば軍事工廠を使用不能にする。
第4段階
海軍戦力の奪取を完了したと同時に回収ポイントまで撤退。
といったものだ。完全制圧など毛頭する気はない。しかし、敵の海軍力削減や我が軍の戦力補充用に一隻でも多く手に入れておきたい。
そして、アメリカに脅威を与えておきたいのだ。この作戦には海軍から発艦した陽動の爆撃部隊も向かっている。これの爆撃を目安として作戦は開始されるつもりだった。しかし、
『岩本はん!上の奴ら完全に捕まってもうた!爆撃は無理や!』
高射砲や近くの飛行場から飛んできた戦闘機が上の爆撃隊を襲う。下からでもわかるほど彼らは劣勢だった。
「航空部隊に連絡、帰還命令を。」
「しかし、それでは工廠にまともなダメージが入りません。」
「作戦要項には我々で可能なら破壊せよと書いている。だから俺らでやる。作戦開始!」
半ば強引な作戦開始ではあった。しかし、注意は全て空に向けられていた。陸には全く向けられていない。もし向けられていたら、対歩兵用車両の一つでも出てくるはずなのだから。
第3中隊による迫撃砲支援が始まった。
放たれた擲弾はほとんどをスモークやアルミニウム箔によるものを採用した。あくまで第1攻撃としてだ。
そして第2中隊は航空支援の補助役であったがその役目を終え、第1中隊と共に制圧行動に移る。
第4中隊は海軍部隊であった。しかし、彼らも陸軍での経験を経てこの部隊に来ている。それも実戦を経験している猛者達ばかりだ。
第5中隊は第3中隊の護衛だ。
最後の第1中隊はスモークをくぐり抜け敵の司令塔を制圧するために前進した。
今回の作戦遂行のために渡された支給品は全てサプレッサー装着型の装備だった。アーマーも全て色彩迷彩を施してある。まさに大規模ステルスミッションだ。対人レーダーもアルミニウム箔で機能不全に陥った。
そして、一気に司令塔を駆け登る。その途中で
「こちら第1中隊、煙幕支援再度要請する。」
「3中隊了解、開始まで10秒待て。」「了解」
再び支援砲撃の要請だ。
これは海軍部隊の安全のためのスモークだ。更に第1波のスモークがそろそろ晴れてくる頃だからだ。そして徐々に階段を登る。または降る。
そしてパスコード付きの部屋に岩本はたどり着いた。どうやら中から騒がしい声が聞こえる。階段を上にいった連中はハズレだったようだ。まあそこは管制塔だろう。制圧に越したことはない。そして成形爆薬をロックキーに貼り付ける。
「・・・ショータイムだ。」
起爆スイッチを押した。扉は爆風により吹き飛んだ。そして煙を立てる。
「1中隊、制圧開始!」
一気に中へとなだれ込む。思いのほか広かった。勘のいい奴ら揃いですぐに射撃戦となった。向こうはバリケードを作成していた。どうやら徹底抗戦するつもりのようだ。その先に更に扉があった。岩本はとても耳がよかったためそれが聞こえた。
『軍艦が狙われている!陸軍の駐屯部隊をそこに回せ!』
このままでは鹵獲には成功しない。早く止めさせなければ。そして部下に運ばせていた最強の兵器を使用する。もうステルスは辞めた。派手に行かせてもらう!
「無反動ランチャーだ!くらいやがれ!」
日本軍正式採用型 無反動ランチャー
名称 滅槍2型丁
これは大型のロケット砲弾を発射する。しかし、これの長所かつ短所は2発装弾式であることだ。それによる給弾ロスは一時的に減る。しかし、それにより重量も自ずと増加してしまうのだ。それは大男には全く関係がなかったのが最大の利点ではあったが。
ロケット砲弾は敵のバリケードを一瞬にして破壊する。
「どんどん撃ちまくれ!」
更に後方にいた分隊支援火器の88型重機関砲を地面に伏せずに立ったまま撃ちまくった。普通なら反動などに耐えれない。しかし、彼は大男だ。関係ないのだ!
弾がちょうど切れてしまったと同時にバリケードで抵抗していたやつを全員排除した。
「成形爆薬をよこせ!」
「こっちの線につなげてください。・・・違います、こっちです!」
案外手こずってしまった。その間にも敵陸軍は迫って来ているというのに。そしてやっとの思いで設置した爆薬を起爆する。中に催涙弾を投射する。
「ゴホッゴホッ!何が起きたんだ!」
「ま、まえがみえんぞぉ!」
明らかに混乱していた。ここまで来て殺してはならない。
「降伏せよ!我々は日本軍陸軍部隊だ!」
彼らは催涙効果に悶えながら唖然とした。
「今すぐに戦闘を中止させろ!さもなければ全員殺す!」
全員が銃を米兵に向けた。
「そ、そ、そんなこと言ったって無駄だ。もうみんな死ぬんだ!うわぁぁぁ!」
彼はそう言って発狂してしまった。
何が起きている。
彼の疑問はすぐに証明された。
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