第29話 紅のミッドウェー
神頼みされた51糎の砲弾はノースカロライナを目掛けて飛翔しその軌道は落着軌道に入った。そのコースは確実に当たる軌道だった。
しかし、神とは気まぐれなものである。確実に当たると思われた砲弾は突如上空を吹き荒らした突風によって、全て右に外れてしまった。全てをかけて放たれた攻撃は無に帰ってしまった。
「副長、砲弾は命中しませんでした。」
「・・・無念だ。出雲艦橋クルー対してに略式敬礼!」
手の空いていた乗組員が大破し炎上している出雲の艦橋に敬礼をした。もう出雲の自慢の前部主砲も全て叩き潰された。彼らはまた180度回頭し味方陣へと退却していった。しかし、出雲のダメージが予想より高かった。そのため何とか殿を務めることとなった。
「51糎砲、装填完了まで残り30秒!」
「目標をノースカロライナから最も本艦に近い艦とする。今だと・・・あのウィチタ級が1番近いか。前方ウィチタ級に照準!」
「了解、目標変更。前方ウィチタ級に変更!」
今現在の脅威度は巡洋艦が最も高い。諜報員の情報通りならあの艦はウィチタ級重巡洋艦だろう。あれは日本海軍の重巡となら余裕で勝てる砲火力と装甲だ。
しかし、それはあくまで重巡VS重巡の場合に限る。戦艦VS重巡ならいくらこっちがボロボロでも流石に勝てる。奴らは自分達にヘイトが向かっていないことをいいことにどんどん距離を詰めつつ出雲に撃ち続ける。
「装填完了!照準修正、完了!いつでもどうぞ!」
「よし、撃て!」
そしてウィチタ級は何が起こったのかわからずに船体から大きな火柱を上げた。それに続き弾薬庫も爆発したらしく、爆発の余波は止まることを知らなかった。
「浮かれるな、次の目標はあの迂回しながら接近してくる旧式のアイツだ。」
それはアリゾナ級戦艦だった。鈍足、平均的な装甲、平均的な火力と微妙なやつだ。それでも近代化改修されており、速力だけは改善されているようだ。
そして、また放つ。流石に戦艦相手となると一撃必殺とはいかなかった。しかし、大ダメージを与えたようだ。明らかに速度が落ちている。そして気づけば味方と思われる大艦隊がいた。これで違ったら本当におしまいだが。
「副長、後方の艦隊から光信号!」
「・・・読み上げろ。」
「『貴官らの健闘に感謝を申し上げる。現在我々は敵艦隊の全てを全艦が射程に捉えた。囮役の両艦艇に感謝を改めて申し上げる。』です!」
発は長門改からだった。そして敵艦隊に対し最後に残っていた、投光機で
『貴艦隊は現在、我が軍の全艦艇が必中射程に捉えた。速やかに投降せよ。繰り返す、投降せよ。』
と伝えた。確実に見えているはずだ。それでも彼らは止まることを知らなかった。
「何が必中射程だ!戦い、戦い!それこそが我々に課せられた使命である!」
ノースカロライナの艦長は全員にそう鼓舞した。全員精鋭中の精鋭だ。心は一つである。
「艦隊、前進!敵大型戦艦1隻にのみ集中攻撃!あの今だに砲撃をしてくる艦だ!」
「了解!目標、敵大型戦艦。撃ち方はじめ!」
憎しみの連鎖は断ち切られることはなかった。
「敵艦再び発砲!目標は本艦と思われます!」
「ビビるなぁ!この砲撃は回避したら負けなんだ!どっしり構えとけ!」
回避指示も攻撃指示も出さなかった。これは情けではない。敵の思考を読んだのだ。
大きな水柱を右舷側に立てる。
「か、回避成功、何ですかね?」
「まあ回避成功と言っておけば良かろう。」
これは咄嗟に思いついた事だった。
直感に過ぎないが砲撃は常に先を読んで動くものだ。さっきまでは回避機動を必ず取るようにしていた。しかし、回数を重ねればそれはパターン化されていく。そのため、わざと回避しなければ回避予想先に砲弾が来るだけだ。だから当たらない。そして時はきた。
八岐大蛇艦隊の総砲撃だ。
「こちら臨時旗艦、長門改。全艦連動射撃を開始する。電探相互補助システムを各艦起動せよ。コードナンバー、480016181803。」
電探相互補助システムによる全艦連動射撃はあくまで副産物に過ぎなかった。しかし、それは同時に1つの目標を狙うためにはもってこいなのだ。
「中将、目標指示を。」
「では、目標は無傷のあのノーフォーク級だな。あれから徐々に沈める。」
表示版には次々とコードが打ち込まれ連動している赤いランプが点る。そして全てが赤になる。
「砲撃準備完了!いつでもどうぞ!」
「・・・全艦、連動射撃開始!」
そして何百隻からなる艦隊からの砲撃が始まった。
「こちら、偵察機009!日本軍艦隊方面から激し
い砲撃がある!全艦回避されたし!」
ようやく発艦できた偵察機がその悲劇を伝えた。
「全艦回避!・・・広域になるぞ!」
そしてノーフォークを中心とし大小様々な水柱が立つ。もちろん、命中弾が多数であった。
「ノーフォーク級に命中!木っ端微塵になっています!」
「よし、よくやった。では10分待とう。」
敵に与えらえれた最後の選択の時間だ。
「艦長、ノーフォークのみ意図的に狙われていました。これを。」
ノースカロライナの副長は艦長に写真を渡してきた。それは航空写真であった。明らかにノーフォークのみ狙われていた。そしてあえて彼らは撃ってこないのだ。恐らく無言での降伏勧告だろう。完全に見くびっていた。ジャップと侮ってはならなかったのだ。
奴等はクレイジーだ。そして通信機を手に取る。
「中将、ノースカロライナから広域通信!」
そして通信士と変わった。
「こちら、大日本帝国海軍八岐大蛇艦隊。総司令官の根東中将である。要件を伝えられたし。」
「私はcbs艦隊臨時旗艦ノースカロライナ艦長、ジャック大佐だ。現時刻をもって我々は無条件降伏を宣言する。流石だよ、Mr.根東。」
その言葉により、MI作戦は完全終了が確定した。
ミッドウェーの海は紅に染まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます