第27話 報復の槍

アイオワと敷島分艦隊は徐々に距離を詰め始めていた。そのためお互いの砲撃がほとんど交わせないほどのものとなっていった。

「中将、左舷第5高角砲区が使用不能にされました!」

「後部射出カタパルト大破!」

相次ぐ被害報告の中、副長はある提案を持ちかけてきた。

「・・・VLSの使用許可を。」

それは悪魔の提案であった。VLS内にあるミサイルは誘導式のものがあるがあくまで対地目標用だった。しかし、最悪のケースを鑑みて対艦用ミサイルを4発のみ装填していた。この距離なら発射はバレても撃ち落とすことなど不可能に違いない。更にアイオワ級はちょうど4隻。1隻に1発で足りるのだ。しかし、これは戻ることができない兵器であるのだ。ミサイルを使えば各国もそれに応じて開発をしてしまう。

「副長、ダメだよ。絶対に使うな!・・・あれは悪魔の兵器だ。」

「・・・・・・・・すみません。」

彼だって使用はしたくないのだ。しかし、このままだと同胞が見殺しになってしまうかもしれない。

「副長、これ。」

俺は副長に鍵を渡した。

「これは!火器使用自由許可認証キーじゃないですか?これで何をしろと?」

覚悟は決めた。

「・・・副長。ミズーリ、ニュージャージー、ウィスコンシン。そして後方に位置するノースカロライナの4隻を沈めろ。このキーは2人で同時に回さなければ意味をなさん。」

奴らを沈める。沈まなければそれでいいのだ。沈んでも造られる前に殺ればいいのだ。

そして、副長と共にキーを回した。

非常事態を示す赤色灯が火器管制室と戦闘艦橋に点った。そして艦内には警報音が鳴り響いた。その後、インプットしていた音声が流れる。

『現在本艦は秘匿兵器の使用が認可されました。その為、VLS付近から退避してください。繰り返します・・・・。』

秘匿兵器のミサイルは砲術長と彼の信頼している者、そして俺だけが操作方法を知っていた。彼らと共に艦長室の奥の秘密の部屋へと入った。そこがミサイル発射とその管制を行うとこだ。

「これが秘匿兵器管制室・・・。」

砲術長が息を呑むのも無理はない。ここは壁が真っ白で、あるのは機械と机のみだからだ。

「では、諸君。歴史を創るぞ。」

各種設定が次々にオートとマニュアルで進行していく。その間にも距離は縮まっているのだ。

「中将、セット完了しました。あとは突入方法と最終誘導のみです。」

「ありがとう。ここから先は私だけで十分だ。」彼らは敬礼をし部屋を出ていった。

「・・・さてと、発射しようか。」

手元の発射レバーを奥に倒した。


「少将!敵艦より噴射煙発生!垂直で何かが発射された模様!」

「何?まさかロケットか!」

この頃すでにドイツではV1飛行爆弾やV2ロケットなどが開発されていた。しかし、各国はそれを侮っていた。まずV1だがこれは速度の遅さのため航空機でも落とされており、レーダーで警戒さえしておけば対処できた。そしてV2は誘導が困難で自国で発射し自国に落とす始末だった。そのためどの国もこれらを軽視していたのだ。

しかし、この日を境に常識は変わった。


「副長、ミサイルが。」

「わかってる、何も言わんとってくれや。」

彼は自分の進言を悔やんでいた。しかし、もう後戻りはできないのだ。

「ミサイルの進路が管制室よりコピーされてきました。敵艦の直上からの攻撃進路のようです。」

これならレーダーに映る。更に直上からの攻撃の先駆者はアメリカの急降下爆撃が発祥なのだから。撃ち落とすことは容易にわざとしていた。


「1発目から4発目のブースター切り離し、完了。第2ブースター点火よし。最終誘導を1番から開始。2番から3番を更に高高度までに設定。」

わかっている。まだ間に合う。ここで自爆信号を送れば。しかし、副長から悲報が届く。

『中将、単刀直入に申しあげます。・・・・・・美咲さんの乗った蒼龍が轟沈しました。』

それはあまりにも突然だった。その時悲しみや美咲の安否より怒りが真っ先に込み上げた。

「ありがとう。決心できた。」そう言って通信機を破壊した。

「ミサイルを海面スレスレに飛ぶように設定。全基、最終調整以外をオートに変更。・・・・くたばりやがれ!アメ公どもがぁ!」

ミサイルは最終加速に入りつつ、海面スレスレを飛び始めた。


「少将、あれは恐らくV2の模倣品でしょう。恐るるに足りませんよ。」

「そうだといいな。だが対空警戒のみ厳となせよ。もう時期にジャップに下ったフレッチャーが死ぬ頃だろう。」

双眼鏡で見る先には第1支援艦隊の戦艦のほとんどが中破、大火災状態になっている様が映っていた。さらにその前にいる出雲も着実にダメージを与えれているのか速度が落ち始めていた。しかし、余裕の笑みさえ浮かべていた彼は再び険しい顔に戻されてしまった。艦内に緊急警報が発令されたのだ。

「少将!敵の発射したものはV1やV2の比じゃない!これは亜音速で向かってきています!」

「な、なんと!た、対空戦闘!急げ!」

すでに手遅れな対空弾幕が展開された。彼らは人力CIWSすら持っていないのだ。そんなものはミサイルに敵うわけがなかった。


最後の最後で俺はロックオン対象をノースカロライナからアイオワに変更した。それも他のミサイルの弾着から1分経った後での弾着とした。「ミサイルロック、ミズーリ。終末誘導完了、着弾!死ね!」ミサイルからの信号はミズーリの位置で消えた。更に続く。

「ミサイルロック、ニュージャージー。終末誘導完了、着弾。死ね!」確実な着弾だ。

「ロック、ウィスコンシン。・・・完了。死んじまえよ!」また弾着した。

「ラストロック、ミズーリ!これで、これで血反吐撒き散らしながら消えちまえよぉぉぉ!」

泣きながらモニターを叩いた。予備モニターが灯り、弾着を知らせた。

そして、艦橋まで上がった。何人かとすれ違ったが誰にも敬礼を返さなかった。

「・・・中将、敵戦艦は轟沈しました。真っ二つに割れて大きな火柱をあげて断末魔の叫びのような爆発音をあげながら。」

「・・・そうか。第1は?」

「何とか耐えきったようですが、フレッチャー少将は重傷を負われたそうです。」

「あっそ。・・・美咲は?」

「ご安心ください、あのお方は生きておられます!蒼龍は敵艦の特攻を受け沈没しましたが、大佐は無事生きていると先程報告が」

「おい、嘘ついてんじゃねぇぞ。」

副長の腕を撃ち抜いた。

「ぐっ!何をなさるのだ!」

「嘘つきは嫌いだって言いたいんだよ。」

副長の額に銃口を突きつける。引き金を引こうとした時彼は真実を告げた。

「・・・後悔しないんですよね、根東さん?」

「覚悟の上。」

彼は副長席に座り直した。

「大佐、いや美咲さんはあの時空母蒼龍の第1艦橋にいたそうです。そして、特攻を受けたあと艦の回復不可能と判断し総員退艦命令を出したそうです。その陣頭指揮をとられていたのですが・・・。」

「言え、最後まで。」

「はい。陣頭指揮をしている最中、甲板に上がっていたそうです。その時、敵の特攻艦のクルーの何名かが甲板に上陸し、激しい銃撃戦となりました。その時、美咲さんは逃げろと必死で言ったそうです。なのに奴らは聞く耳を持たず、無防備な彼女に集中砲火を浴びせたそうです。それでも彼女は退艦指揮をとっていました。」

「じゃあ死んではいないんだな。」

「・・・取り敢えずは。」

「取り敢えず?」

「えぇ。その時に格納庫で激しい爆発があって蒼龍を真っ二つにしてしまった。その時にこの話を伝えてくれた乗組員を助けた時に飛んできた艦載機の破片やプロペラを彼の代わりに食らったそうです。」

「・・・容体は。」

「左腕を切断、これは一応彼が持っていたので繋ぎ直せるそうです。両足が歩行不可能ではなさそうだがかなりの損傷。そして頭から多量の出血。かなりの出血なので・・・生存は0%に近いそうです。助かってもどんな症状が出るかは分かりません。」

「・・・そうか。ありがとう、今まで。」

そして自分の頭に銃口を向けた。流石にそんな状態では死ぬに決まっている。君のいない世界など考えられないのだ。

「あんた、ここで死ぬ気かよ!まだ美咲さんは必死に生きようとしているんだ。ここであんたが自分で死んじまったら彼女は1人になっちまうかもしれんでしょうがぁ!」

もう何も考えることができなくなっていた。

けれどトリガーから手を離せた。

「拳銃と軍刀を回収しろ!自殺させるなよ!」

副長はそう下命した。

そして俺は彼に行き先を伝えた。

「副長、拳銃と軍刀を返せ。美咲のところへ行く。内火艇下ろせ!」

「・・・それでこそあんたらしいっすよ、中将!中将が嫁さんのところに行く。急ぎ内火艇下ろし方はじめ!」

流石に指示が待っていたと言わんばかりの手際の良さだった。そして、場所は収容先は長門改だということだったのでそこまで内火艇を走らせた。

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