第25話 降伏

蒼龍のラムアタックは壮絶の一言で表せきれないほどのものであった。艦首がどんどん凹んでいくのが見えた。それでも速度が落ちなかった。しかし、それをモロに受けたエンタープライズは駆逐艦を抑えてこれたものの空母は無理であったようだ。どんどん進路を変えていく。しかし、これでは確実には本艦と衝突しないとは限らない。まだ敵は動いているのだ。

「主砲、打ち方はじめ!当てるだけでもいい!」蓄積ダメージを与えていくのだ。そうして沈めれれば御の字、沈めれなくとも速度が落ちてこっちは逃げ切れる。次から次へと51糎砲が唸り上げる。装填角度と砲撃角度が同じの為装填がいつもより早く済む。その弾幕はさながらマシンガンのようだった。

「こちら島風。本艦はこれ以上は押し切れない!離脱する!」「雪風も島風と同様です!」

両艦がエンタープライズか離れていく。しかし、蒼龍のラムまでは受け流せないようだ。どんどん進路は変わっていくのみだった。そして、

「蒼龍より、敷島。現在、敵空母の機関停止を確認!艦橋士官と思われる者が甲板上に出て白旗と日本国旗を掲げています!」

完全に退避圏に入ってから双眼鏡で甲板を見た。確かに彼らは白旗と日本国旗を掲げていた。さらにおそらく旗艦用の戦闘旗を下げ白旗と日本国旗に置き換わり広域通信で

『我々米国海軍第1機動艦隊並びに第14戦闘艦隊、第16戦闘艦隊は降伏する。繰り返す、我々は降伏する。』

降伏を知らせる通信だった。降伏したのならこれ以上の戦闘は無意味である。戦争法などに基づき捕虜たちは丁重に扱わなければならない。日本は世界の手本となるべきなのだから。

「米軍に告げる。私は日本軍艦隊特別艦隊の八岐大蛇艦隊、艦隊総司令長 根東康彦中将だ!貴様らを倒した奴の親玉だ!降伏の用意に速やかに応じるのであれば我々は何もしない。しかし、戦闘の気配があれば即刻戦闘再開をする。これは脅しではない。」こちらも広域通信で応答した。甲板に出ていた士官が次々と内火艇を出してエンタープライズから出ていった。うち一隻はこっちに近づいてきた。敵の大将のようだ。なら丁重にお迎えしよう。


10分後 敷島甲板上

「Mr.Kondo 。私は日本語を喋ることができる。日本語で構わない。」

「ご配慮感謝します。ですが英語で構いません。母国語の方が喋りやすいはずだ。」

そう英語で言ってやった。相手の国に合わせるのが礼儀ってもんだ。

「では、改めて我々第1機動艦隊並びに第14、16戦闘艦隊は日本軍八岐大蛇艦隊に対し降伏をします。これを。」そして戦闘旗を渡してきた。完全降伏という意味だ。

「いえ、これは受け取れません。これはあなた方の誇りのはずだ。だからそのままお持ちください。」

彼はその言葉を聞くと共に、涙を流してしまった。侮辱になってしまったかと内心慌てていたもののすぐに彼は補足してくれた。

「すみません。私としたことが、泣くなんて。実は前にも一度別部隊で降伏をしたことがあるんです。その時は目の前で戦闘旗をビリビリに破られ燃やされてしまった。だから、こんな配慮をしてくださったのが嬉しくてつい・・・。」

「そうでしたか・・・。して話を戻させていただきます。まずあなた方の艦隊について聞きたい。第1機動艦隊はエンタープライズ旗艦の空母中心の艦隊で、第14、16戦闘艦隊は挟み撃ちを仕掛けてきた艦隊ですか?」

「確かにそうだ。14、16の連中はまだ戦えると言っているが君たちの艦隊が中央突破中にボコボコにしていたのは知っている。」

やっぱり51糎砲は牽制用には強すぎたようだ。

「そうでしたか。では降伏条件はあなた方の艦隊は今より、行動可能な艦船のみ八岐大蛇艦隊に編入してもらう。」

彼は驚いた表情でこちらを見てきた。

「ふ、ふざけているのか?我々は敵だぞ。君の艦隊の内側から攻撃を仕掛けることだってできるはずだ。なのになぜ?」

「我々は貴方と闘い、そして確信している。貴方はそのような人ではないと。もちろんこれには追加条件がある。」

食い気味で彼は聞いてきた。

「それは、我々があなた方の増援としてくるキンケイド艦隊との交戦を終了するまでです。その後は貴方たち捕虜はアメリカ本土まで送還させます。」

偵察機の情報はどんどん詳細になってきている。つまり、近くまで来ているということだ。

「同胞に銃を向けるのか・・・。して私たちはどこに展開するのだ?最前線の弾受けか?」

「いえ、戦艦のみ貰いたい。さっき行動可能な艦船と言ったが撤回する。戦艦のみ艦隊には貰いたい。残りは各拠点まで回送する。無論、このエンタープライズも同様だ。戦艦の火力を持って奴らを叩きます。」

「そうか。では我々も協力しよう。奴らには利子を倍にして返してやらんといかんのだ。」

「?何があったんで?」

「それはだな・・・・・・・。」

彼からは貴重な米軍内部について聞き出すことに成功した。どれも確実な情報だった。大雑把にまとめると、米軍は内部分裂しており、キンケイド派とフレッチャー派に分かれているそうだ。そして彼はフレッチャー派に属していた。だが、フレッチャー提督が本土から離れた瞬間にキンケイド少将が軍内部を完全掌握したそうだ。キンケイド艦隊と思っていた艦隊は彼らのお墨付き艦隊である第1主力戦闘艦隊、

通称『クレイジーバトルシップ艦隊』であるそうだ。略してcbs(crazy battle ship)艦隊としよう。だが彼らは標的艦としてしょっちゅう彼の艦隊を狙っていたそうだ。だからcbs艦隊を毛嫌いしていた、というわけだ。

「では協力していただけるということで?」

「あぁ、もちろんだ。後、返してくれるそうだったが気が変わった。君たちと共に行けるとこまで行こう。今のアメリカは腐っている。」

そして彼は笑って自らの名を言った。

「私の名前は、フレッチャー。さっきの話に出てきたフレッチャー提督とは俺のことさ。」

超強力な味方が仲間に加わった。

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