第24話 必殺!東郷ターン!

中央突破の最中は最も有効弾を叩き込まれやすい。そのため戦艦などの大型装甲艦種で盾となり、水雷艦艇を守りながら突き抜けるのだ。

「左舷、装甲巡洋艦 利根改が沈みます!」

「長門が、火災被害に遭っているぞ!消火活動どうなってんだ!」

「中将!先頭にいた島風が艦隊を突破したそうであります!」

やっと足の速い島風が艦隊を抜けた。勝負はまだ始まったばかりだ。

「艦隊突破まで残り何分かかりそうだ。」

「予測時間は・・・、後10分もあれば副将陣、20分で大将陣が突破可能であります。」

「全艦、後20分耐え抜いてくれ!」

あまりにも過酷な指示であった。かつての旗艦だった長門は既に大火災状態にあった。このまま放置していると弾薬に誘爆しかねない。他の艦も同様である。今回の作戦では装甲を全艦、追加している。そのため、カッチカチの軍艦が駆逐艦以外できているのだ。それは並大抵のAP弾では貫通が難しいものとしている。それに気づいた米軍はHE弾を使用して、艦隊を丸焦げにする気らしい。しかし、艦隊が次から次へと突破するにつれて、敷島と出雲にヘイトが溜まってきていた。指揮官艦であることに気づかれたようだ。

「出雲に魚雷3本命中!損害は・・・装甲板に歪みが入っただけで異常なしとのこと。」

さすが『俺様の設計したシリーズ』の艦だ。防御力も火力もトップクラスだ。こっちも負けていられない。

「砲術長、あれを使うぞ。」

「へへっ、待ってましたぜ!砲術長より1、2番砲塔。40式弾、装填!」

40式弾、これは三式弾の後継として作られた砲弾だ。もちろん敷島サイズである。40式弾は対空、対地の使用は三式弾と運用方法は同じだ。しかし、この砲弾は対艦用として作られているのだ。発射された砲弾が目標時間になったと同時に炸裂し、空中から火の雨を降らす。これにより、敵艦は大火災を引き起こすのだ。更にこの炎はナパーム弾とほぼ同じものなので、一度着火すればなかなか消えないのだ。

「40式弾、撃てっ!」

無慈悲にもその砲弾は空母とその取り巻きの駆逐艦へと放たれた。

「炸裂まで残り5、4、3、2、1・・、炸裂!」

黒で染まった空にオレンジの光で辺り一帯は昼のような明るさを得た。

「敵空母と周りの駆逐艦に着火、大成功です!」今頃、甲板でなかなか消えない炎に戸惑っているはずだ。

「この隙に突破せよ!」

大火災の雨は敷島と出雲から延々と降らされ続けた。そうしている間に大将陣も突破に成功した。

「諸君、よく突破してくれた。何隻かは残念ながら奴らの餌食となってしまった。だがしかし、そんな彼らの無念を我々で継がねばならない!ここからが正念場だ、心してかかれ!」

最近、こんなことばっか言っているせいか即興でも案外まともなことが言えるようになってきていた。そんなことを考える余裕もあった。ここから30分間は敵艦隊引きつけながら距離を取る。その後、急速反転しつつ距離を詰め、砲撃可能距離ギリギリで90度にターンする。その瞬間に持てる火力を全て叩き込む。うろ覚えだがこんな感じの作戦と日本海海戦の英雄である、東郷平八郎氏も行なっていたはずだ。それまでしばしの休憩となる。俺は自室の金庫みたいなとこにしまっていた弁当を食べることにした。美咲があの喧嘩した後、作戦開始前ギリギリに渡してきたものだ。中に入っていたものは普段作ってくれるような弁当ほど豪華ではなかったが、みんなと食べれるようにとたくさん用意してくれていたのだ。よく気が効くもんだ。

「おい、お前ら。俺の嫁様からのありがたい弁当だ!皆んなで分けて食えとさ!」

艦橋で大きな笑いが起こった。

そして皆んなが次々に弁当の中身を取っていく。配られた戦闘糧食のお供とするのだ。そして楽しい休憩の時は終わった。

「総員、飯は食えたな?食えていないやつは無事終わってから皆んなでカレーでも食おう。その前に奴らを討つ!全艦反転!」

艦隊は3本の縦列陣形で先頭から綺麗なターンを描いた。そして米軍艦隊に距離を詰めていく。

「司令!ジャップが、ジャップがこちらと距離を詰めています!」

「ふん、返り討ちにしてくれる!」

この時には彼らは気づいていなかった。

これが東郷ターンの布石であることを。

「中将、我が軍の最大射程まで到達しました。まだですよね?」「そうだ、まだだ。」

限界まで引きつけてからターンしなければこちらは丁字有利にはできないのだ。

「敵艦発砲!向こうの有効射程に入りました!」

「わかった!全艦回頭!90度ターンだ!」

東郷ターンの開始だ。この間はまともな反撃や回避は行えない。そのためしばらくは射撃の的となるのだ。牽制射も加えることができない。しかし、耐えるのみ。耐えてこそ最良なのだ。

「中将、全艦回頭完了!指示を!」

遂に舞台は完成された。

「艦隊、全砲門開け!先頭集団から確実に沈めていけ!・・・撃てぇ!!」

残存艦艇から無数の砲弾の雨が米軍へと降り注いだ。それは先頭の駆逐艦や軽巡洋艦を呑み込み、爆発へと変えた。

「何が起こったのだ。」

「司令!前進します。友軍を見捨てれない!」

どんどんバラバラに米軍は距離を詰めていく。だがそれこそいいカモなのだ。どんどん目の前でやられていく味方に焦り、正常な判断などできる者は数少なかった。挟み撃ち艦隊も合流し、彼らは艦隊を組んで先発して行った。一方、中央突破された機動艦隊はとりあえず前進はしていたが、相次ぐ攻撃により、旗艦のエンタープライズの速度は9ノットまで落ちていた。

「司令、ここは下がるか味方の増援を待ちましょう。このままでは・・・」

「黙れ!エンタープライズの対艦兵装を使用しろ!10インチ砲くらいあるだろうが!」

「・・・了解。ちなみに司令は敵と差し違える覚悟はお有りですか?」彼は少し考えながら

「その時は総員退艦を指示しろ。いいな?」

「・・・はい。」

エンタープライズはようやくの思いで10インチ砲の有効射程圏内まで到達した。しかし、そこには多数の友軍沈没、大破艦艇があった。ジャップの奴らは容赦なく、そこにも射撃を繰り返している。しかし、それらの吐き出す黒煙のおかげでかなり気づかれずに接近することに成功した。


「中将!エンタープライズが目前まで迫っています!このままでは!」

「畜生が!回避運動開始!奴の狙いは本艦にある!51糎砲、自由射撃許可!なんとしてでも沈めろ!」

51糎砲弾はエンタープライズの艦首を貫き格納庫まで届き、誘爆した。エレベーターシャフトが空高く吹き飛び、甲板は中からの爆風により、見る影も無くなった。各艦の支援射撃により、対艦兵装すら無くなっているようだ。それでもまだ艦は生きていた。流石、前世WW2の幸運艦の一つだ。綺麗に艦橋への砲撃が免れている。回避指示を速い段階で出してもそれに食らいついてくる。近くなるにつれてどんどん砲撃は当たらなくなり、射線も通らなくなる。

「くそっ!このままでは間に合わん!右舷側の乗組員は左舷まで退避急げ!」

もはや衝突は不可避だった。しかし、まだ諦めきれない艦もいた。

「中将、島風と雪風、天津風がラムアタックを仕掛けようとしています!」

これは想定外だった。たかが3隻如きでは空母をラムでは沈めれない。しかし、彼らは違った。

「根東中将!我々は決して、死ににいくのではありません!なんとかこいつの進路を変えて見せます!」

そう言い残すと同時に3隻はエンタープライズの左舷から押し出すようにしてラムアタックをした。しかし、その角度は直角ではないの全く沈むことはなかった。そして徐々に角度が変わり始めた。しかし奴も諦めずにそれを押し返し始めた。そんな中更に一隻ラムを仕掛ける艦がいた。

「空母蒼龍もラムを仕掛けています!」

「美咲か!よせ!ここまで変えれたならあとは独力でなんとかできる!無駄なことはよせ!」

もちろん嘘だ。このままでは大被害は間違いないだろう。それでも耐えることはできるはずだ。何より、1艦のために、何隻も犠牲にしたくない。それでも止めなかった。

「死ぬときは一緒って言ったでしょ?まだ死ねないなら諦めるな!それが貴方でしょうが!」

忘れていた。俺はいつから諦めていたのだ。まだ手はある。ギリギリで艦を回頭し最低限のダメージにするのだ。それにはもう少し角度を変えてほしいのだ。それが蒼龍がいれば出来る。

一際大きな金属音が鳴り響いた。

蒼龍のラムアタックが始まったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る