第23話 中央突破作戦
副将陣は何も気付くことができなかった。
何故なら奴等は黒雲をバックにしてカモフラージュにしてきたからだ。艦も全て真っ黒だ。だから電探さえ生きていれば気づけたはずなのだ。しかし、神の目は撒き散らされたゴミにより、見えなくなった。使えなくなってしまったのだ。
まず、1番横腹に位置していた、重巡利根が爆沈した。船体は艦首と艦橋あたりのところで綺麗に三分割されてしまった。副将陣は見えないようにされている敵の襲来に大いに慌てた。しかし、副将陣の艦隊指揮長は有能なものを選出している。そのため、次の行動までは速かった。即座に、我々大将陣の艦隊への救援要請と陣形変換だった。輪形陣から単縦陣へと姿を変える。その正確さと速さは各国一位と言っても過言ではない。
「大将陣の艦隊は全速前進!副将陣の救援に向かう!」そう発令した。
単縦陣への変換途中であっても決して砲撃は止まなかった。むしろその時を待っていたかのように砲撃を激しくしていった。しかし、我々もプロである。殊に陣形変換だけは猛特訓したのだ。その努力の賜物である、回避行動展開下での陣形変換といった荒技までやっていた。
そうして陣形変換が完了するとともに水上電探のみ復活した。神の片方の目のゴミは払えた。
「電探室です。敵は南方よりこちらへ来る模様。さらに僅かではありますが、北方からも反応があります。速度の遅さから主力打撃艦隊と思われます。」やはり思った通りだった。
奴等はこの状況を利用し挟み撃ちにするつもりのようだ。それならまだ抜け道がある。西方へのルートだ。しかし、これはわざと退路を用意しているのだろう。どこかの兵法書では『退路を断つと、敵は奮起し通常より強くなってしまい、こちらが負ける可能性もある。』といったものだった。つまりまだ逃げれると心理的な余裕をワザと作らせているのだ。
「総員に達す。我々はまんまと敵さんの罠に引っかかったようだ。その為、これより全艦艇を持って東方に位置する敵機動艦隊を撃滅する!両サイドの雑魚に構うな!中央突破しろ!」
その叫びと共に艦隊は再び最高速度で進路上の機動艦隊へと猛進する。挟み撃ち部隊には51糎砲の牽制弾幕を食らわす。
「51糎砲、うちーかたーはじめ!」
大地を揺るがすような砲撃音が海面を揺らす。
牽制射でも、51糎砲の射撃精密度はトップクラスだ。何発かは遠くにいた南方の艦隊の一隻に命中する。各艦艇がそれを行う。当てなくてもいいのだ。足を止めさせれば。いかなる犠牲を払ってでも。
「電探室より、艦長!電探が完全復旧し、進路上に機動艦隊を発見!会敵予想時刻、今より10分後!」
ついに来たか。本命が。
「艦隊、打ち方止め!残り10分後に敵艦隊との戦闘になる。作戦は敵機動艦隊を突破後、速やかに敵前でターンをする。それにより追いついた敵艦隊を丁字戦有利状態にし一気にこれを叩く!ミスは許されない。このターンの成功は我々の勝利を意味する。健闘を祈る!」
通信は最低限かつ最大級の士気上昇を。これが1番将兵に効く通信の仕方だ。
10分後
「根東中将!敵艦隊、補足!砲雷撃戦可能!」
「全艦、目標、進路上の敵艦隊の大型艦種!
砲雷撃戦、始めっ!」
その一声とともに無数の砲弾が機動艦隊に降り注いだ。この瞬間にどれだけ混乱を与えさせ時間を稼げるかが鍵となっているのだ。これによる混乱の効果は絶大だった。どこへ逃げようと降り注ぐ砲弾の雨、助けに来てくれる味方はいない。回避できるようなスペースすらない。そして敵は目前まで迫ってきている。
「ジャップめ!急いで応戦させろ。奴等はこの先へと行かせてはならない!」
そう自分の艦隊を一直線に突入している日本軍艦艇に叫んだ。
朝日が海面を神々しく照らす午前7時。
この海域に向けて米軍はようやく本腰を入れてきた。最新鋭戦艦であるアイオワ級を建造完了した4隻全投入してきたのだ。更に量産型空母のエセックス級を2隻、その周りに護衛空母などの量産化され始めた軍艦が米軍ノーフォーク軍港より出動した。この艦隊の半数は本土防衛に回るものの、もう半分によって八岐大蛇艦隊を全滅させるつもりのようだ。
その情報はすぐにわかった。
「根東中将、ノーフォーク近辺偵察中の零偵より緊急入電!米軍太平洋方面本土残留艦隊、1番恐れていたキンケイド艦隊です!」
キンケイド艦隊はキンケイド少将率いる精鋭艦隊だ。常に実戦形式の実弾演習を行なっている。そんな彼らはとあるどうでもいいような事故を起こし、世間がそれを大きく取り上げてしまったため、無期限の艦隊凍結が行われてしまった。我々もそれを考慮しての作戦だったのだ。しかし、ここで怯むわけには行かない。まだノーフォークを出たばかりの奴らなら、本日中に蹴りをつけて、後方の補給部隊と接触しなければならないのだ。であればやることは一つ。
「艦隊、速度を絶対に緩めるな!ぶつかってでも中央突破しろ。雑魚に構うな、進めぇ!」
その進撃はさながら神の槍のようだった。
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