第21話 MI作戦開始前夜

MI作戦は日本の全てをかけたようなものである。このために国内一時的総動員令が発令されて国民全てでこの作戦準備をした。それにより今回の作戦の要とも言える戦艦出雲と敷島の改装工事も完了することに成功した。出雲計画の既存の兵器の改良といった項目に則ったものである。出雲は初期案から大幅変更された。まず対空兵装として対空拡散噴進弾や百式対空砲弾を装備させた。次に装甲を爆発反応装甲や液体流動装甲室や魚雷防御室を増設した。これで出雲の2隻目以降の建造が大幅に遅れることとなったが、それでもこの作戦は成功しなければならないのだ。敷島はVLSの搭載をした。ここには最終兵器となるミサイルが積んである。この発射弁は二重になっている。誤発射を防ぐためだ。更にCIWSも装備させた。CIWSに関しては搭載可能な巡洋艦クラス以上の艦艇の全てに配備することに成功した。これには同盟国である独ソ伊の3カ国からの資源や人員の手配によるものである。彼らとて資源を豊富に持っているわけではないのにだ。それほど日本に期待してくれているのだろう。こうして出雲を始めとした大日本帝国聯合艦隊『八岐大蛇艦隊』は作戦参加艦艇の全てがミッドウェー海域より西方100キロにて展開した。陣形は先鋒単縦陣、副将輪形陣、大将輪形単縦陣の三段構えで一糸乱れぬ動きで展開された。これは戦闘状況によって、自由自在に変更できるように考えられた最善の策である。この作戦には旗艦を敷島にして臨んだ。敷島は大将陣の中央にいる。勿論この俺様も戦地にいた。


作戦開始予定日 1943年 11月5日

予定時刻 0600


この指令書が各艦艇の艦長に配布された。

それはあまりにも短く、歴史的なものとなった。


1943年 11月4日 午後6時

敷島第1艦橋

「そろそろだな。君も早く蒼龍に戻れ。」

美咲と2人きりで話をしたくなったのでニヤつく艦橋クルーを全て食堂に行かせた。まぁのぞきくらいなら許してやるさ。

「・・・そうね。蒼龍と飛龍は敷島の真隣でいいの?お世辞にも快速とはいえないわ。回避軌道が取れないわよ?」

「構わんさ。どうせ奴らのことだ。中央にいる艦艇を真っ先に狙ってくる。・・くくっ。」

みさきがとぼけた顔でこっちを見てくる。

「だって、そこには出雲が待ち構えているんだぜ?対空の鬼に俺様自らプロデュースしてやったのさ。奴らがなす術なく落とされる姿が容易に想像できるぞい。」

「そうね。それで本当はそんなことを話したいわけじゃないんでしょ?」

図星だ。伝えよう、しっかりと。

「美咲、お前蒼龍降りろ。」

「え?冗談でしょ?」

混乱しているのがわかった。それに追い打ちをかける。

「頼む、お前にはこれ以上危険な目に遭ってほしくないんだ!怖いんだよ、最近。」

彼女は涙目になりながら問いかけてきた。

「なんで?何がいけなかったの?あの日、私がボロボロになって帰ってきたこと?刺されても平気で指示を飛ばしていたこと?」

次から次へと彼女は思っていたことを言い続けた。けれど言わなければならない。

「本当に頼む!・・・君の死に顔なんて見たくない。」やっと彼女は落ち着いたようだ。

「・・・康彦さん、残念だけどそれはダメよ!そんなのこの作戦を蔑ろにしているわ!貴方はこの作戦の意味がわかっていて?日本の全てを賭けているんでしょ?なら私もその賭けの対象にしなさい!」そして言われる。

「貴方が死ぬ気で私を守ってよ!バカ!」

そう言って彼女は走って艦橋周りにいたのぞきどもを跳ね飛ばしながら連絡艇まで走り去っていった。

「・・・艦長、その、あの・・・悪気はないんすけど全部お聞きいたしました。それでなんですが・・・。」

「なんだよ!あぁん?」

怯えてしまったのぞきに変わり副長が

「すぐにでも美咲大佐を追っかけなさいよ!あんたそれでも夫かよ!このまま仮にどっちかが死んじまったら一生後悔しちまいますぜ!」

と感情任せにガチギレした。

「早くいけ!この意気地なし夫!チキン!小心者!」その言葉とともに強くグーで殴られた。

「何しやがんだこの野郎!」

それに対して本気で殴り返した。

これを10分くらい続けていた。そしてついに見つけた。

「わかりましたか、艦長。お行きなさい。マイクならここに。」

顔面パンパンになった副長がマイクを差し出す。送信先は艦隊全体にだ。

「ありがとう、副長。」

そして開始ボタンを押した。

「諸君、私は今作戦の総司令官として任命された、根東康彦中将である。作業中や食事中のものも暫し傾聴せよ。」

艦隊から聞こえてきた音が一気に静まり返り、自分の声だけが海に響いた。

「今回の作戦は日本の命運を分ける最重要作戦である。諸君らにはその自覚を持ってこの作戦に挑んでほしい。そして各艦艇は現時刻をもって軍旗にZ旗を掲げよ!」

各艦艇から、旗の登る音が聞こえてきた。

「この旗の意味は『皇国の荒廃、この一戦にあり。各員、一層奮励努力せよ。』と言った意味が添えられている。この旗に恥じぬ戦いを!この日本に輝きを!・・・作戦の健闘を願う。艦隊全体への連絡は以上だ。そして・・・。」

一瞬言葉が詰まった。

「そして、今から話すことはほぼほぼ痴話喧嘩の延長線上になる。聞きたくないものはスピーカーを切るように。聞きたいものは自由に笑ってくれて構わない。」

前置きはちゃんとした。

「えぇー、蒼龍艦長かつ俺の嫁の根東美咲大佐。さっき色々言ってすんません!」

それに応答が返ってくる。

「ふざけるなぁ!このバカ夫!私は許さんぞぉ!・・グェー。」酒をかなり飲んでいるらしい。各所から笑い声が聞こえた。

「本当に許してくれ。だから死ぬ時は一緒に死のう。そうじゃないなら長生きしよう!一緒に!」また再び静寂に包まれる。

「・・・あったりまえでしょ!この馬鹿野郎ー!」拍手と歓声で艦隊が満たされた。

「俺は必ずこの作戦に成功し、無事帰ってみせるさ。全員その気持ちで明日は望め!以上!」

後は本当に作戦成功を祈るのみだ。

必ず成し遂げてみせる。

日本のため。

同盟国のため。

国民のため。

なにより、世界の最も愛した女性のために。

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