第17話 大和は不滅である。

艦橋クルーはどうやら即死だったらしい。優秀な幹部を一気に失ってしまったのが悔やまれる。しかし、嘆いている暇はない。その穴を埋めるべく各部署から代打艦橋クルーが選出されてきた。次にお偉方の対処だ。

「根東艦長。何をする気かね。」

「艦隊総司令長官殿、本艦大和は既に自力での帰還は不可能、また海に浮かんでいられるのも時間の問題です。よって、本艦は前方に位置する敵待ち伏せ艦隊を攻撃、水雷戦隊の退路を作ります。」

「ば、ばかもの!そんなことが許されるとでも思っていたのか!貴様、おぼえてお・・・。」

これ以上戯言に付き合うう必要はない。一刻を争う事態なのだから。

「航海長、大和、最大戦速!」

「了解、最大戦速。進路、味方水雷戦隊。これでよろしいですね、艦長。」

うなづいてそれに応えた。

隠蔽式の15.5糎三連装砲が次々と姿を現していく。

「艦長、少しお休みになってください。この流血では立っているのが精一杯のはずです。」

「構わないわ、航海長。私が倒れる時はこの間の最後の時よ。」

航海長はそれ以上は何も聞かなかった。

「はっ!艦長、前方15キロの地点に敵艦多数、水上電探にて感知!」ついに時はきた。

「総員、砲雷撃戦用意!全砲門一斉射撃用意、まだ待って。砲術長、あとどのくらい。」

「あと30秒、いえ15秒!」

「よし!・・・・・・・・・撃てぇ!」

7基21門の15.5糎砲が火を吹いた。

それは敵を恐れさせるのには十分だった。

「艦長!Yamato です。奴が近くまで。」

「何ぃ!各艦、Yamatoに攻撃を集中。」

米軍の激しい弾幕の注目は全て大和に向けられた。

「さぁ来るわよ。取り舵一杯!」

「とーりかーじ、いっぱい!」

全ての砲弾は大和の真横に着水した。

「来てくれたんだ、大和が来たぞ!急いでこの場所をヅラかれぇ!」大和とすれ違うようにして生きている水雷戦隊の艦艇が通り過ぎていく。後は耐えるのみ。

「目安は30分よ。30分耐えたら私達も逃げる。」正直なところ30分すら怪しかった。

しかし、謎にやり遂げれる自信があった。

「艦長、医療班が来ました。輸血と鎮痛剤を。」これでまた戦える。

もう軍服のほとんどが真っ赤に染まっていた。

「攻撃目標は駆逐艦、次に巡洋艦よ。足の速いやつから沈めなさい!」

それに応えるように再び一斉射撃を行う。

そして、もろに被弾した敵駆逐艦を爆沈させた。「敵駆逐艦、爆沈。」

「浮かれちゃダメ!次!」どんどん砲撃の速度が上がってきている気がする。だいぶ敵艦隊と近づいてきたらしい。もう砲撃を避けることが困難になってきた。主砲も既に2基失ったらしい。気づけば周りを囲まれている状態になっていた。大和を中心とした、輪形陣。

無論、周りは敵の状態で。

万事休すか。そんな中救世主は空から舞い降りてきた。

「こちら蒼龍第1攻撃隊、真面目馬鹿のお嬢様を助けに来たぜ。」

それは康彦の手配してくれた訓練で座乗した

空母 蒼龍の航空隊だった。

数は多くなかったが敵を混乱させるには十分だった。それでも厳しかった。けどその度に乗り越えた。その繰り返しだった。

しかし、遂に主砲が全て使用不能になってしまった。航空隊も爆弾や魚雷を全投下して機銃による掃射のみとなっていた。

「・・・航空隊の方々、帰還しなさい。これは命令よ!昔のなじみなら言うこと聞いて。」

彼らは暫く応えなかった。

「・・・・・・わかりやした。ただしお嬢、絶対に死のうなんて考えないでくださいね。」

わかっている。ここにいるクルーを道連れにするわけにはいかない。時計を見た。まだ15分しか経っていない。そんな中、入電があった。

「艦長、山縣艦隊長からです。撤退に成功したので速やかに大和も撤退するように、とのこと。」「了解、とでも言っておきなさい。」

そして無線機を取る。

「総員に通達、本艦は現時刻を持って作戦を完了した。味方は無事に撤退できたそうよ。」

歓声が沸き起こった。

「けど、まだ私たちが残っている。私たちに釣られて、他の友軍もこっちに向かってきているわ。だからなんとしてもそのエリアまで逃げ切るのを最終目標とします!」

帰るまでが戦争なのだ。

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