第8話 結成!石東内閣
思いの全てを伝えた後、また病院に戻った。
美咲は軍の寮舎に戻って行った。
俺は病室に散らかっていたベッドキットを何とかしなければと思いつつ、少し憂鬱になりながら部屋に戻った。そこには完成されたベッドキットがあった。病院の人が親切にもやってくれたらしい。前世のベットにかなり近く、ふかふかだ。久しぶりに安眠についた。
12月31日 朝 病室
朝もスッキリと起きられるほど楽なベッドだった。やはりベッドにはこだわらなければ。
そんな思いに耽っていた時
「根東くん、起きてるかい?」
と聞き覚えのある声がした。
「東条首相ですね。どうぞお入りください。」
入ってきたのは見覚えのある顔だ。
そう、諸悪の根源である犬養毅前首相だ。
「あの日以来だな。あれから儂は病院勤めになったよ。どうかね、最近の調子は。」
とてもあの日の悪魔のような大男ではなかった。むしろ紳士にさえ思える。
「まぁぼちぼちですね。犬養殿は?」
当たり障りのないように言った。
「儂は君に刺された脇腹が少し怪しいものだから2ヶ月はここで暮らすことになった。」
そう言って本を差し出してきた。
「暇だったから書いたんだ。よければ読んでくれ。これはきっと役に立つさ。」
それは『犬養型政治の失敗 著者 犬養毅』
といった自虐本だった。美咲は今日は来れないと言っていたので読んでみることにした。
案外読みやすく、量も多くない割にはしっかりとした内容だった。政治家なんてやらずに文豪目指していたらどうなったんだろうと思うと可笑しく思った。そして感想を述べる。
「これとても読みやすくて良い本でした。けどそれなら何でこんなにまとめれるほど分析できていたにも関わらずこのような結果になったんです?」彼は少し思案してこう答えた。
「調子に乗ってたんだ。自分の言う通りに国民は働き、動く。まるで駒のようにだ。ただそれだけだ。君は儂のようにはなるなよ。」
そう言い残し何処かに行った。
また暫くした後再び扉がノックされた。
「おーい、根東くーん。そろそろだよー。」
石原が催促しに来た。やばい!忘れていた。今日は内閣結成の日だった。
「少しだけ待ってください!今すぐ正装に着替えますんで。」
急いで海軍の正装に着替える。原稿とその他諸々の準備を終えて病室を出た。
病院から内閣府まで車で20分の道のりでその間に前世の中学校以来の台本の暗記をした。
何でも首相よりその立役者が喋ったほうがいいとのことだ。内閣府には記者が大勢いた。車から降りたすぐに質問がくるのかと思ったら、
みんな礼儀正しく整列していた。クーデター直後の時の質問攻めのせいで俺が倒れてしまったと勘違いしているらしい。その方が都合はいいが。そして石原莞爾、東条英機の二人の首相が壇上に立ち、俺もその隣に立った。
まぁまぁ普通の決まり文句や抱負を語った後に俺の版になった。
「管理省初代大臣兼帝国海軍中将の根東です。クーデター主犯の私から述べさせていただくのはまず国政のあり方からです。」原稿を見る。
かなり字が汚いことが悔やまれた。もう手汗でぐしゃぐしゃになってしまっている。こうなったら思ったことを言い尽くせばいい。
「これからは宣言通り、世界の模範となるべく国家とします。そのためにまず内閣のシステムを改めます。」会場がざわついた。
「首相は2人にすることによりお互いのミスをカバーし合えるようにしました。1人の場合より暴走を止めることができます。次に各大臣です。
大臣は各省庁これも二人ずつとします。しかし大臣に関しては議員などの選挙で選ばれた人と
専門家によって構成します。専門家は私含め管理省の者と選定しそれを国民信任投票で決めます。尚、管理省のみ大臣は一人とします。質問があればどうぞ。」朝日新聞の鷲田が手を挙げた。
「では質問いたします。議員と専門家、つまるところ一般人では対立が起きやすくなり、意見の相違等でうまく回らなくなってしまうのではないのでしょうか。」
痛いところをついてくる。しかし対策済みだ。
「はい。確かにそのケースは十二分にあります。しかしながら今期より設置されたこの管理省によってそれらの管理、統制が行われます。」
次はメインの管理省の話だ。これが1番この内閣の必須事項だ。
「管理省は大臣一人ですが、副大臣を五人にします。これは5つグループ分けするためです。
第1グループは民間人の管理
第2グループは軍隊の管理
第3グループは経済の管理
第4グループは産業の管理
第5グループは環境の管理
この5グループに分かれて動きます。管理と言ってかなり締め付けるのではなく、そのグループごとに情報を集め、問題があれば当該省庁もしくは首相に情報提供するといったものです。
これにより国政をバックヤードから支援します。以上が国政のあり方です。質問は?」
全く手が挙がらなかった。そのまま続けた。
「次は謝罪をさせてください。今回軍事クーデターを断行した際に首相官邸で小規模な戦闘行為が発生し死傷者が双方出ました。俺自身は
無血開城同然で終わらしたかった。しかしこうなってしまったのは俺の責任です。本当に申し訳ありませんでした!」土下座して謝った。
パフォーマンスなんかじゃない。真意だ。
涙を流しながらしばらくの間地面に伏した。
東条が「もういいよ、根東くん。」と言い
やっと顔を上げた。そして会見を終了した。
昭和10年12月31日
石東内閣、結成。
歴史に大きな名を残した。
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