第7話 残したこと

体の状態は良いらしい。無論足が片足半月程動かない時点で怪しいが。脇腹をえぐった弾丸はあと数ミリで致命傷になったそうだ。

そんなわけで松葉杖で少し散歩をした。記者にあの日の朝、写真を撮られたらしく街を歩けば有名人さながら握手だの質問だのが雨のようにくる。それを何とか捌きつつ銀座のジュエリーショップまで辿り着いた。そこでクーデター前に予約していた品を受け取った。中身は・・・言わないでおこう。また人に囲まれながら病院まで辿り着くと看護師さんが鬼の形相で待っていた。

「あのー、なんかありました?」

「なんかありました?じゃないでしょ!勝手に病室抜け出しておいて!」

「次から気をつけますから。」

そして看護師が思い出したように言う。

「そうそう、あの若い女の軍人さん。さっき来てましたよ?中将はどこかって。」

心配して見に来てくれたんだろう。

嬉しい限りだ。

ひとまず詫びとお礼をしつつ病室に戻った。

ベッドの横に大きめの箱がある。彼女がくれたのだろう。箱の上に『Merry Xmas』と達筆に書かれたカードが貼り付けられていた。

取り敢えず開けてみることにした。

念のため包装はビリビリにせず戻せるように。

開けてびっくりそこにはこの時代としてはかなり高そうな組み立て式のベッドが入っていたのだ。俺がずっとベッドに文句を言っていたからだろう。組み立てているうちに時間になった。

彼女には私服で来いと言った。俺も着替えにゃならん。自宅警備員のくせして一丁前に服のセンスはあるとオフ会でリア友に言われたことはある。親が元ファッションデザイナーだったからだろう。取り敢えずやるべきことを達するために最善の服を着た。少ししてから扉が3回

ノックされた。

「新島です。中将いらっしゃいますか?」

彼女だ。

「うん。いるよ。開けて良いよ。」

扉が静かに開いた。

そこには普段の彼女からは想像できないような美しい女性がいた。髪は黒髪ロング、服はあまりよくわからないがとりあえずかわいい。それも大人の可愛さがある。今更だが服とかの文化面でも日本は前世の時と今の時で大差ないように感じた。とりあえずかわいい!それだけだ。

そんな彼女と予定していたところに向かった。


同日夜8時 東京郊外

「着いたよ。ここが予定地。」

そこは特に何も無い下町だった。

一応近くに二、三件宿屋があり、民家が立ち並んだいかにも下町だった。そこの寿司屋の一つに入って行った。

「中将?ここは一体・・・。」

「ここは俺の前世の家があった場所だよ。」

そう言いながら暖簾をくぐるとそこには

たくさんの人がいた。

「おい、あれ見ろよ。あの新聞に載ってた根東様じゃねぇか!」

「一度は拝めておきたかったんだよなぁ。

ありがたやー、ありがたやー。」

そんな声で満ち溢れていたがすぐに立ち消え、他愛もない会話に戻って行った。

そこで彼女と年末祝いと称し寿司を好きなだけ食べさせた。酒豪だったのがかなり恐ろしく、下手すると悪酔いしそうなのでストップさせた。そして雰囲気を察してくれたのか常連客は「女房に殺されるから今日は早めに帰るよ。」などと言い全員帰っていき、店主も

「明日の仕込みしてくるから後はお好きに。」と言って裏の方へと言った。

決心はしたがそれを言う自信がないまま10分経った。そしてついに言った。

「美咲、俺と結婚してくれないか。」

あの銀座で買った指輪と共に言った。

「俺はこの世界に転生してから君にずっと助けられてきた。最初は口うるさい小娘だと思ってた。けどそれは間違ってた。ずっと心配してくれてたんだ。あのクーデターの日もそうだった。けど今はもう違う。俗っぽい言い方だけど君を必ず幸せにする。俺でよかったって思えるような毎日にしてみせる!」

彼女は暫く黙っていた。

失敗したか。そう思い恐る恐る顔を上げると

そこには涙でぐしょぐしょになった美咲の顔があった。

「・・・ほんとおかしな人。でもそれで良いの。私は怖かったんです。クーデターで怪我して倒れた時、本当に死んだんじゃないかって。けど生きていた。私は貴方に私の全てを捧げます。だから絶対にひとりにしないでくださいね。」

そう言い、笑顔で指輪を受け取ってくれた。

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