第12話 遠足開始
翌日の早朝、オークたちが要望していた肉を上手く注文できたか確認するために、里長の家に向かって走った。
すると、なんの用事なのかビスコッティも一緒に走ってきて、私と並んだ。
「ビスコッティ、どうしたの?」
「はい、お魚。魚です。お魚を食べたいのです。今なら午後便に間に合います!!」
ビスコッティは、いたって真面目にいい切った。
「魚って、あんた。痛みやすくて、内陸のここまで持ってくる間に腐っちゃうじゃん。寝てる間にベッドから落っこちて、どっか変な場所打ったの?」
私はため息を吐いた。
「いえ、正常です。急に食べたくなったのです。オークさんたちの肉が運べるなら。きっと大丈夫のはずです」
「あんたの気まぐれは知ってるけど、例え運べたとしても高くつくよ。物々交換で手に入るとは思うけど、カボチャなら二十キロとか……」
「はい、分かっています。私が開発した種なら一ヶ月もあればまた実が成ります。常に百二十キロは備蓄していますので、これで間に合います!!」
「……あんたの家の収納庫がバカでかいのは、そのためか・
私は苦笑した。
「そんなことより、お魚です。刺身がいいです!!」
ビスコッティの目は、どこまでも真剣だった。
「しょうがないなぁ。気が引けるけど……」
私は腕輪のポッチを押した。
『ん、どうしたの?』
腕輪からスコーンの声が聞こえてきた。
「うん、うちのドデカボチャが魚を食べたいって騒いでさ。こんな用事でなんだけど、なんとかならないかな。しかも、刺身がいいんだって」
『そんな簡単な用事なら、いつでもいってよ。マーケットは年中無休だし、ビスコッティを蹴り起こして買いにいかせるから。ビスコッティは寝起きが悪いから、大体二時間くらい掛かるよ!!』
「ごめんね、よろしく」
私は小さく息を吐いた。
「またビスコッティたちの協力を仰いじゃったよ。二時間で魚が届くって」
私の言葉に、ビスコッティが笑みを浮かべた。
「分かりました。ですが、毎回というわけにはいきません。なんとかルートを確保したいです」
「……そんなに食べたいの?」
私は苦笑した。
里長の家に到着すると、オークのみなさんが集まっていた。
「おはよ、どう?」
私がリーダーに声をかけた。
リーダーは笑みを浮かべ、頷いた。
「里長殿の計らいで、これからくる早朝便の行商で届くとのことだ。代金は心苦しいが里長殿に立て替えてもらう事になった。なにか、稼ぐ方法はないか?」
リーダーが小さくため息を吐いた。
「うーん、ここは物々交換で、基本的に野菜や果物しか相手にされないからね……」
私はしばらく考え、思いつく場所があった。
「そうだ、養鶏場と牧場があるよ。そこで働けばいいんじゃない。チーズの一つでももらえれば、大人気だから」
私は笑った。
「そうか、オーナーに取り次いではもらえないだろうか?」
「うん、そこにきてるからいってくる」
私は早朝便の到着を待ている牧場のオッチャンに話しかけた。
「オッチャン、オークのみなさんを雇ってあげて。力仕事はバッチリだから」
「そうか、ワシも年をとったし、力作業がきつくてのぅ。チーズと牛乳で手を打とう」
オッチャンが笑った。
「牛乳まで付けてくれるんだ。太っ腹だね!!」
「なんならバターも付けるぞ。食ってもいいし、これなら物々交換に困らんだろう」
私は笑みを浮かべ、オークのリーダーを呼んだ。
「力仕事だけどいいよね。破格の給料で雇ってくれるって!!」
「それはありがたい。男たちはそうしよう。相談する前に、女たちはどうすればいいだろうか。男より力が弱く、軽作業しか出来ないと思うが……」
リーダーは悩みの表情を浮かべた。
「それも牧場のオッチャンと相談してみたら。なにかあるはずだから」
「うむ、そうか。では、相談してみよう」
リーダーは牧場のオッチャンと話しを進め、女性は養鶏場でタマゴの選別作業をやる事になったらしい。
そうこうしているうちに、商隊の早朝便が到着し、みんな物々交換をはじめた。
いつもは五台の隊列だが、今日は六両の編成で、最後尾に白い箱が乗せられ『冷蔵車』という文字が書かれていた。
「肉はあそこだね」
私が呟いた通り、そこには大量の肉が積まれていて、オークのみなさんが荷下ろし作業をおこなっていた。
「うむ、順調なようだな。最初に肉を頼んだ時は、祭りかなにかかと問われたものだが、里のオークのためだといったら、大層驚かれてな。忘れてはいないかと心配したものだが……それにしても、すごい量だな」
里長が近寄ってきて、笑った。
「肉食寄りの雑食のはずだからね。十人分となったら大変でしょ」
「うむ。ところで、なぜ娘は冷蔵車をみて指を咥えているのだ」
里長が不思議そうに聞いてきた。
「さあ、珍しいからじゃない。それか、朝から魚が食べたいって大騒ぎして……」
「なんだと、魚などこの内陸でどうするのだ。グズった時用の檻の出番か……」
里長が鍵束を取り出した。
「ああ、大丈夫。またビスコッティたちの力を借りた。物々交換用のカボチャも持たずにダッシュしてくるんだもん。今頃、これで運べないか調べているんじゃない」
私は笑った。
「冷蔵でも難しいだろうな。まず、注文をきいてくれん。いつもの町でも魚は貴重だからな」
里長は苦笑した。
商隊が去り、自宅に帰ってしばらくすると、大きなカゴをいくつも従えてビスコッティとスコーンが飛んできた。
次々に広場に着陸したカゴには、まだビチビチと跳ねている生きた大きな魚が一尾づつ入っていた。
「こ、これは……」
予想と違ったらしく、カボチャ姫が目を丸くした。
「マグロです。マーケットでまだ置いてなかったので、私たちで獲りに行ってきました」
ビスコッティが笑った。
「酷いんだよ。腰に縄を付けて、獲れるまで上がってくるなって。酷いよ。あんまりだよ。マグロのつかみ取りなんて聞いた事ないよ!!」
スコーンがビスコッティを蹴飛ばした。
そのスコーンを蹴り飛ばし、ビスコッティがさっそく魚を捌きはじめた。
まるで剣のような包丁やらなにやら……。手慣れた様子で巨大な魚を解体していった。
「エ、エーテル、これが魚ですか。海にはこんな大きなお魚しかいないのですか!?」
「私に聞かれても困るけど、そういうわけでもないでしょ」
私は苦笑した。
しかし、これはあまりに目立った。
里中の人が集まりはじめ、大多数が魚など見た事のない人たちが歓声を上げはじめた。「ほう、これはマグロだな。久しくみていないぞ」
里長が笑みを浮かべた。
「うげ……」
カボチャ姫が逃げようとしたが、警備の人たちに速攻捕まった。
「お前にくれてやるのは、マグロではなく説教だ。ちょっとこい」
「嫌です。ダメです。私のマグロぉぉぉ……」
カボチャ姫が泣こうがわめこうが、そのままどこかに連行されてしまった。
「あーあ、可哀想だねぇ」
私は小さく笑った。
「ビスコッティ、これ保存できない?」
「できますよ。なん切れくらい入れますか?」
手つきよくマグロを大きなお皿に盛りながら、ビスコッティが笑った。
「そうだねぇ。その大皿一枚くらいはないと、カボチャ姫の機嫌が直らないね」
「そうですか。では、結界で……」
大皿一枚が青白い結界に包まれた。
「これで、三時間は大丈夫です」
「悪いね。よし、みんな食べるよ。せっかくのご馳走なんだから!!」
私は率先して食べ、あまりの美味しさに涙しそうになった。
それをみて、取り囲んでいた里のみんなが飛びかかるように食べはじめ、突如としてマグロパーティがはじまった。
私たちに比べれば大食いのオークも加わり、九尾あったマグロは骨も残さず売り切れた。
「さて……」
私はビスコッティが這ってくれた結界に包まれた大皿を持ち上げた。
「私は里長の家にいくよ。二人ともお風呂にでも入って」
私が声をかけると、ビスコッティとスコーンが笑顔を浮かべた。
広場から幌つきになったらしい巡回牛車に乗り、里長の家に向かった。
そのまま無事に到着して、私たちは巡回牛車から降りた。
「おっ、やってるやってる」
そこには、庭でカボチャ姫を正座させ、延々と説教している里長の姿があった。
そのカボチャ姫の額には怒りマークが浮かび、それでもギリギリ耐えているのが分かった。
「里長、そろそろ休憩したら。マグロ持ってきたよ!!」
私は大皿をみせた。
「みなさんにはいう間がなかったのですが、醤油とわさびをつけると美味しいですよ」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「うむ、そうだな。これで説教は終わりにしよう。スコーン殿、ビスコッティ殿、迷惑を掛けたな」
里長が頭を下げた。
「いえ、こちらも収穫がありました。師匠の水中呼吸術も精度が上がりましたし、キャッチンググローブⅢの問題点も分かりました。今後の糧にします」
ビスコッティが笑った。
「それならいいが……。まあ、よい。エーテル、娘がバカな事をいいだしたら、なんとか止めて欲しい」
「心がけてはいるけどね、今日は尋常じゃなかったから。また迷惑かけちゃった」
私は苦笑した。
「急ぎの研究もないですし、別に構いませんよ。忙しければ忙しいといいますので。では、あとはお任せして、私たちはお風呂に入ってきます」
ビスコッティが笑みを浮かべ、お風呂に向かっていった。
「よし、三人で食べよう。醤油はともかく、わさびはあったっかな……」
「うむ、少しだがわさびはある。こら、娘。早く立て」
里長の声に、私はビスコッティの手助けをして立ち上がらせた。
「ありがとうございます。クソオヤジ……なんでもありません!!」
里長が睨むと、カボチャ姫は慌てて手を振った。
「まあ、よい。中に入ろう。ワシの部屋は整理中でな、娘の部屋を使う事にしよう」
里長は大皿を持って、家の方に向かっていった。
「へぇ、カボチャ姫の部屋なんてあるんだ」
「はい、この前の大工事の際に、私の家とお父さんの家をくっつけて、半分に割ったそうです。全く使っていないので、特に抵抗はありません」
カボチャ姫が笑った。
里長の家にはいると、すぐに衝立状の壁があり、矢印で『ビスコッティ』『里長』と丁寧に書かれていた。
私たちがカボチャ姫の部屋に入ると、テーブルの上に大皿が置かれ、里長がわさびをスリスリ下ろしていた。
「ツンとした香りがします。これがわさびですか」
「うむ、これ一本しかない貴重なものだ。滅多に手に入らなくてな」
里長が笑みを浮かべた。
「こりゃ美味しそうだね。あとは、ビスコッティが張った結界を解くだけだね」
私は笑って、大皿の結界を解こうとしたが、手をかざしても全く意味不明なルーン文字が流れてくるだけだった。
「こりゃダメだ。ビスコッティ本人がいないと解除できないよ。お預けだね」
「そ、そんな……」
カボチャ姫がしょぼんとしてしまった。
「うむ、待つのもいいが風呂に使いを出す。帰ってしまっては困るからな」
里長が手に持っていた呼び鈴を鳴らすと、警備の人が二人やってきた。
「女性がいい。風呂に使いをやってくれ。マグロの結界が解けないと」
警備の二人が頷き、部屋から出ていった。
「これでいいだろう。かえって楽しみだ」
里長が笑みを浮かべた。
「こら、カボチャ姫。しょんぼりしてないで楽しく会話して待とう。ビスコッティがきたら気にするよ」
「それもそうですね。私の畑にトマトエリアが出来たのです」
「ほう、カボチャしか作らない娘が……どういう心境の変化だ?」
「私がやったんだよ。プレゼントにもらった変なトマトを植えたら、ボコボコ増えちゃって。あっ、リンゴとスイカ食べる?」
私は空間ポケットからリンゴ一個とスイカ一つを取りだし、テーブルの上に置いた」
「な、なんだと!?」
里長が椅子から転げ落ちそうになった。
「あげるから食べてね。家の畑で採れたものだよ!!」
私は笑った。
里長が隠れるようにリンゴとスイカを自分の部屋に隠して戻った時、ビスコッティとスコーンがやってきた。
「ビスコッティのバカ。なんであんな結界使うの!!」
「冷やしてはダメなのです。冷やしても痛んでしまいます。冷凍は論外です。となったら、これしか……」
ビスコッティが慌てて、テーブルの上にあった大皿の結界を解いた。
すると、まるで今切ったかのような、みずみずしいマグロの赤身が現れた。
「うむ、美味そうだな。二人も食べていくといい」
里長の言葉に、スコーンとビスコッティが共に顔を合わせた。
「食事はたくさん人がいた方が楽しいよ。遠慮しないで」
私は笑った。
「では、お言葉に甘えて。はい師匠、よだれかけです」
「い、いらないよ!!」
ビスコッティが笑って開いている椅子の一つに座った。
「いっつも子供扱いだよ……」
ブチブチいいながら、スコーンも椅子に座った。
全員でいただまずをして、マグロに手をつけた。
ほんのりと冷えたマグロを小皿に取ったわさび醤油に付けて食べると、シャキっと締まった赤身が美味しく、たまにはいいなと思った。
四人でマグロに舌鼓を打ち、しばし雑談タイムとなった。
「そういえば、ビスコッティの方には行った事あまりないね。火事の時以来か」
「そうですね。あの火事で、師匠がしばらく魔法研究しなくなってしまって、どうなるkと思いました」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「だって、大して役に立たないけど、たまに読む魔法書が焼けちゃったんだもん。ビスコッティが直してくれたけど、ショックだったんだよ!!」
スコーンがビスコッティが淹れたお茶を飲みながら、ブチブチいいはじめた。
「それは、師匠が魔法薬の抽出装置の火を入れたまま寝てしまったからです。あの程度で済んでよかったです」
ビスコッティが『鮨』と書かれた湯飲みでお茶を飲んだ。
ちなみに、スコーンは『生魚』で里長は『飯』、カボチャ姫は『海苔』と書かれた湯飲みだった。
「そっか、大事なくてよかったよ。疑似召喚だったから水をぶちまけるしかなくてね」
私は苦笑した。
「疑似召喚とは?」
ビスコッティが興味ありげに聞いてきた。
「『血の盟約』で結ばれた相手がなにか強く思うと、呪文なしで擬似的に召喚魔法と同じように召喚されるんだよ。時間は二分くらいだけどね。私はスコーンと契約してるから」
「ああ、それで火事の時にいたのですね。ずっと疑問でしたが、謎が解けました」
「そういう事。さて、マグロも食べたし満足でしょ?」
私はカボチャ姫を突いた。
「はい、ありがとうございました。エーテル、人間社会はどんな感じなんですか?」
「ん、私は召喚魔法で喚ばれるくらいだし、たまに商隊の護衛もやったりするけど、知ってるとはいいがたいね」
私は苦笑した。
「そうですか……。私は知りたいです。どうすればいいでしょう?」
「そりゃ、直接出向くしかないでしょ。まさか、行きたいなんていわないでしょうね?」
私はカボチャ姫を睨んだ。
「行きたいです。少しでも肌で感じたいのです。お父さん、ダメですか?」
カボチャ姫の目は、どこまでも真剣だった。
「今度はそれか。こうなった娘は誰も止められん。三日だ三日で帰ってこい。ならば、特別外出許可を出そう。エーテル、護衛を頼むぞ」
「はぁ、今度はどこだ?」
私は苦笑した。
「なんなら、研究所を案内しようか。種族は問わない場所だから、少ないけどゴブリンの魔法薬研究者もいるし、違和感はないと思うよ」
スコーンが小皿の醤油を飲みながら、呟くようにいった。
「それならぜひ!!」
カボチャ姫が笑みを浮かべた。
「うむ、みな迷惑を掛けるがよろしく頼む。報酬は現金でこれで……」
里長がポンと財布を私に放った。
「かなりの大金じゃん。大丈夫なの?」
「問題ない。ビスコッティ殿とスコーン殿との間で分けてくれ」
里長が頷いた。
「私たちは気にしないで下さい。研究所から給料をもらっていますので」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「そうはいかないよ。……えっと、金貨十枚ずつでいいなかな?」
私は報酬を山分けした。
「これは、私たちも護衛ですね」
ビスコッティが笑った。
「そりゃそうだよ。私だって分からない場所だもん」
私は笑った。
時刻は昼前で、今から出ても研究所までは夕方になるだろうということだった。
カボチャ姫が急いで昼食の弁当を作り、いざ出発という段になって困った。
ビスコッティとスコーンは飛行の魔法を使えるが、私は使えないしカボチャ姫はそもそも魔法が使えない。
そうするのかと思ったら、朝に魚を持ってきた要領で、カゴに私たちを乗せて牽引していくとのことだった。
「浮遊の魔法は慣れないと怖いと思いますが、落としませんので安心して下さい。念のため、魔法のロープでカゴに固定してきますね」
ビスコッティが光る縄三本で私とカボチャ姫をカゴに括り付けた。
「では、行きますよ。師匠はエーテルさんを頼みます。ルートは645で」
「分かった。けど、あそこ最短距離だけど山岳地帯だよ。暗くなる前に抜けなきゃ!!」
スコーンが呪文を唱え、カゴと光る太いロープが私のカゴと接続された。
隣では、やはりビスコッティがカボチャ姫のカゴと自分自身に繋いだ。
「風圧が凄いと思うので、結界を張っておきます。では、行きましょう」
ビスコッティの声と共に青白い薄い結界が私たちを覆い、スコーンの魔法でカゴがふわっと浮いた。
「確かに、慣れてないから怖いね。こんな魔法もあるのか……」
フヨフヨと宙に浮かんだカゴが、急に前方に引かれた。
みていなかったが、スコーンもビスコッティも空に舞い上がり、感覚を確かめるように後ろをみた。
私とカボチャ姫が同時にOKサインを出すと、眼下に遠ざかる里をみながら、私たちは急速に加速した。
「こ、これは怖い……」
横のカボチャ姫なんかみている余裕はなく、草原上をひたすら進んでいくと、やがて山がちな地形になり、二人は山間の谷に入った。
曲がりくねった谷を進んでいくうちに、谷の終点にうがたれた洞窟がみえてきた。
「……嫌な予感」
私はカゴの縁を強く握った。
予感は的中し、二人はそのまま洞窟に飛び込んだ。
何度もここを通っているのか、二回あった急カーブをなんなくすり抜けると、私たちは洞窟の反対側に飛び出た。
『驚いたでしょ。私とビスコッティで掘ったんだよ。あと三カ所あるから覚悟してね』
腕輪からスコーンの楽しそうな声が聞こえてきた。
山間部を抜け、再び草原上に出る頃には、空には夕闇が迫っていた。
『ギリギリで到着しそうです。二人とも大丈夫ですか?』
ビスコッティの笑い声が聞こえた。
「私は平気だけど、カボチャ姫がどうか……」
私は横をみた。
すると、変な笑みを浮かべたまま、冷や汗をかいて硬直している姿があった。
「カボチャ姫には刺激が強かったみたい。完全に固まってるよ」
私は笑った。
『そうですか。到着したら、ゆっくり休んでもらいましょう。研究所の屋上に発着場があります』
「わかった。どのくらい?」
『もうすぐです。街がみえてきました』
前方を行くスコーンとビスコッティの隙間からみえた街は、これまで見た事がないほど広大で、私とてさすがに緊張してきた。
「畑はないみたいだね。どうやって食料を調達してる……ああ、現金で買うのか」
それくらいの知識はあったので、私はすぐに合点がいった。
私たちが街の高い壁を越え、巨大なドーム型の建物の屋上に到着した頃には、夜はすっかり闇になっていた。
「お疲れさまでした」
ビスコッティが縄やロープを切り、結界を解除すると同時に、スコーンも同時にカゴに繋がっていたロープを切った。
私はカゴから降りて、まだ固まっているカボチャ姫に空間ポケットからカボチャを取り出して渡した。
「ああ、カボチャです。カボチャがいました!!」
私は苦笑して、それで復活したカボチャ姫を立たせた。
「あの、ここは……」
「到着だって!!」
私は笑った。
ビスコッティが笑みを浮かべ、真新しい白衣を二着取り出して私とカボチャ姫に渡した。
「これを着て下さい。目立ってしまいます」
スコーンとビスコッティはそれぞれ自分の白衣をきて、私とカボチャ姫もそれに倣った。
「白衣なんて恥ずかしいね」
「はい、初めて着ました」
私とカボチャ姫が笑った。
「そういえば、お昼ご飯を飛ばしてしみましたね。せっかくです、ビスコッティさんの料理を頂きましょう。こちらが研究室です」
私たちは、ビスコッティの案内で建物の中に入った。
これが、遠足のはじまりだった。
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