第11話 里の近代化

 翌朝、小雨が降っていたが、私は窓の板を上げて里の様子をみた。

 すると、雰囲気が一転し素朴な小屋のような家が立ち並ぶ、より近代的なものになっていた。

「こりゃ凄いね。お礼いわなきゃ」

 玄関の扉を開けると、なんと石畳の舗装が完了していた。

「あれ、いいのかな……」

 私は慣れない無線機を弄り、里長に連絡した。

「おはよう。里長、舗装しちゃっていいの?」

『うむ、おはよう。ワシがビスコティ殿に頼んだのだ。職人どもが待ち時間も払いに入れてくれだの、早くしろだのうるさくてな。きっぱり断って、ビスコティ殿にお願いしたというわけだ』

「そっか、ならいいのか。お世話になりっぱなしだね」

 私は苦笑して、広場の石畳にポツンとあるスコーンとビスコティのテントをみた。

「……ん、結界を張ってるね。なにかあったのかな」

 テントは青白い光りに覆われ、それが弱い結界だと分かった。

 私は無線機でビスコッティに連絡を取ってみた。

「エーテルだけど、結界を張っているみただけどどうしたの?

『はい、おはようございます。テントのあちこちに穴が開いてたので、結界で守っているだけなので、心配しないで下さい』

 ビスコッティにいわれて思いだした。

 ただでさえメンテナンスしていないボロテントなのに、魔力抜きでビスコッティやスコーンの大暴れで転がったりしたので、より痛んだのは確かだった。これは、迂闊だった。

「ごめん、カボチャと新品のテントを持ってくるから、待ってて……いや、いっそ家に入って。カボチャ姫を叩き起こすから、一人ずつくらいなら入れるよ」

 ビスコッティの返事も聞かず、私は慌てて隣のカボチャ姫の家に走り、ノックもなしに扉を開けた。

 カボチャ姫はちょうど朝食の準備をしていて、慣れない調理器具でもあったのか、キッチンでワタワタしていた。

「大変だよ、スコーンとビスコッティのテントに穴が開いてて、結界を張って雨を凌いでいるみたい。三人は入れないから、同じビスコッティ同士で入って。私はスコーンに入ってもらうから!!」

 私の言葉に、カボチャ姫があっと小さな声を上げた。

「それは迂闊でした。準備します」

 カボチャ姫が慌てて部屋を片付けはじめた。

「準備できたよ。早く入って!!」

 私は無線機でビスコッティに連絡を取った。

『それには及びません。天候が回復魔法次第、すぐに帰る予定ですし、寝起きの悪い師匠がまだ寝ています。これで大丈夫ですよ』

 ビスコッティの笑い声が聞こえてきた。

「そうはいかないよ。里をここまで成長させてくれたんだもん。恩人を見捨てたら、里長に怒られちゃうよ!!」

『師匠を起こすのが大変なんです。それに、見捨てられている気はしません。楽しんでいますので、お構いなく』

 ビスコティの笑い声が聞こえてきた。

「……そっか。それじゃ、なにかあったらいってね」

 私は諦め、小さく息を吐いた。

「あの、片付けは」

 カボチャ姫が問いかけてきた。

「いらないって。なんか、心苦しいね」

 私は苦笑した。

「では、朝食を差し入れましょう。カボチャサラダのサンドイッチならできます。この前カボチャとパンを交換したので」

 カボチャ姫が笑みを浮かべた。

「そうしよう。それなら、いいでしょ」

 私は笑った。

「それじゃ、朝食を差し入れるよ。お腹空いたでしょ?」

『それはありがたいです。よろしくお願いします』

 今度はビスコッティから色よい返事がきて、私は満足した。

「よし、カボチャ姫。たくさん作るよ!!」

 私は笑みを浮かべた。


 できあがった大量のサンドイッチを木製のトレーに乗せ、小雨とはいえなるべく濡れないように布巾ををかけ、ビスコッティたちのテントに急ぐと、出入り口の部分だけ結界が解かれ、器用だなと思った。

「お待たせ、差し入れだよ!!」

 私が声をかけると、出入り口の布が開いて、ビスコッティの笑顔とまだスヤスヤ寝ているスコーンの姿があった。

「ありがとうございます。美味しそうですね」

 ビスコッティがトレーを受け取ってくれた。

「固いパンだから気をつけてね。日持ちしない柔らかいパンがないんだよ」

「それは問題ありません。お二人の朝食は?」

「ああ、まだだけどカボチャ姫が作っているから大丈夫。それじゃ、またね」

 私は笑みを浮かべ、カボチャ姫の家に戻った。

「どうでした?」

 カボチャ姫が笑みを浮かべた。

「うん、美味しそうっていってくれたよ。私たちも食べよう」

「はい、カボタージュです」

 ビスコッティが謎のスープを持って、ちゃんとした椅子とテーブルが揃い、その椅子の一脚に座っていた私の前に置いた。

「……なに、カボタージュって?」

「はい、カボチャのクリーム煮です。昨日物々交換したクリームが残ってたので、試しに作ってみました。どうぞ」

 カボチャ姫は笑みを浮かべ、テーブルを挟んで向かいの席に座り、カボタージュを食べはじめた。

「また変な料理を……」

 私は笑い、カボタージュを食べはじめた。

 里のクリームは濃厚だが、それとカボチャの甘い味が交わって、なかなか美味しかった。

「ごちそうさま。それにしても、雨が止まないとなにもできないね。私は帰るからカボチャ姫はカボチャ磨きでもしてて!!」

 私は笑って、自分の家に戻った。


 家に戻ると、私は照度を落としていた魔力灯の光りを心持ち上げ、昨日確かめられなかった水道やキッチン周りを調べた。

「へぇ、コンロも新品だね。魔力コンロか……。なんでも魔力だね」

 私は笑った。

 魔法が使えなくても、植物にしろ動物にしろ、生きている限り魔力は自然に放出されている。

 その微弱魔力を吸収して作動するのだろう。なかなか新鮮で便利なものだった。

「……ん?」

 キッチン台の下に小さな箱があり、『プレゼント』と書かれていた。

「なんだろ?」

 私はその箱を手に取り、蓋を開けた。

 すると、ピンクに白玉模様のスイカが入っていた。

「す、スイカ。滅多にないよ!?」

 私は思わず箱を取り落としそうになった。

 中には手紙が入っていて、植え方が書いてあった。

「えっと、穴を掘って埋めるだけ……? 雑だねぇ」

 私は笑った。

「これは急がないとダメだね。畑までいかないと!!」

 私は箱を抱えて、石畳の上を畑まで走った。

 石畳の舗装は畑の入り口まで伸びていて、泥で汚れる事もなく快適だった。

 私は畑の湿った土の上に入り、だいぶ狭くなった畑の隅っこに空間ポケットからとりだしたスコップで穴を掘り、中にピンクに白玉模様のスイカをドンと置き、土をかけて埋めた。

 水やりをと思ってその場を離れようとすると、早くも地中から芽がでて丸々とした大きなスイカが実りはじめた。

「……すげ」

 私は苦笑した。

「あとでカボチャ姫にみせてやろう。きっと、驚いてカボチャを落とすぞ」

 私は笑った。


 小雨に濡れながら家に向かってゆっくり歩いていくと、オークのリーダーと出会った。

「あっ、おはよう。どうしたの?」

「おはよう。実は食材を探しているのだ。料理出来る者はいるのだが、食材がなくてはな。どこかで手に入れたい」

 リーダーが笑みを浮かべた。

「あっ、そうだね。オークって確か雑食だったよね?」

「うむ、肉は手に入るか?」

 私の問いに、リーダーが申し訳なさげに答えた。

「あっ、なら里長の家に行って相談するといいよ。そろそろ、定期巡回している行商もくるし、普段積まないから今日は無理だと思うけど、明日には手に入るよ。野菜ならたくさんあるはずだから、今日はそれで凌いで!!」

 私は笑みを浮かべた。

「そうか、ありがとう。さっそく、里長殿の家に行ってみよう」

 リーダーは笑みを浮かべ、里長の家に向かっていった。

「すっかり忘れていたよ。まあ、みんないい人みたいだから、そのうちお互いに慣れるか」

 私は笑みを浮かべた。


 畑から戻ると、いきなりドカンと大きな音が聞こえ、私は慌てて外にでた。

 すると、スコーンとビスコッティがいるテントから黒煙が上がっていた。

「な、なに!?」

 私は慌ててテントに向かった。

 結界は解かれていて、慌ててテントの中を覗くと、黒焦げになった布団があり、テントがさらにぶっ壊れていた。

「ど、どうしたの!?」

「ゲホゲホ……。ちょっとしたミスです。気にしないで下さい

 顔をススだらけにして、髪の毛がチリチリになったビスコッティが笑みを浮かべた。

「ちょっとどころじゃないよ。眠いのに私を叩き起こして、これなんですか? って魔法書なんか差し出したから、間違った事教えちゃったじゃん。そりゃ爆発するよ。私のせいじゃない。ご飯!!」

 本気で寝起きが悪そうなスコーンが、ビスコッティに手を差し出した。

「はい、師匠。朝食です」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、私とカボチャ姫が差し入れたカボチャサラダのサンドイッチを手渡した。

「うん」

 顔中真っ黒なスコーンがそれを受け取り、固いパンなのに易々と噛みちぎって、目を丸くした。

「あれ、これ美味しいよ。ビスコッティ、どこで買ってきたの?」

「エーテルさんが差し入れて下さったのです。私も頂きます」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「まあ、正確にはカボチャ姫が作って、私は持ってきただけだよ」

 私は笑った。

 その時、カボチャ姫の家の扉が開いて、メイスを持って飛びでてきた。

「遅れました、敵ですか!?」

「違うよ、私には分からないけど事故らしい。サンドイッチ、美味しいって」

 私は笑った。

「ならよかったです。美味しかったら嬉しいです」

 カボチャ姫が笑みを浮かべた。

 いつの間にか小雨も止んで、雲の間から時折太陽がみえるようになってきた。

「あっ、もう大丈夫そうです。テントを壊してしまって申し訳ありません」

 ビスコッティが頭を下げた。

「いいよ、どうせ廃棄だったし。はい、お風呂。その顔じゃ帰れないでしょ?」

 私は笑った。


 巡回牛車が動き出しだようで、ゴミになったテントを畳んで焦げた布団もまとめたところにちょうどよくやってきたので、それを止めて荷物と一緒に荷台に乗り込み、里長の家に向かった。

 しばらくして家に着くと、オークのみなさんが野菜スープを大鍋で作って食べていた。「よかった、食事できたみたいだね。さて、お風呂入ろうか」

 私は荷台からゴミを蹴り落とし、みんなで風呂に向かった。

「ダメだよ。ちゃんとゴミは片付けないと」

 スコーンが私の手を引いた。

「大丈夫。こういうゴミは商隊が回収していくんだけど、その仕組みは里長しか知らないから、みんなこうしてるよ。ほら、早く!!」

 私はまだ腑に落ちない様子のスコーンを急かして、私たちはお風呂の脱衣所に向かった。

 脱衣所に入ると誰もいないようで、私たちの貸し切り状態だった。

 服を脱いで体を洗い、湯船に入ると髪の毛チリチリ頭のビスコッティが大きく伸びをした。

「その髪の毛大丈夫なの?」

 私は心配になって問いかけた。

 髪の毛が短いぶん、スコーンに至っては大爆発していた。

「あっ、大丈夫です。私たちがいる魔法研究所に、これを直すマシーンがあります。しょっちゅう暴発事故が起きるので、そこは問題ありません」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「ビスコッティのせいだからね!!」

 スコーンがビスコッティをビシビシ引っぱたいた。

「やりましたね。こうしましょう」

 ……スコーンの全身がピンクに白玉模様に染まった。

「よし、分かったみたいだね」

 スコーンが笑い、呪文を唱えビスコッティに巨大金だらいが落ちた。

「ごめんなさいは?」

「……ごめんなさい」

 スコーンは笑みを浮かべ、自分でピンクに白玉模様を消した。

「ちょっと待って。今の金だらいって召喚したの!?」

 私は思わず声を上げた。

「うん、自分で開発したんだ。これ以上やる気はないけど、お仕置き用に最適だよ。さっきの金だらいは研究室にある!!」

 スコーンが笑った。

「え、えっと、金だらいとどうやって血の契約を!?」

「血の契約なんかしてないよ。実際は転移魔法の応用かな。正式な召喚魔法じゃないけど、似たような事はできるんだよ」

 スコーンが笑った。

「そっか。いや、血の契約が出来るなら、解除方法も知らないかなと思っただけ。もう、召喚されるのは嫌でね」

 私は苦笑した。

「イテテ……。はい、血の契約の解除はできません。呪術について、多少心得はありますが、血の契約は一族が滅ぶまで継続される最悪の呪縛です。師匠と結んだ血の盟友の契約は一代限りなのですが……。この里はあまりに血の契約を結んだ人たちが多くて、契約外の方も召喚されかねません。非常事態ともいえるでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そうなんだよ。一族の誰とも血の契約を結んでいない、このカボチャや里長まで召喚されちゃった事もあるほどなんだよ。不思議と子供には効かないみたいだけど」

「呪縛の効果が出るのは十五才からです。塔も立たない子供では、まだなにも出来ないので」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、頷いた。

「なるほどね。まあ、一生召喚獣でいる覚悟はできてるから、ちょっと確認しただけ」

 私は笑った。

「しかし、この混乱している呪力線はなんとかしないといけませんね。あっ、呪力線というのは、召喚時に引かれるロープのようなものだと思って下さい。これが、召喚主とランダムで接続されると召喚されるのですが……。契約外の方を守る事は出来ます。やっておきましょう」

 ビスコッティは呪文を唱え、激しい光りが一瞬弾けた。

「あっ、肩が軽くなりました。ありがとうございます」

 カボチャ姫が笑みを浮かべた。

「この里だと、あとは里長くらいだよ。今頃喜んでいるんじゃないかな」

 私は笑った。

「こんがらがった呪力線を整理しました。私に出来るのはここまでです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。


 お風呂から上がると、私が捨てたゴミが片付けられていた。

「ほら、ゴミがなくなったでしょ。ここは、燃えるゴミは奥にある焼却炉、野菜くずなんかは堆肥置き場、燃えないゴミだけこうしているんだよ」

 私は笑った。

「ホントだ、でも複雑……」

 スコーンが苦笑した。

「師匠、郷に入っては郷に従うでしたよね。ここのやり方に口だしは禁物ですよ」

「いわないけど、片付ける人は大変だね」

 スコーンが笑った。

 空に太陽が戻り、これなら快適に帰れるだろうと思った。

 ビスコッティが小さく笑い、一枚の紙を差し出した。

「これが、爆発の原因です。常に私たちがいるわけではないので、創成魔法で作ったものの呪文です。これを自分の魔法に変えるのは楽でしょう。呪文を唱えて『直れ』といえば直りますし、『壊せ』といえば壊せます。家の増築や解体も同じです。簡略化していたのです」

「そうなんだ、ありがとう。確かにこれならすぐに呪文を組み立てられるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「それでは、私たちは帰ります。また、近々訪ねますね」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「待って、なにか感じる……」

 スコーンが目を細めたのとほぼ同時に、警鐘が鳴りはじめた。

「なに!!」

 私は無線で見張り役に連絡した。

『野良……』

「私の方が早い!!」

 無線の返事も聞かないうちに、スコーンが呪文を唱え、無数の炎の矢が空に向かって山なり軌道で飛んでいくと、どこかで爆音が轟いた。

 警鐘が一瞬止まり、危機が去った事を示す鐘が二回打たれた。

『なんだ今の。エーテルか?』

「そんなわけないでしょ。客人の凄腕魔法使いだよ。気配を察する能力は、もしかしたら私以上じゃない。お疲れさま」

 私は苦笑して、無線機をポケットに戻した。

「スコーン、よく分かったね」

「うん、攻撃魔法専門だもん。このくらい分からなかったら、覚えている意味がないよ!!」

 スコーンが笑った。

「もう、私の仕事取らないでよ。ありがとう」

 私は笑みを浮かべた。

「さて、私たちは帰ります。また、折を見てきますね」

「うん、今度は無理しないでよ!!」

 私が笑うと、ビスコッティが笑みを浮かべ、スコーンが笑った。

 そして、二人で呪文を唱え、空に舞い上がってあっという間にみえなくなった。

「いやー、これは二人の別荘を建てておかないといけないかな。毎回テントじゃ不便だろうし」

 私の家の隣には、狭いながらも空き地がある。

 ビスコッティが渡してくれた魔法の練習がてら、それも悪くないと思った。

「よし……呪文はできた。これで、作業できるね」

 私は笑った。

「あの、エーテル。キッチン台の下にこんな箱があったのですが……」

 カボチャ姫からビスコッティに戻り、そんな彼女がポケットからとりだしたのは、小さな木箱で『プレゼント』と描かれていた。

「あっ、それ私もあった。開けてみなよ」

「はい……」

 ビスコッティが箱を開けると、ピンクに白玉模様の小さなトマトだった。

「と、トマト!?」

 ビスコッティが声を上げると、私は笑った。

「いいものもらったね。さっそく畑に行こう!!」

「え、えっと……」

 戸惑うビスコッティの手を引いて、私は畑に向かって走っていった。


 畑に到着すると、渋るビスコッティからトマトを奪い、彼女の畑の奥に土を掘り、そっと中にいれてみた。

 すると、すぐに芽が出てトマトが腐らないように付ける粗い目で作った竹垣もでき、あっという間にちょっとだけトマトが成った。

「思ったより狭かったね。遠慮したかな」

 私が笑うと、ビスコッティが近寄ってきた。

「私のカボチャ畑にトマトが……これ、どうしましょう」

 ビスコッティが、どうしていいか分からない様子だった。

「決まってるじゃん、食べるんだよ。あと、物々交換の時も便利だよ。トマトは貴重品だから」

 私が笑うと、ビスコッティが笑みを浮かべた。

「なるほど、そういう事ですか。新しくトマト料理を開発します」

 ビスコッティが笑った。

「そうだ、いいものみせてあげる。おいで」

 私はビスコッティの手を引いて自分の畑に入り、すでに作物でギッシリの私の畑にあるスイカをみせた。

「す、スイカ!?」

「これが、私へのプレゼントだったよ。ある意味、大金持ちだよ。リンゴもあるし」

 私は笑った。

「凄いですね。一個持ち帰って食べませんか?」

「そうしたいけど、ポケットに入らないし、目立つとまずい……あっ、空間ポケットがあった」

 私はハサミを手にスイカを一つ収穫し、空間ポケットに収めた。

「よし、いこう」

「はい、楽しみです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。


 ビスコッティの家に入った私たちは、空間ポケットから取りだしたスイカを取り出し、ビスコッティが包丁で適当なサイズに切り分けた。

「確か、塩を少しかけて食べると美味しかったんだっけ?」

「はい、そう聞いています。冷やすとさらに美味しいそうですが、今はまず味を確かめてみましょう」

 ビスコッティが皿に盛って、テーブルに置いたスイカの一欠片を持って少し塩を振り、シャクシャクと音を立てて食べはじめた。

「うん、美味しい。これが、スイカか……」

 私とて、スイカを食べたのは一回だけだった。

 そのスイカと比較して、これはみずみずしくて美味しかった。

「あっ、あんたの畑のトマトも二つ収穫してきてある。こっちも食べよう」

 私はポケットからトマトを取り出した。

「味をみたいから、丸かじりね。こっちも、少し塩を振って食べると美味しいよ」

 私は一個手に取って、塩を振って食べてみた。

「……これ、おいしい」

 私は思わず涙がでた。

 大好物でもあるが、それを差し引いてもこれは青臭くもなく、とても美味しかった。

「え、エーテルが泣いた。そんなに美味しいなら……」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、トマトを囓った。

「当然、私もトマトの味は知っていましたが、これは色々調理出来そうですね。美味しいです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「うん、トマトスープとか美味しそう」

「はい、そこに刻んだカボチャを入れると美味しそうですね」

 ビスコッティが笑った。

「いいトマトもらったんだから、ちゃんと世話するんだよ」

 私は笑ったのだった。

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