第5話 熱い日
キャンセル時間の終わりを告げるアラームが鳴ったので、私はハンモックから下りよう下りようとして、隣に寝ていたビスコッティを蹴り落としてしまった。
土の床とはいえ、やはり痛かったようで、ビスコッティが目に涙を浮かべながら、私は慌ててハンモックから飛び下りた。
「事故だよ事故。その手にある鎌を捨てて!!」
ビスコッティはぶち切れオーラ全開で、私に向かって振り下ろしてきた。
「だ、だから、事故だって。それ手放さないと、もう泊めてあげないよ!!」
私が怒鳴ると、ビスコッティが鎌を捨てて、その場で小さくため息を吐いた。
「また寝ぼけた……。ごめんなさい」
「いいよ、蹴り落としたの私だし」
私は笑った。
「よかった、朝食作るよ」
ビスコッティが笑みを浮かべ、キッチンに立った。
しばらくすると、ビスコッティが料理をテーブルに運びはじめ、急いで食べた。
キャンセルスイッチの効力が切れた今、いつ喚ばれてもおかしくなかった。
「はぁ、ご馳走様って、いったそばから……」
私の体を金色の光りが包んだ。
「あれ、珍しい。金色って事は『同業者』か……」
私が苦笑した時、意識が一瞬飛んでどこかの火山の麓で派手に溶岩が吹き上がり、召喚獣の無敵さをもっていても、これは熱かった。
「おーい、どこにいるの?」
私は大声で避けんだ。
「ここです。困ってしまって……」
なんだか泣きそうな華奢でポッキリ折れてしまいそうな見た目の、森の精霊ことエルフが途方に暮れていた。
「なに、こんな場所に置いていかれて独りぼっちだったの」
「はい、いきなりこんな場所に喚ばれてしまって……。とにかく、火山の噴火を収めろ。手段は問わないとだけといわれて……。そんな手段など知りませんし、どうしたものかと」
話しを聞いて、私は鼻を鳴らした。
「全く、ほったらかしで命令もいい加減……。手段は問わないんでしょ?」
私は笑みを浮かべ、呪文を唱えた。
「この野郎!!」
私は火山の麓に向けて、自分で使える最強の攻撃魔法を叩き込んだ。
瞬間、山が消し飛び溶岩流の飛沫が撒きらされた。
「すぐさまこれ!!」
私は素早く土の魔法を唱え、山が消し飛んだ穴からドロドロ流れ出ている溶岩流を堰き止めるために、大量の土砂を放り込み、さらに氷の魔法で見渡す限りの氷原にしてやった「手段は問わないんでしょ。この氷、十年は溶けないから」
私は笑った。
「あ、あの……あっ」
名も知れぬエルフの子は、そのまま召喚円の中に消えていき、私は鼻から息を吐き出した。
「今回は召喚主が悪い。道具じゃないんだぞ。全く……」
数秒遅れで体が光りに包まれ、私は元いた里の自宅に戻った。
「あっ、おかえりなさい。これが終わったら帰ります」
ビスコッティが掃除をやってくれていたようで、土の床を丁寧に掃いていた。
「ただいま。どうにも、胸くそ悪い召喚だったよ」
私は苦笑した。
「そうですか。お疲れさまでした」
ビスッコティは手早く床掃除を終わらせ、自分の家に帰っていった。
「ふぅ……」
私は一つ息を吐くと、戸棚に詰まっている薬瓶を一本取りだし、消費した魔力の回復をした。
「これでよし」
私は一息ついて、私は笑みを浮かべた。
「大技三連発か。我ながら、無茶したもんだ」
笑いながら、私は久々にキッチンに立った。
「あれ、もう準備できてる……」
そこには、蓋を閉じた鍋があり、蓋を開けるとお馴染みカボチャの煮付けが入っていた。
「さすがだね。よし、温め直そう」
私は落とされていたコンロの火を立てて、カボチャの煮付けを温めはじめた。
ほどいいところでコンロの火を落とすと、私は鍋ごとテーブルに持っていき、床に座って食べはじめた。
「相変わらず、美味い」
私は笑みを浮かべた。
結局、鍋一杯の煮付けを食べ終え人心地ついた頃、不意に警鐘が聞こえた。
「なんだ、またゴブリン?」
私は苦笑して立ちあがり、扉を開けるときな臭いニオイと灰が里中に降り注いでいた。
「エーテルこっち!!」
ビスコッティが真剣な表情で、私の手を引いて走りはじめた。
「こっちって、病院じゃん」
「はい、聞いた話だと病院に併設されている魔法薬精製施設で爆発が起き、そのまま炎上したそうです。入院患者は全員避難したとのことでした」
ビスコッティが、私の手を引きながら加速した。
病院は重要施設なので。石造りの立派な五階建てだったが、現地に到着すると熱でやられてしまっているのか、少しひしゃげた感じになっていた。
「まず、消火要員に退避してもらわないと……」
私がいうまでもなく、ビスコッティが人払いをはじめ、里長も出てきて人だかりの交通整理をはじめた。
「……こりゃ建て直しだね。だったら、きれいにぶっ壊しておこうか。
私は建物周りに人がいなくなった事を確認し、ビスコッティと里長がやってきて作業完了の旨を伝えくれた。
「それじゃいくよ。攻撃魔法なんか使ったら危ないから……穴ぼこ」
私の呪文によって病院の敷地内を包むように、少し派手な半透明の五芒星が燃える病院を包むように広がった。
「……最終確認。本当に大丈夫だよね?」
私が確認すると、里長とビスコッティが頷いた。
「じゃあ、行くよ!!」
私が止めていた、呪文の最終節を唱えた。
瞬間、病院の建物がズボッと地面に吸い込まれ、先の掘削で掘り起こした土砂で穴を埋め……あとは、自警団の仕事だった。病院跡地に積もった土砂を小まめにならし、小さな陥没箇所の突き固めを作業ではじめた。
「よし、ここからは俺の仕事だな。二人は戻っていいぞ」
里長が笑みを浮かべた。
「では、お言葉に甘えて」
私はビスコッティと一緒に帰った。
家に帰ると、私たちはレモン水で一服した。
「それにしても、朝から火山の噴火で大暴れして、今度は火事。今日は熱いな」
私たちは笑い、開け放ったままにしてある扉から、午後になっていく日差しを眺めた。
すると、また召喚円が開き、赤い光りが二回光った。
「……うわっ、相当ヤバいやつ警報。でも、いくしかないか」
私は苦笑した。
飛び出たその先は、まるで土釜のように強烈に熱い空間だった。
「よ……、噂のゴブリン。よかった……」
弱々しい笑みを浮かべたいかにも魔法使い然とした女性は、気を失うスレスレで、なんとか持ち堪えている様子だった。
私は氷の魔法でドーム型の結界を作り、まずはその女性を中に入れた。
「すげぇな……」
一人軽装で短刀を持っていた男性が、ポソッと漏らした。
「ほら、関心してないで残りをそのドームにいれて。アイツは私が引きつける!!」
いうが早く、私は自分にも氷の防御膜を身に纏うと、全身から激しく炎を上げているドラゴンの中でも一番面倒なヤツだった。
「フレイム・ドラゴンか……よし、あれでいこう」
私はドラゴンスレイヤーを抜き、次のブレス攻撃を待った。
こちらを振り向いたフレイム・ドラゴンが、ただでさえ熱いのに余計に熱くなる派手な炎の吐息を撃ってきた。
私はドラゴンスレイヤーを立てて構え、そのブレスを縦に切り裂き、狙いをはずしたブレスが壁に当たって爆発し、その熱風に乗るように私は一気に相手との距離を縮めた。
実はこのフレイム・ドラゴン。防御の要たるなんでもかんでも弾き飛ばす竜鱗を持たず、さらに、普段から高熱で自分の体を覆っているので、近づけさえすれば普通のロングソードでも倒せる。
ブレスを吐いたあとの隙を突いて、私はダッシュしてフレイム・ドラゴンに肉薄した。 恐らくフレイム・ドラゴンはブレスを全力で撃つのだろう。
ほんの数秒ではあるが、隙はそこにあった。
「よっ!!」
ダッシュの勢いも借りて思い切り跳んだ私は、そのままフレイム・ドラゴンの首筋に切っ先を叩き込んだ。
ちなみに、私たちゴブリンの跳躍力は、平均すると五メートル強あるので、こんな事もできる。
首がゴロリと落ち、胴体が崩れ落ちる前に私はフレイム・ドラゴンの背から飛び下りた。
「ふぅ、なんとかなったね。氷ドームはどうかな……」
私は先程作った氷ドームに向かった。
「一応様子を見にたけど……。あっ、これなら全員治療できる」
全員が凄まじい火傷。しかし、命さえ失っていなければ、私の回復魔法で治療可能だった。
私は呪文を唱え、全員の傷を治療した。
「……全員気絶か。まあ、無理もないけどね。さて、時間だね。みなさん、お大事に」
私は貴族式の丁寧なお辞儀をしてちょうど時間となり、私の意識は一瞬暗転した。
家に帰ると、ビスコッティは自宅に帰ったのか扉が閉められて、誰もいなかった。
「えっと、もうすぐ夕方か。一日が早かったなぁ……」
そういえ、今日の畑をみていないが、今から初めても夜になってしまうだろう。
無理せず今日は休もう。
私はこの前交換した米を保存庫から取りだし、キッチンに戻って米を洗い、鍋で炊飯をはじめた。
そこにビスコッティがやってきて、軽く鼻を鳴らした。
「あの、もしかしてお米ですか?」
「うん、この前物々交換で手に入れたんだよ。今夜は、ちょっと贅沢してみようかと……」
私は笑った。
「分かりました。私もご飯に合うレシピと材料を持ってきます。ちょっと待って下さいね」
ビスコッティが急いで出ていって、私は笑った。
「これで、やっと熱い日は終わりかな。やれやれ……」
私は苦笑したのだった。
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