4-1話 暮れ行く街で~野菜と肉と紫外線~

風一つない夜だった。

昼間では日差しが強くやや風が吹いており、気温は30度という真夏日であった。

6月にしてはかなり暑かった。

「6月は意外と紫外線が強いから、日焼け止めは必須だにゃー。にゃー。」

と口々に街ゆく猫たちは呟く。

日が落ちると、すっかり涼しくなり、風も止んだ。不思議なくらいに。


暮れ行く街で、

サラリーマンの猫、いちごは、猫徳寺のスーパーで買い物をしていた。

おや、タマネギが安いにゃ。

だったらタマネギ多めで、食魔界の野菜も使っていくにゃ。

いくつか野菜と肉を買い、いちごはスーパーを後にする。

これから食悪魔のための料理を作るのだ。



「こんばんは!いちごさん!元気してましたか!」

前回キャンディーヌが来た日から一週間後、食悪魔ソバユは来訪した。

いちごはすり鉢で胡麻を擦っていた。

「うわ!すっげ良いにほひ!胡麻の!」

「………いかんいかん我を忘れるところでした…今日は食べられないんだった…」

ソバユが両手で顔をぱんぱん叩き、正気を保とうと努力しているようだ。

「また注文かにゃ?」といちご。

「…いちごさん。この間は久しぶりにおいしい料理ありがとうございます!私また元気貰っちゃいました!あれからキャンディーヌ先生、仕事上手くいってるらしいですよ!」

ソバユはにっこにこで言った。

「それはよかったにゃ。」

「それにバーニャカウダを噛まずに言えるようになったみたいで、毎日感謝のバーニャカウダ連呼をしているそうです!いちごさんのお陰です!」

「ミーのお陰をこうむって、奇行に走ってしまったとにゃ。」とごりごり胡麻を擦りながら答えた。

「感謝のあらわれです!それに今度連れてくるお友達は、もっと変わってるかも!」とソバユ。

「お帰り願うにゃ。」

「いっいや違うんです。キャラも立ってますけど、警備員で立ち仕事なのに、寝不足で、よく仕事中一瞬だけ寝て、すぐ起きるので、しょっちゅう白目をむくんです。本人も仕事が続けられるか不安だそうです。」

「病院に行ってるのかにゃ?…」

「本人は、満足した食事じゃないと熟睡できねー!と。いっぱい野菜が食いてー!でも肉も食いてー!って言ってました。」

「ミーは栄養士でもなければ、医者でもないにゃ。症状の改善には責任持てにゃい…じゃあ今度は野菜と肉が食べたいんだにゃ?」

「お願いします!食悪魔はたいてい舌が良くなれば何とかなるし!」

「どんな生物にゃ。」

「あっそう言えばいちごさん。食魔界の食材大丈夫でしたか?おいしく食べられそうですか?」

「まあ別に…普通に食べれると思うにゃ。いくつか調理したし、ちょっと変わったものもあるけど、そんなに食べにくいわけじゃないにゃ。本もあるし。」

「すげえです!いちごさん!じゃあ1週間後また来ます!楽しみにしてます!」

ソバユが帰ってしまった後、いちごは擦り胡麻と砂糖、しょうゆを混ぜていた。

「じゃあ今日は食魔界野菜を胡麻和えにしてみるかにゃ。」

いちごの傍らには、付せんを沢山つけた、料理本が置いてあった。

料理家オコワ著『食魔界食材の下ごしらえ法』

前回の報酬でもらった本だ。



そして1週間後。

買い物を終えたいちごは、食魔界の野菜を使った料理に取り組んだ。

そして大体野菜の仕込みは終わった。

ドレッシングもできた。

あとは肉とタマネギを炒めて盛り付けるだけ。

だが、出来立てを出したいから、食悪魔たちが来てから焼くにゃ。

時刻は19:10。

そろそろ来る頃にゃ。

いちごが準備を整えて待っている。

すると

がたん!ごん!

今の音はなんだにゃ?

明らかに玄関からじゃない。

ベランダから聞こえたにゃ。

いちごはベランダに向かった。

そこには

物干しざおが見事に落っこちていた。

あとは

見知らぬ悪魔が一人、うつぶせで倒れていた。

どうやら、ベランダのフェンスにぶつかって墜落したようだ。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。」

なにやらお経を唱えながらうずくまっていた。

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