第4話 仕事
「朝食を済ませたことだし、イチヤにこの世界について教えるか。」
朝食を食べ終え、暇していた僕とメリッサと
アヤに向かってシュウヤが言った。
「そうだね、じゃあ何から教える?」
「まず俺たちの能力についてだ。」
シュウヤは話し始めた
「俺の能力は身体能力強化。文字通り筋力や身体能力が大幅に向上する。人間離れした攻撃や、とんでもない速度で走れたりする。」
初めて会ったときにシュウヤがとんでもない怪力だったのと、すごい速さで走っていたのを思い出した。
「次はメリッサだ、よろしく」
「はーい、私の能力は見ての通り腕の触手だよ。」
「私の触手はね、細かい形は無理だけど変形したり、硬さを変えたりできるの。こんなふうに」
メリッサはそう言って触手を薄くし、ナイフのような形にした。
「シュウヤと違って私の触手にはいろんなタイプがあるの。私のは半透明で変形できる
タイプだけど、変形できないやつもあるよ。
そういうやつは力が強い。」
「あと、私のは置き換えタイプだね」
「置き換え…ですか…」
「元々腕があったとこが触手になってるからね、背中から生えてきてるやつとかもいるし、体が全部触手に置き換わって触手だけになったやつもいるよ。」
「次は、イチヤだな。」
「イチヤの能力は見たところ再生能力だ。」
「お前は再生するときに体の組織が浮き出るようにして再生してた。これは治癒能力が向上してるタイプだ、厳密には違うが。」
「再生能力にもいろいろいる。お前みたいな治癒タイプと、明らかに体の組織じゃないものが内側から出てきてそれが体を治すタイプがある。」
「どういうことですか?」
「文字通りだ。俺が見たことあるのは怪我したとこから、真っ青な液体が出てきたやつと、煙が出てきてて治るやつがいた。」
「弱点は治癒もそうじゃなくても大体一緒だ。ただイチヤみたいな治癒タイプは別だ」
「別?」
「煙とか液体とかは少しでも肉片が残っていたらそこから再生する。きっと自分の体とは別に何かいるんだろうな。気持ち悪い」
「だけどイチヤは体の治癒能力が強化されてるだけだから即死の攻撃を食らったら死ぬ」
「即死って、例えばどんな…」
「心臓と脳を抉りとられるとかだ。ただ何故か腕とかは切られても再生するからよくわからん。トカゲみたいなもんなのかもしれない。」
「じゃあ…どうやって倒すんですか?」
「簡単だ、どんなタイプにしろ眠らせるなりして地下シェルターとか落とし穴とかに拘束しておけば餓死か窒息して死ぬ。」
「よく知ってますね…」
「仕事柄な。そうだ、仕事も教えないとな。」
仕事…彼らの、初めて会ったときのことでなんとなく想像がつく。
殺人、組織、雇い主、雇われ…
「戦っているときに聞こえました。雇われで殺人をしているんですか?」
「察しがいいな。そうだ、俺たちは殺人、暴動への加勢、組織への襲撃、そういうのを雇われでやってる。」
「と、ここまでは表向きの仕事だ。」
「表向き?」
「俺たちの目標は上の奴らへの復讐だ」
彼は静かに、しかし燃え盛るような怒りを内に込めて言った。しかし僕が感じたのは恐怖でも驚きでもなく、喜びだった。
「え、え…」
「俺たちはここに落とされてから、それを目的として生きてる。そのためにこの仕事をしながら生活してる。」
「ぼ、僕もです!」
「あ?」
「僕も上の世界を憎んでいたんです!考えは同じだったんですね!だったらなんでもっと早く…」
「ああ、だろうな」
「え…?」
意外な返答に戸惑った。見抜かれていた?
「ここじゃ私たち含めてほとんどの人がそう思ってるよ」
アヤを膝に乗せて隣に座っていたメリッサが口を開いた。
「理不尽な理由をつけられてここに落とされた人がほとんどだからね。私も違う人種と付き合ってただけで一緒に落とされたんだから。向こうは死んじゃったけどね。」
「僕もです…僕は病気で斑点が出て、その次の日に落とされました。能力で治ったので今はないですけど…」
「そんなもん俺と比べりゃ…まあいい、そういうことだ、俺たちは。仕事内容もわかったんだし、これからは戦力になってもらうからな、イチヤ。」
「え?…いや、あの?武器とかは…?」
「物置に拳銃があるから好きなのを選べ。お前なら頭と心臓が同時に吹っ飛ばないかぎり傷は治るだろうが。」
物置に行ってみたものの好きなものを選べと言われたのに、埃を被ったハンドガンと機関銃くらいしかない。埃を被ってるってことは
使われてないってことだし…でもシュウヤみたいにバット振り回せるほど筋力ないし…
かといってナイフとかじゃ心無いし…
仕方なく銃を選んだ。機関銃は重すぎたから
ハンドガンにした。銃には詳しくないけど自分の銃がリボルバータイプなことくらいはわかる。
これ…装填に時間かかるんじゃ…いや攻撃されても平気なんだった。
痛いけど、死なないから安いもんだ。
こうして本格的にワームでの仕事が始まったものの、彼らについていけるかは正直なところ全く自信がなかった。
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